星のプランツガーデン

森野ゆら

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6章

裏切り者のわたし

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「わ~、おれ、一番前かよ~」

 くじを開いた坊主頭の男子が、がっくりとうなだれた。
 六時間目のホームルームは席替え。
 近くの席になった女子たちが声を上げて喜んでいる。
 箱から取り出した紙を広げてみると、数字は「3」
 3番の席は窓際の前から三番目。
 はぁ。とため息をつきながら席に着く。
 窓からの光がまぶしくて、暑いくらいだ。

 ふと見ると、すばるは廊下側の席についたところだった。
 すばるのとなりの席になったモエが、涼やかな笑みを浮かべて、話しかけている。

 ……すばると離れてしまったな。

 畑が荒らされた事件から数日……
 最近はギクシャクしていたから、ほっとするような、さみしいような……
 ちょっと待て。さみしい? 
 雑念を振り払うように、あわてて頭をブルブルと振る。

 畑が荒らされた日から数日間。
 となりの席にもかかわらず、すばるとは一言も話していない。
 すばるは授業中、私の方を見ては、うつむいてを何回も繰り返していた。
 休み時間は、何かを考えこむように黙ったまま。
 たぶん、怒っているだろう。
 やはり、畑が荒らされたのがショックで、それも……私が裏切ったとなったら、怒りも湧いてくるだろうな。
 畑はどうなったんだろう?
 園芸クラブに行ってないから、あの後、どうなったかは知らない。
 すばると風斗が何とかしてくれたんだろうか……

「はーい、みんな座って。明日の連絡してもう終わるから~」

 先生が教卓の前に立って言うと、みんな着席した。
 明日の連絡事項をききながら、窓の外を見る。
 風が強いのか、木葉がぶるぶるゆれている。
 任務の方もクビを通告されて、リーダーにも見限られた。
 もうこの地球にいる意味なんて、ない。
 戻ろうか。クロリバ星に。
 だけど、戻ったとしても組織に何と言われるだろう。
 考えてたら、急速に眠気がおそってきた。
 畑の件があってから、夜がまったく眠れなくなった。
 ベッドに入って目を閉じても、任務のこと、クロリバ星のこと、それから……すばるのことを考えたら、眠れない。
 おかげで、ここ数日間はかなりの寝不足でフラフラだ。

「……はい。そんなワケで今日はここまで」

 先生の声にハッと現実に引き戻される。
 クラス委員の号令の声に、あわてて立ち上がった。
 あぶない、あぶない。うっかり居眠りしてしまうところだった。
 先生が教室を出てから、さっさと帰り支度をする。
 教室を出る時にちらっとすばるを見ると、まわりの席の子たちがすばるの周りに集まって、みんなで楽しそうに笑ってる。
 一人が何かを言ってドッと笑いが起こった。すばるも声を立てて、笑っている。

 ……すばる、楽しそうだな。

 そうか。
 私がとなりじゃなければ、すばるはあんな風に、クラスのたちと楽しそうにできるんだ。
 今までは、転校してきた私に気をつかってくれてたんだろう。
 クラスの子たちも私がいたから、すばるに近寄れなかったのかもしれない。
 席替えして良かった。
 私にとっても、すばるにとっても。クラスのみんなにとっても。
 そう思うのに、胸の奥がケガをしたみたいにジクジクする。
 痛みをこらえるように、きゅっとくちびるを結んで教室を出た。
 ホームルームが終わったのが早かったのか、昇降口はまだ人がおらず、しんとしている。
 下駄箱で上靴に手を伸ばした時、

「ん?」

 靴の上に一枚の紙がある。
 ノートをちぎったような、罫線が書かれている紙が四つ折りにされている。
 開いてみて、ドクンと胸が鳴った。

(ニンムヲ ワスレタカ? ツキミヤコウエン マデ コイ)

 この文字、クロリバ語だ! リーダーから!?
 任務を忘れたか? って、どういうことだ?
 だって、この前、リーダーは任務をおりろって私に言ったのに。
 そうだ。もしかしたら、任務終了の大事な話だから、直接話をしたいのかもしれない。

「……それ、なに?」

 背後からボソリと声がして、ドキリと心臓が跳ね上がる。
 くしゃっと紙を握りつぶし、振り返った。
 赤茶色の髪の男子が私を見おろしている。

「うわっ。な、なんだ風斗か。びっくりした……」

 あわてて紙をスカートのポケットに押し込んだ。

「それ、なに?」

 風斗が小さな声で、もう一度きいてきた。

「あ、あぁ。ただのゴミだ。誰かが入れたんだろう。じゃあな!」

 ははっとごまかし笑いをして、逃げるように昇降口を出た。
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