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6章
植物は
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月宮公園についたが、見たところ誰もいない。
ここでは、よく小学生の低学年が遊んでいるが、まだ放課後の早い時間のせいか静かだ。
こんな目立つ所で、リーダーが待ってるはずはない。だとしたら、あっちか。
散歩道がある林の奥へと歩いていく。
リーダーは怒ってるだろうか?
私がなかなか隕石のかけらを手に入れず、成果を出さないから、しびれを切らせて。
しかも、植物は危険だという考えを否定するようなことを私が言ったから。
もう私と一緒に仕事はできない……そういう話かもしれない。
リーダーと組んで、三年。
ずっとお世話になってきたが、これで終わりだと思うと何だか胸が痛くなる。
しかし、リーダーと会うのは今回が初めてだ。
男の人で、私より少し年上な感じがするが、何も知らない。
どんな人だろう? だけど、会うのは最初で最後だ。
せめて、これまでお世話になった礼を言わねば。
胸の奥の重たい気持ちを叱りつけるように、そう思い直した時、
「裏切者、リィ」
前方の木から声がして、私は思わず顔を上げた。
クロリバ語だ。
リーダー? いや、ちがう。今のは女の声だった。
しかも、聞いたことがあるこの声!
太い幹の後ろから現れた人物に、心臓が凍りつく。
長い髪をたなびかせて、現れたのは茶谷モエ。
……モエがなぜここに?
意外な人物の出現に、頭の中が追いつかない。
モエは形の良いくちびるをゆっくり動かした。
「お前は私たちを裏切った。クロリバ星を裏切った」
やっぱり。聞きまちがいじゃない。クロリバ語だ。
「な、なんでモエがクロリバ語を……」
何とか声を出すと、モエが目を見開きながら笑った。
「お前と同じく隕石のかけらの回収と植物の排除のため、ここに来ていた。お前よりも先にな。私はリィを監視しろと組織から命を受けていたのだ」
「私を……監視? どういういうことだ?」
バクバクと心臓が鳴る。動揺しているのを悟られないようにと思っても、声がふるえる。
そんな私に、モエはさげすむような視線を送ってきた。
「お前はだんだん日生すばるや植物に情が移り、危険な考えを持つ者となった。このままお前を放置することは危険と考える。よって、お前を消す」
「……勝手なことを! それは組織から言われていることなのか? 独断は許されないぞ」
にらみながら叫ぶと、モエは髪の先をくるくると指先に巻きつけながらフフッと笑った。
「上の判断だ。組織の上層部は、お前を危険人物と判断した」
カシャッ。
モエが制服のジャケット裏から、ビーム銃を出してきた。
……そうだ。リーダーからは聞いていた。
クロリバ星を統べる組織の中でも、二つの派閥がある……と。
モエは上層部に属するクロリバ星人ってことか。
……なぜ気づかなかったんだろう。
「……畑を荒らしたのは、お前か?」
きくと、モエが冷たく笑った。
「そうだ。それに、お前がモタモタしているから、他の地域まで私が仕事をしてやった。ありがたく思え」
なるほど。ここ最近の植物が枯らされる事件は、モエの仕業だったのか。
「裏切者はクロリバ星に帰ることも許されない」
モエがビーム銃を私に真っすぐ向けてきた。
額から、だらりと冷たい汗が流れる。
裏切者……か。そう言えば、すばるを裏切ったままだ。
ここで私が撃たれて終わるのも、罰なのかもしれないな。
私は地球に来てから、このビーム銃を植物に向けて枯れさせてきた。
すばるが大事に思っている植物たちにひどいことをしてきた。
植物が嫌いなのに、園芸クラブに入って、いつかは植物を根絶やしにしようと企んで……
あぁ。ここで命が終わるなら、リーダーにちゃんと報告すれば良かった。
ほんとは心の奥で思ってたこと、気づいてたこと。
植物は星を滅ぼす危険な生き物じゃない。星を守ってくれる存在だって。
もしかしたら、クロリバ星も植物の力を貸してもらったら、地球のような美しい星になるかもしれない。
それを教えてくれたのは、すばるだ。なのに、私はすばるに何も返せていない。
せめて、伝えれば良かった。
いろんな花や植物を、育てる楽しさを教えてくれてありがとうって。
もっと植物のことを知りたかった。ききたかった。
――でも、もう遅い。
モエがビーム銃を向けながら、一歩、二歩と私に近づいてきた。
じわっと勝手に涙が浮かんできた。
泣くなんて……私らしくない。
別にいいじゃないか。私がいなくなったって、悲しむ人なんていない。
地球でも、クロリバ星でも、どうせ私は一人なんだから。
(里依ちゃんにはぼくがいるから!)
