35 / 41
6章
裏切り者のわたし
しおりを挟む
「わ~、おれ、一番前かよ~」
くじを開いた坊主頭の男子が、がっくりとうなだれた。
六時間目のホームルームは席替え。
近くの席になった女子たちが声を上げて喜んでいる。
箱から取り出した紙を広げてみると、数字は「3」
3番の席は窓際の前から三番目。
はぁ。とため息をつきながら席に着く。
窓からの光がまぶしくて、暑いくらいだ。
ふと見ると、すばるは廊下側の席についたところだった。
すばるのとなりの席になったモエが、涼やかな笑みを浮かべて、話しかけている。
……すばると離れてしまったな。
畑が荒らされた事件から数日……
最近はギクシャクしていたから、ほっとするような、さみしいような……
ちょっと待て。さみしい?
雑念を振り払うように、あわてて頭をブルブルと振る。
畑が荒らされた日から数日間。
となりの席にもかかわらず、すばるとは一言も話していない。
すばるは授業中、私の方を見ては、うつむいてを何回も繰り返していた。
休み時間は、何かを考えこむように黙ったまま。
たぶん、怒っているだろう。
やはり、畑が荒らされたのがショックで、それも……私が裏切ったとなったら、怒りも湧いてくるだろうな。
畑はどうなったんだろう?
園芸クラブに行ってないから、あの後、どうなったかは知らない。
すばると風斗が何とかしてくれたんだろうか……
「はーい、みんな座って。明日の連絡してもう終わるから~」
先生が教卓の前に立って言うと、みんな着席した。
明日の連絡事項をききながら、窓の外を見る。
風が強いのか、木葉がぶるぶるゆれている。
任務の方もクビを通告されて、リーダーにも見限られた。
もうこの地球にいる意味なんて、ない。
戻ろうか。クロリバ星に。
だけど、戻ったとしても組織に何と言われるだろう。
考えてたら、急速に眠気がおそってきた。
畑の件があってから、夜がまったく眠れなくなった。
ベッドに入って目を閉じても、任務のこと、クロリバ星のこと、それから……すばるのことを考えたら、眠れない。
おかげで、ここ数日間はかなりの寝不足でフラフラだ。
「……はい。そんなワケで今日はここまで」
先生の声にハッと現実に引き戻される。
クラス委員の号令の声に、あわてて立ち上がった。
あぶない、あぶない。うっかり居眠りしてしまうところだった。
先生が教室を出てから、さっさと帰り支度をする。
教室を出る時にちらっとすばるを見ると、まわりの席の子たちがすばるの周りに集まって、みんなで楽しそうに笑ってる。
一人が何かを言ってドッと笑いが起こった。すばるも声を立てて、笑っている。
……すばる、楽しそうだな。
そうか。
私がとなりじゃなければ、すばるはあんな風に、クラスのたちと楽しそうにできるんだ。
今までは、転校してきた私に気をつかってくれてたんだろう。
クラスの子たちも私がいたから、すばるに近寄れなかったのかもしれない。
席替えして良かった。
私にとっても、すばるにとっても。クラスのみんなにとっても。
そう思うのに、胸の奥がケガをしたみたいにジクジクする。
痛みをこらえるように、きゅっとくちびるを結んで教室を出た。
ホームルームが終わったのが早かったのか、昇降口はまだ人がおらず、しんとしている。
下駄箱で上靴に手を伸ばした時、
「ん?」
靴の上に一枚の紙がある。
ノートをちぎったような、罫線が書かれている紙が四つ折りにされている。
開いてみて、ドクンと胸が鳴った。
(ニンムヲ ワスレタカ? ツキミヤコウエン マデ コイ)
この文字、クロリバ語だ! リーダーから!?
任務を忘れたか? って、どういうことだ?
だって、この前、リーダーは任務をおりろって私に言ったのに。
そうだ。もしかしたら、任務終了の大事な話だから、直接話をしたいのかもしれない。
「……それ、なに?」
背後からボソリと声がして、ドキリと心臓が跳ね上がる。
くしゃっと紙を握りつぶし、振り返った。
赤茶色の髪の男子が私を見おろしている。
「うわっ。な、なんだ風斗か。びっくりした……」
あわてて紙をスカートのポケットに押し込んだ。
「それ、なに?」
風斗が小さな声で、もう一度きいてきた。
「あ、あぁ。ただのゴミだ。誰かが入れたんだろう。じゃあな!」
ははっとごまかし笑いをして、逃げるように昇降口を出た。
くじを開いた坊主頭の男子が、がっくりとうなだれた。
六時間目のホームルームは席替え。
近くの席になった女子たちが声を上げて喜んでいる。
箱から取り出した紙を広げてみると、数字は「3」
3番の席は窓際の前から三番目。
はぁ。とため息をつきながら席に着く。
窓からの光がまぶしくて、暑いくらいだ。
ふと見ると、すばるは廊下側の席についたところだった。
すばるのとなりの席になったモエが、涼やかな笑みを浮かべて、話しかけている。
……すばると離れてしまったな。
畑が荒らされた事件から数日……
最近はギクシャクしていたから、ほっとするような、さみしいような……
ちょっと待て。さみしい?
