星のプランツガーデン

森野ゆら

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6章

昼休みの七夕会

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「それでは、昼休みだけの短い間ですが、みなさん、七夕会を楽しみましょう」

 児童会長があいさつすると、拍手がわきおこった。
 壇上で音楽クラブの演奏が始まり、軽やかな曲が流れてくる。
 広い体育館の中には、文化クラブの店がずらりと並んでいる。
 家庭科クラブは手作り小物、美術クラブはイラストを展示し、パソコンクラブはキーボード早打ち対決などをやっている。
 生徒たちがそれぞれ興味のある所へ散らばっていく。
 わが園芸クラブも出店中なのだが……店番は私一人。
 すばるは児童会の手伝いにかりだされ、風斗は先生から机を運ぶのを頼まれたらしい。
 とりあえず、すばるの言うとおり、品物を並べてみたが。
 小さな器に植えた、多肉のミニ寄せ植え。
 今の時期に咲く花をチョイスした、ジニアやペチュニア、季節の寄せ植え。
 風斗がせっせと作っていた、押し花を使ったしおり。
 すばるが作っていた、ドライフラワーのハーバリウム。
 ふむ。こうやって並べると、見栄えが良い。ちゃんとした店のようだ。
 問題は、この品がほしい生徒がいるかどうかだが……
 と、思ったが、私の心配はすぐさま吹き飛んだ。

「わ~、きれい!」

「ほんとだ、かわいい~~!」

「えっ、花だ! すごいね! ほしい~」

 あっという間に人だかりができた。

「これ、くださーい」

「私も! この寄せ植えください」

 チケットを差し出してくる手がたくさん伸びてくる!
 たっ、確か、チケット一枚と一つの品で交換だったな。
 私はチケットを受け取って、品物を渡してを何度も繰り返して、気がつけば目の前の品があっという間になくなっていた。
 嵐のように過ぎ去った客たち。
 ぼうぜんと立ち尽くしていると、向こうからすばるがかけてきた。

「里依ちゃーん、ごめん。任せっきりで……あれ? 品物は?」

「全部完売だ」

「ええっ! 本当に?」

 すばるが信じられないように、長机の上や床を見る。

「里依ちゃん、ごめん。店番、すっごく大変だったよね……」
「いや、なんとかさばけた。大丈夫だ」

「本当にありがとう。片付けはぼくがやるから、とりあえずここは置いといて……まだ、他のクラブ、やってるから見に行こう」

 それから、すばると一緒に歩きまわった。
 マンガクラブで手作りのマンガ本を一冊もらったり、家庭科クラブでシュシュという手作りの髪飾りをもらったり。
 他のクラブもいろんな工夫をして、今日のために品物を用意したんだな。
 ひととおり店をまわって、ダンスクラブのステージを見ていたら、すばるが時計を見た。 

「そろそろ終わりの時間だね。昼休みだけだと短いなぁ。……あ、そうだ! 里依ちゃん、まだ短冊書いてないよね! 行こう!」

「タンザク?」

 体育館の外へ連れ出されて、運動場を出ると、大きな木のようなものがポールにしばりつけてあった。
 葉の部分に、色とりどりの長ぼそい紙がぶらさがっている。

「変わった木だな」

「これは笹だよ。はい。短冊」

 すばるが長机の上にあった黄色い紙とペンを渡してきた。

「これに何を書くんだ?」

「願いごとだよ。里依ちゃんが叶えたいこと」

 私の叶えたい願い……なんだろう?
 むむっと考えてる横で、すばるはスラスラとペンを走らせている。

「すばるは何を書いたんだ?」

 きくと、すばるが短冊をぴらっと見せてきた。

(家族が健康で楽しく暮らせますように)

 流れるような字で丁寧に書いてある。

「父さん、仕事がいそがしいから、健康に気をつけてほしいなぁって思って」

「そうか……私は何を書こう……」

 ペンを持って考え込んでると、すばるがのぞきこんできた。

「里依ちゃんも家族のこと書いたら?」

「……家族はいない」

「えっ……」

 答えると、すばるの顔が固まった。

「家族とは昔、地割れの災害で離ればなれになった。私は一人だ」

「ご、ごめん……」

「かまわないぞ? 気にしてないから。一人が普通だし」

 けろっと返すと、すばるはうつむいて何かを考えた後、顔を上げた。

「里依ちゃん! 里依ちゃんは一人じゃないよ!」

「は?」

「ぼっ、ぼくがいるから! 里依ちゃんにはぼくがいるから!」

 真っ赤になって言うすばるに、私はぽかんと棒立ちになる。

「もう一枚書く!」

 すばるが赤い短冊を取って、すごい勢いで書き始めた。
 何を書くんだろうか? すばるはたくさん願いごとがあるんだな。
 再び自分の短冊に目を落とし、ペンを握った。

(私の星に幸せが来ますように)

 やはりこれだな。本当はクロリバ語で書けたら良かったが、仕方ない。

「あ、里依ちゃんも書けた? じゃあ、笹につけよう」

 細いヒモのようなものを結ぶのに苦戦したが、何とか自分の黄色い短冊をつけることができた。
 風がふいて、笹の葉が涼し気な音を出す。たくさんつけられた短冊と飾りがにぎやかだ。
 空に向かってゆれる短冊たちを見てると、書いた願いが本当に叶いそうに思えてくる。
 ちらりと見えたすばるの赤い短冊には、(友達がいつも笑顔でいられますように)と書いてあった。
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