すばるに言われた言葉が頭に響く。
こんな時に何を思い出してるんだ。未練がましいぞ、リィ。
モエの引き金をひく指がゆっくり動いて、ぎゅっと目をつぶった。
ピュン
何かが飛ぶような音がした後、ドサリと重い音がした。
この音……私が撃たれた音か? でも、何も痛くないぞ?
そっと目を開けると、目の前にモエが倒れていた。
「えっ? どういうことだ……」
なぜ、私が倒れずにモエが倒れているんだ?
状況を把握できずに、しばらく立ちすくむ。
地面に倒れているモエに慎重に近づくと、すぅすぅと規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
「大丈夫。気絶させただけだ」
突然、背後から聞こえてきた、低い声のクロリバ語。
この声……リーダー!!
バッと振り返ったけど、リーダーの姿はない。
かわりにいたのは……ビーム銃を持った風斗だった。
風斗はチラリとモエを見ながら、静かに歩いてきた。
「ふ、風斗がどうして……」
「茶谷モエには眠り薬を打ち込んだ。しばらく眠ってるはず。それよりも」
前髪をかきあげ、風斗が私をみつめる。
初めて見た、風斗の瞳。
エメラルドグリーンの吸い込まれそうな瞳に、ドキリと胸が鳴る。
この瞳……クロリバ星人!!
風斗がかがんで、私をのぞきこんできた。
「リィ。ケガはないか?」
「……リーダー?」
驚きのあまり、それ以上言葉が出てこない。
固まっている私の頭に、ふわりとリーダーの大きな手がのった。
優しくなでてくるその手の温かさに、はりつめていた気がふっとゆるんだ。
あ。ダメだ……
急激にきた眠気に、意識が遠のいていった。
ここでは、よく小学生の低学年が遊んでいるが、まだ放課後の早い時間のせいか静かだ。
こんな目立つ所で、リーダーが待ってるはずはない。だとしたら、あっちか。
散歩道がある林の奥へと歩いていく。
リーダーは怒ってるだろうか?
私がなかなか隕石のかけらを手に入れず、成果を出さないから、しびれを切らせて。
しかも、植物は危険だという考えを否定するようなことを私が言ったから。
もう私と一緒に仕事はできない……そういう話かもしれない。
リーダーと組んで、三年。
ずっとお世話になってきたが、これで終わりだと思うと何だか胸が痛くなる。
しかし、リーダーと会うのは今回が初めてだ。
男の人で、私より少し年上な感じがするが、何も知らない。
どんな人だろう? だけど、会うのは最初で最後だ。
せめて、これまでお世話になった礼を言わねば。
胸の奥の重たい気持ちを叱りつけるように、そう思い直した時、
「裏切者、リィ」
前方の木から声がして、私は思わず顔を上げた。
クロリバ語だ。
リーダー? いや、ちがう。今のは女の声だった。
しかも、聞いたことがあるこの声!
太い幹の後ろから現れた人物に、心臓が凍りつく。
長い髪をたなびかせて、現れたのは茶谷モエ。
……モエがなぜここに?
