星のプランツガーデン

森野ゆら

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6章

荒らされた畑

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「ねぇねぇ、夏休みの初日、一緒に映画みにいこうよ。お母さんが送り迎えしてくれるって」

「えっ! いいの? 行く行く!」

 放課後のざわめく教室で、カバンに教科書をつめていた私は、聞こえてきた話し声に顔を上げた。
 ……そうか。いよいよ夏休みか。
 最近、クラスのみんなが浮足立ってると思ったが、長期休暇があるからだな。
 夏休み……私は、そろそろクロリバ星に戻る頃だ。

「里依ちゃんは夏休み、どこかへでかけるの?」

 すばるがプリントを整えながらきいてきた。

「いや……私は……」

 言葉を濁して黙ったら、バンッ! と、教卓側のドアが勢いよく開いた。

「大変! 園芸クラブの畑がぐちゃぐちゃになってるよ!」

 息を切らせてかけこんできたのは、三つ編み女子。

「えっ? どういうこと?」

 すばるが驚いた顔で立ち上がった。

「モエちゃんが教えてくれたの。帰ろうとしたら、荒らされてる畑が見えたんだって。大急ぎですばるくんを呼んで来てって。モエちゃん、畑で待ってるの。行こう! すばるくん!」

 三つ編み女子に叫ばれて、すばるが急いで教室を出て行く。
 荒らされている?
 どういうことだ。ケモノでも来たのだろうか。
 とにかく、すばるの後を追おうと教室を出たら、ドンッと誰かにぶつかった。

「……悪い、急いでいて……」

 ぶつかった相手を見上げると、風斗。

「何かあった?」

 風斗が小さな声できいてきた。

「畑が荒らされてるらしい」

 言うと、風斗の口元がきゅっと曲がった。

   *
 風斗と一緒に畑に行くと、すばると三つ編み女子が荒れた畝の前でたたずんでいた。
 すばるの向かい側には、モエとメガネ女子もいる。
 茎が折れたなすび、倒された支柱、掘り起こされ、引っこ抜かれた苗たち。

「……ひどいね」

 となりにいる風斗が低い声でつぶやいた。

「誰がこんなことを……」

 すばるが眉間にしわをよせ、くちびるをゆがませる。
 ふと花壇を見て、ドキリと胸が鳴った。
 植えていたマリーゴールドの花が茶色に変色して、くたりと倒れている。

 ……これは、ビーム銃のあと!?

 どういうことだ? 
 もちろん、こんなことしたのは私じゃない。
 このビーム銃を持っているのは、クロリバ星人だけだ。なのに……。

「空山さん、大丈夫? 顔が真っ青だよ?」

 モエが声をかけてきた。

「あ、あぁ、大丈夫だ」

 答えると、メガネ女子がフフンと鼻を鳴らした。

「空山さんじゃないの? こんなひどいことしたの。だから動揺してるんでしょ?」

 メガネ女子の声に、私は目を見はった。

「私……が畑を荒らしたと言いたいのか?」

「そうだよ。昼休み、空山さんがこの畑の方に行くのを私、見たもん。ね、モエちゃん」

 メガネ女子に言われたモエが、こくりとうなずく。

「あ、そうそう。前に空山さん、植物が嫌いだって言ってたよね。敵だって」

 三つ編み女子が思い出したように手を打った。

「園芸クラブに入ったのだって、すばるくん狙いなだけでしょ? ほんとは園芸とか植物に興味がないくせに!」

 声を荒げるメガネ女子に、風斗が大きく息をつき、私の方を向いた。
 すばるはモエたちの方を向いて、固まったままだ。
 ちがう。ちがうぞ、すばる、風斗。私はこんなことはやっていない。
 そう言おうと口を開きかけた時、

「昼休み、空山さんは何のために畑の方に行ってたの?」

 モエが冷えた声できいてきた。
 昼休み、確かに私はここに来た。
 あの時は、いつも通りで荒らされてなんかいなかった。

「ほら、モエちゃんがきいてるでしょ? 空山さんは昼休みにここに来たの?」

 メガネ女子が急かすようにきいてきて、私は息をついた。

「……あぁ。ここに来た」

「なんのために?」

 モエが疑うように、ふっと目を細める。
 通信機でリーダーと話すため。なんて、本当のことは言えない。
 どう言おうか迷っていると、メガネ女子がくくっと笑った。

「言えないんだ。私たちに後ろめたいことをしてたから? やっぱり空山さんがこの畑を……」

「わ、私じゃな……」

 言いかけて、止めた。
 この畑を荒らしたのは私じゃない。だけど。
 花壇の茶色く焦げているマリーゴールドを見て、きゅっとこぶしを握る。
 私は地球に来てから、たくさんの植物にビーム銃を撃って枯らしてきた。
 それに、植物を根絶やしにすることを任務として地球に来た。
 だったら……。私は、畑を荒らしたやつと同じじゃないのか?

「ほらー。黙っちゃって。やっぱり空山さんがやったんだ」

 ちがう。私じゃない。そう言いたいのに、言えない。

「里依ちゃんはそんなことしないよ」

 ピンとはりつめた声に、みんながすばるの方を向いた。
 聞いたこともないすばるの強い口調に、モエたちが驚いた表情をにじませる。

「す、すばるくん、なんでこの子の肩を持つの?」

 メガネ女子があせったような声を出すと、すばるがキッとするどい視線を向けた。

「君たちこそ、どうして里依ちゃんを疑うの? 里依ちゃんはそんなことする子じゃない。それはぼくがよく知ってる!」

「な……なによ。じゃあ、だれがこんなことしたっていうの?」

「それは……分かんないけど……でも、里依ちゃんはこんなひどいことは絶対しない。ね、里依ちゃん」

 すばるが真っすぐな視線を向けてくる。
 私は目を合わせられなくなって、そらした。

「……里依ちゃん?」

「……ごめん。私……すばるを裏切ってる」

 こんなひどいことは絶対しない。
 そう、すばるが信じてくれてるのが、すごく苦しい。

 ごめん。

 心の中でもう一度すばるに謝って、その場を逃げるように走り出した。
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