星のプランツガーデン

森野ゆら

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5章

突然の雨

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「なんか、雲行きが怪しくなってきたね。戻ろうか」

「そうだな」

 部屋の方へ戻る途中、フェンスの隅に美しい紫の花が目に入り、つい立ち止まった。
 小さな花がたくさん集まって、なかなかのボリュームだ。

「この花、最近いろんな所で見るな」

「紫陽花だよ。結構、有名だけど……」

「有名? あ、あぁ。そうだった。アジサイ、アジサイ」

 ごまかすように言ったが、すばるは気にしてないのか、アジサイを見てふっと笑みを浮かべた。

「紫陽花を見ると、季節を感じるよね。六月はジメジメして雨ばかりだけど、紫陽花が生き生きしているのを見たら、梅雨も悪くないなって思う。雨、ぼくは好きだな」

 すばるは、ぽつぽつ降り始めた雨のしずくを広げた手のひらで受け止める。
 ……と、急に雨の粒が大きくなってきた。

 ザーッ!

 一気に降ってきた雨に、あっというまにびしょぬれだ。

「あはは。ちょっと降りすぎだよね。……部屋へ急ごう!」

 雨の中をあわてて走って、園芸クラブの部屋の中に避難した。
 ぽたぽたと水滴が床に落ちる。
 私もすばるもびっしょりだ。
 窓の外は夜みたいに真っ暗になって、雨の打ちつける音が聞こえてくる。

 雨……。
 クロリバ星では、めったに降ることはない。
 だから、大地はうるおわないし、乾燥した風が吹くばかりだ。
 この雨がもし、クロリバ星で降ったら……
 久しぶりにクロリバ星のことを思い出して、胸がぎゅっとなる。

「里依ちゃん、タオル使う? そこの棚にあるんだ」

 すばるが部屋の電気をつけて、棚を指さした。

「あぁ。ありがとう」

 タオルを取ってすばるにも渡し、ぬれた腕をふいた。

「びっくりしたね。いきなり降ってくるなんて」

 タオルに顔をうずめながら、すばるが笑って言う。

 ……かわいい。

 まるでこの前テレビのCMでみた、雨にぬれた小犬みたいだ。
 ……って、何を考えてるんだ。私は。
 窓の外の雨を見て、すばるが目を細めた。

「夕立ちってさ、植物たちはうれしそうにしてる気がしない?」

「え?」

「ぼくはね、植物たちが『今から雨が降るぞ』ってワクワクしてるように見えるんだ」

 目を輝かせて言うすばるに、あらためて思う。
 ……本当に植物が好きなんだな。

「すばるは……どうして植物のことが好きなんだ?」

「うーん。どうして……かぁ。小さいころから庭の花とか野原とか見るのが好きだったから……でも、そうだな。やっぱり母さんの影響があるかも」

「お母さん、植物好きなのか?」

「うん。ガーデニングとか大好きだったよ。時間があれば、庭にずっといたし。ぼくもいろいろ教えてもらって……楽しかったな」

 最後の方は声が小さくなって、すばるが少しさみしそうに笑った。
 すばるが黙ってしまって、しんとなる。
 大好きだった。という過去形の言葉にハッとする。
 そうだった。すばるの母はすばるが幼い時に天国に行ってしまったんだ。
 しまった。なんだか、きいちゃいけないことをきいてしまった気がする。
 重ぐるしいこの雰囲気、何か他の話題に持っていかねば。
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