意外な人物の出現に、頭の中が追いつかない。
モエは形の良いくちびるをゆっくり動かした。
「お前は私たちを裏切った。クロリバ星を裏切った」
やっぱり。聞きまちがいじゃない。クロリバ語だ。
「な、なんでモエがクロリバ語を……」
何とか声を出すと、モエが目を見開きながら笑った。
「お前と同じく隕石のかけらの回収と植物の排除のため、ここに来ていた。お前よりも先にな。私はリィを監視しろと組織から命を受けていたのだ」
「私を……監視? どういういうことだ?」
バクバクと心臓が鳴る。動揺しているのを悟られないようにと思っても、声がふるえる。
そんな私に、モエはさげすむような視線を送ってきた。
「お前はだんだん日生すばるや植物に情が移り、危険な考えを持つ者となった。このままお前を放置することは危険と考える。よって、お前を消す」
「……勝手なことを! それは組織から言われていることなのか? 独断は許されないぞ」
にらみながら叫ぶと、モエは髪の先をくるくると指先に巻きつけながらフフッと笑った。
「上の判断だ。組織の上層部は、お前を危険人物と判断した」
カシャッ。
モエが制服のジャケット裏から、ビーム銃を出してきた。
……そうだ。リーダーからは聞いていた。
クロリバ星を統べる組織の中でも、二つの派閥がある……と。
モエは上層部に属するクロリバ星人ってことか。
……なぜ気づかなかったんだろう。
「……畑を荒らしたのは、お前か?」
きくと、モエが冷たく笑った。
「そうだ。それに、お前がモタモタしているから、他の地域まで私が仕事をしてやった。ありがたく思え」
なるほど。ここ最近の植物が枯らされる事件は、モエの仕業だったのか。
「裏切者はクロリバ星に帰ることも許されない」
モエがビーム銃を私に真っすぐ向けてきた。
額から、だらりと冷たい汗が流れる。
裏切者……か。そう言えば、すばるを裏切ったままだ。
ここで私が撃たれて終わるのも、罰なのかもしれないな。
私は地球に来てから、このビーム銃を植物に向けて枯れさせてきた。
すばるが大事に思っている植物たちにひどいことをしてきた。
植物が嫌いなのに、園芸クラブに入って、いつかは植物を根絶やしにしようと企んで……
あぁ。ここで命が終わるなら、リーダーにちゃんと報告すれば良かった。
ほんとは心の奥で思ってたこと、気づいてたこと。
植物は星を滅ぼす危険な生き物じゃない。星を守ってくれる存在だって。
もしかしたら、クロリバ星も植物の力を貸してもらったら、地球のような美しい星になるかもしれない。
それを教えてくれたのは、すばるだ。なのに、私はすばるに何も返せていない。
せめて、伝えれば良かった。
いろんな花や植物を、育てる楽しさを教えてくれてありがとうって。
もっと植物のことを知りたかった。ききたかった。
――でも、もう遅い。
モエがビーム銃を向けながら、一歩、二歩と私に近づいてきた。
じわっと勝手に涙が浮かんできた。
泣くなんて……私らしくない。
別にいいじゃないか。私がいなくなったって、悲しむ人なんていない。
地球でも、クロリバ星でも、どうせ私は一人なんだから。
(里依ちゃんにはぼくがいるから!)
すばるに言われた言葉が頭に響く。
こんな時に何を思い出してるんだ。未練がましいぞ、リィ。
モエの引き金をひく指がゆっくり動いて、ぎゅっと目をつぶった。
ピュン
何かが飛ぶような音がした後、ドサリと重い音がした。
この音……私が撃たれた音か? でも、何も痛くないぞ?
そっと目を開けると、目の前にモエが倒れていた。
「えっ? どういうことだ……」
なぜ、私が倒れずにモエが倒れているんだ?
状況を把握できずに、しばらく立ちすくむ。
地面に倒れているモエに慎重に近づくと、すぅすぅと規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
「大丈夫。気絶させただけだ」
突然、背後から聞こえてきた、低い声のクロリバ語。
この声……リーダー!!
バッと振り返ったけど、リーダーの姿はない。
かわりにいたのは……ビーム銃を持った風斗だった。
風斗はチラリとモエを見ながら、静かに歩いてきた。
「ふ、風斗がどうして……」
「茶谷モエには眠り薬を打ち込んだ。しばらく眠ってるはず。それよりも」
前髪をかきあげ、風斗が私をみつめる。
初めて見た、風斗の瞳。
エメラルドグリーンの吸い込まれそうな瞳に、ドキリと胸が鳴る。
この瞳……クロリバ星人!!
風斗がかがんで、私をのぞきこんできた。
「リィ。ケガはないか?」
「……リーダー?」
驚きのあまり、それ以上言葉が出てこない。
固まっている私の頭に、ふわりとリーダーの大きな手がのった。
優しくなでてくるその手の温かさに、はりつめていた気がふっとゆるんだ。
あ。ダメだ……
急激にきた眠気に、意識が遠のいていった。
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