星のプランツガーデン

森野ゆら

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7章

夏の収穫

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「豊作だ~♪」

 青い空の下。すばるのゴキゲンな声が響く。
 かごにはさっき収穫したトマト、なすび、オクラ、ピーマンが山盛りだ。
 向こうの畝で風斗が残りのオクラを収穫中だ。

「だいたいとれたかな~。あ、里依ちゃんが育てたプランターのトマトはとった?」

「いや、まだだ」

「じゃあ、とっておいでよ。たくさん実がなってたし」

 すばるにうながされて、プランターへと歩いていく。
 フェンス際に置いてある、私が植えたミニトマト。
 葉をのびのびと伸ばして、赤い実がたくさんなっている。
 大きくなったものだ。
 すばるに念のため確認したが、毒はないとのことで安心だ。
 一つ一つ、慎重にとって、小さなバケツに入れ終わった時、

「里依ちゃーん、風斗、調理室に行こう」

 すばるの声が聞こえてきた。
 調理室? なんでそんな所に。
 不思議に思いながら、収穫した野菜を持って調理室へ向かった。
 調理室に入ると、エプロンをつけた数人の女子たちが鍋やまな板を出して、何かの用意をしている。

「だれなんだ? この方々は」

 きくと、すばるがニッと笑った。

「家庭科クラブのみんなだよ。お手伝いをお願いしたんだ」

 お手伝い? なんのだ? と、すばるにきこうとしたら、

「日生くん、たくさんとれたわね!」

 エプロンをした先生がやってきた。

「はい! これ全部お願いします」

 すばるが野菜いっぱいのかごを渡すと、先生がにっこり笑った。

「オッケー! 任せて!」

 家庭科クラブのみなさんが、手際よく野菜を洗い、切っていく。
 作業台ではコロコロと棒を転がして、丸いカタマリを平たくしている。

「空山さん、野菜切るの手伝ってー!」

 作業をぼんやり見ていたら、野菜チームから声がかかった。
 収穫したミニトマトがまな板の上にのっている。
 おお。これは、私が育てたミニトマトじゃないか……
 はい。と包丁を渡され、まな板の前に立った。
 ミニトマトを押さえて、包丁をそっと入れる。
 くっ。小さいから真っすぐに切るのが難しいな。
 トマトを切るのに悪戦苦闘しながらも、家庭科クラブのみなさんのおかげもあって、すべての野菜を切り終えた。

「さー、みんなでトッピングしよう!」

 先生の呼びかけに、わっと声が上がる。
 丸く伸ばした生地の上に、野菜やチーズをのせていく。

「うわー。もうこの時点でおいしそう」

「ほんとだねー」

 具をのせ終わったピザを、調理室にある全部のオーブンに入れた。
 しばらくすると、あちこちからおいしそうなにおいが漂ってきた。
 ぐうぅ。
 だれかのお腹の音が鳴った。
 顔を赤くしてすばるがうつむいた時、

「失礼するよ。今日はお招きありがとう」

 突然、調理室に入ってきたのは、児童会長と児童会の水沢さん。
 みんながびっくりしてると、すばるがほほえんだ。

「ぼくが呼んだんだ。量が多いからみんなで食べるといいかなって。あとは放送クラブの……あ、来た来た!」

「おっじゃましまーす! うわー、いいにおいだね!」

 放送クラブの柚木さんと佐谷さんが入って来た。
 すばる、柚木さんたちも呼んでたのか。

「おーい、あなたたちも入りなよ~」

 柚木さんが廊下の方を向いて呼びかけると、「お、おじゃまします……」と気まずそうに三つ編み女子とメガネ女子が入ってきた。

「あ、来てくれたんだね。入って、入って!」

 すばるに背中を押されて、二人が調理室に入ってきた。

「この二人まで……」

 言うと、すばるが私の顔をよせてきて、こそっとささやいた。

「二人はね、荒らされた畑を直すの、手伝ってくれたんだ。里依ちゃんを疑ったことも謝ってくれたよ」

「そうだったのか……」

 意外に思って、二人の方を見た時、オーブンからピーッと音が鳴った。
 家庭科クラブの子たちが、ミトンという手袋をして、オーブンからトレイを取り出した。

「うわぁ、おいしそう!」

 こんがり焼けたピザが次々と出てくる。
 真ん中に長いテーブルを置いて、ピザと紙コップに入れたジュースを配膳し、みんなで周りを囲むように座った。

「みんな、ピザパーティーに来てくれてありがとう! 家庭科クラブのみんな、作ってくれてありがとう! じゃ、かんぱーい」

 すばるの声に、みんなが拍手をして、ジュースが入った紙コップをかかげた。
 湯気が立つピザへ、みんなが次々と手を伸ばす。

「うわ。おいしいね。ピーマン、いい感じ」

「ほんと、ほんと。なすもふんわりしてるね」

 あちこちから「おいしい」の声が聞こえてくる。
 すごいな。私たちが育てた野菜たちがみんなに喜んでもらってる。
 なんだか胸がじーんとしてくるのは、どうしてだろう?

「モエちゃんも来られればよかったね」

 向いに座っている三つ編み女子が言うと、メガネ女子がうなずいた。

「ほんと。モエちゃん、急にお家の引っ越しが決まるなんてね」

 さみしそうに言って、ピザをかじる二人。
 チラリと風斗を見ると、そっと目で合図してきた。
 そうか。モエはしばらく欠席になっていたが、風斗がうまく手まわしして、そういうことになったんだな。

「ほらほらー。空山さんも食べてる?」

 柚木さんに言われて、手を横に振った。

「……私はその……野菜は……」

「あれ? 空山さん、野菜苦手なの?」

 柚木さんが意外そうに言うと、となりに座っていた児童会の水沢さんがひょいとのぞきこんできた。

「私、実は玉ねぎとかピーマンキライなんだけど、このピザにのってるのは意外といけるよ。チャレンジしてみて」

 うぐっ。そんなすすめてこなくても。

「そ……空山さんも食べてみたら?」

 三つ編み女子がぶっきらぼうに言ってきた。

「なかなか美味ですよ。空山さんも召し上がれ」

 児童会長までも、はねた前髪をかきあげながら、すすめてくる。

 ……仕方ない。一口だけ食べてみるか。

 ピザの真ん中には、さっき私が切ったいびつな形のトマトがのっている。
 おそるおそる手を出して、口に運んだ。

「あ。……おいしい」

 私が育てたトマトが、こんなに甘くなってるなんて。
 はじめは実なんて影も形もなくて、花が咲いて、緑の固い実だったのに。
 香ばしく焼き上がった生地に、やわらかいなすび、シャキッとした玉ねぎ、それにピーマン。とろっとしたチーズがからんでおいしい。
 一口だけのはずが、もうひと口、二口……と、気づけばペロリと一枚食べてしまった。
 ま、まさか。私が植物を……野菜を食べる日がくるなんて思いもしなかった。
 しかも、こんなにおいしいなんて。

「あははっ。空山さん、よっぽどおいしかったんだね。もう一枚いる?」

 家庭科クラブの子がもう一枚を切り分けて、渡してくれた。

「空山さん、口元にチーズついてるよ」

 メガネ女子がティッシュを渡してくれた。

「あ、ありがとう」

「空山さん、のど乾かない? こっちにジュースあるよ。飲む?」

 柚木さんがコップにオレンジジュースをいれてくれる。
 ……なんだろう? 心がふわふわしてくる。
 テーブルの上のピザはすぐになくなって、あっという間に時間が過ぎていった。
 
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