雑念を振り払うように、あわてて頭をブルブルと振る。
畑が荒らされた日から数日間。
となりの席にもかかわらず、すばるとは一言も話していない。
すばるは授業中、私の方を見ては、うつむいてを何回も繰り返していた。
休み時間は、何かを考えこむように黙ったまま。
たぶん、怒っているだろう。
やはり、畑が荒らされたのがショックで、それも……私が裏切ったとなったら、怒りも湧いてくるだろうな。
畑はどうなったんだろう?
園芸クラブに行ってないから、あの後、どうなったかは知らない。
すばると風斗が何とかしてくれたんだろうか……
「はーい、みんな座って。明日の連絡してもう終わるから~」
先生が教卓の前に立って言うと、みんな着席した。
明日の連絡事項をききながら、窓の外を見る。
風が強いのか、木葉がぶるぶるゆれている。
任務の方もクビを通告されて、リーダーにも見限られた。
もうこの地球にいる意味なんて、ない。
戻ろうか。クロリバ星に。
だけど、戻ったとしても組織に何と言われるだろう。
考えてたら、急速に眠気がおそってきた。
畑の件があってから、夜がまったく眠れなくなった。
ベッドに入って目を閉じても、任務のこと、クロリバ星のこと、それから……すばるのことを考えたら、眠れない。
おかげで、ここ数日間はかなりの寝不足でフラフラだ。
「……はい。そんなワケで今日はここまで」
先生の声にハッと現実に引き戻される。
クラス委員の号令の声に、あわてて立ち上がった。
あぶない、あぶない。うっかり居眠りしてしまうところだった。
先生が教室を出てから、さっさと帰り支度をする。
教室を出る時にちらっとすばるを見ると、まわりの席の子たちがすばるの周りに集まって、みんなで楽しそうに笑ってる。
一人が何かを言ってドッと笑いが起こった。すばるも声を立てて、笑っている。
……すばる、楽しそうだな。
そうか。
私がとなりじゃなければ、すばるはあんな風に、クラスのたちと楽しそうにできるんだ。
今までは、転校してきた私に気をつかってくれてたんだろう。
クラスの子たちも私がいたから、すばるに近寄れなかったのかもしれない。
席替えして良かった。
私にとっても、すばるにとっても。クラスのみんなにとっても。
そう思うのに、胸の奥がケガをしたみたいにジクジクする。
痛みをこらえるように、きゅっとくちびるを結んで教室を出た。
ホームルームが終わったのが早かったのか、昇降口はまだ人がおらず、しんとしている。
下駄箱で上靴に手を伸ばした時、
「ん?」
靴の上に一枚の紙がある。
ノートをちぎったような、罫線が書かれている紙が四つ折りにされている。
開いてみて、ドクンと胸が鳴った。
(ニンムヲ ワスレタカ? ツキミヤコウエン マデ コイ)
この文字、クロリバ語だ! リーダーから!?
任務を忘れたか? って、どういうことだ?
だって、この前、リーダーは任務をおりろって私に言ったのに。
そうだ。もしかしたら、任務終了の大事な話だから、直接話をしたいのかもしれない。
「……それ、なに?」
背後からボソリと声がして、ドキリと心臓が跳ね上がる。
くしゃっと紙を握りつぶし、振り返った。
赤茶色の髪の男子が私を見おろしている。
「うわっ。な、なんだ風斗か。びっくりした……」
あわてて紙をスカートのポケットに押し込んだ。
「それ、なに?」
風斗が小さな声で、もう一度きいてきた。
「あ、あぁ。ただのゴミだ。誰かが入れたんだろう。じゃあな!」
ははっとごまかし笑いをして、逃げるように昇降口を出た。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
空の話をしよう
源燕め
児童書・童話
「空の話をしよう」
そう言って、美しい白い羽を持つ羽人(はねひと)は、自分を助けた男の子に、空の話をした。
人は、空を飛ぶために、飛空艇を作り上げた。
生まれながらに羽を持つ羽人と人間の物語がはじまる。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
ベンとテラの大冒険
田尾風香
児童書・童話
むかしむかしあるところに、ベンという兄と、テラという妹がいました。ある日二人は、過去に失われた魔法の力を求めて、森の中に入ってしまいます。しかし、森の中で迷子になってしまい、テラが怪我をしてしまいました。そんな二人の前に現れたのは、緑色の体をした、不思議な女性。リンと名乗る精霊でした。全九話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる