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5章
ドキドキの放送室
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「どどどど、どうしよう。心臓がバクハツしそうだよ」
お昼休みの放送室前。
すばるはドアノブに手をかけようとして、やめてを繰り返している。
「ぼ、ぼくが言ったこと、校内中に流れるんだよね? そ、それってすごいことだよね。でも、もし、失敗したらどうしよう。ううう……」
ドアの前でウロウロするすばるを、私と風斗は観察……じゃなくて見守る。
園芸クラブの良さを全校生に知ってもらう、なんてはじめは言ってたのに、今は緊張のカタマリだ。
「や、やっぱりやめようか……」
すばるがまわれ右をした時、ガチャッと勢いよくドアが開いた。
「いらっしゃーい! 待ってたよん。入ってきてくれてよかったのに~」
柚木さんが満面の笑顔で言って、すばるがギギギっと首を動かす。
「あ、あの、柚木さん、ぼく……」
「もうあと三分でお昼の放送始まるから、急いで!」
柚木さんがすばるの腕をぐいっと引っ張って、中へ引き込んだ。
「座って、座って♪」
マイクの前に無理やり座らされたすばるは、氷のようにカチコチだ。
柚木さんの他にもう一人、目の大きな女子がいて、私たちにぺこっと頭を下げてきた。
「この子はもう一人の放送クラブの子で、五年生の佐谷(さたに)ちゃんだよ」
佐谷さんは、「よろしくお願いします」と言った後、柚木さんの袖を引っ張った。
「柚木さん、もう始まる時間です」
「あ、ほんとだ。よーし」
柚木さんがすばるの横に座って、マイクの位置の調整をした。
それから、姿勢を出した後、ふうっと息を吐いてボタンを押した。
「こんにちは。お昼休みがやってきました。いつものように放送クラブの柚木と佐谷がおおくりします。では、今日から始まる新コーナー! わくわくクラブのお時間です」
柚木さんが、明るく、落ち着いた声を響かせた。
すごい。マイクを通すと柚木さんの声がアナウンサーみたいに聞こえるな。
「それでは、最初に紹介するのは、園芸クラブさんです。では、日生すばるくん。どうぞ」
柚木さんに目で合図されて、すばるはあわてて姿勢を正す。
「ぼぼぼぼぼぼぼくたち園芸くっクラブは、えーとえーと……」
……ガチガチでカミカミじゃないか。
ハラハラした気持ちで、すばるを見ていると、横で風斗がぷっとふき出した。
「毎日水やりをして、はっ、花と野菜をそっそ、育ててますっ」
すばるは、ふるえる手でメモを持って、一生懸命読み上げる。
見ているこっちまでドキドキが伝わってきそうだが、メモの中盤くらいになると、声がだいぶん落ち着いてきた。
「ぼ、ぼくたちは畑も作っていて、土にもこだわっています。植物にとって土はとても大事だからです」
土か。そう言えば、ふかふかだったな。
見ると、となりで風斗がメモを取り始めた。
熱心だな。さすが園芸クラブだ。(って、私も園芸クラブだが)
「土には堆肥も混ぜて……あ、堆肥はホームセンターで買ってきた牛糞堆肥を使っています。牛糞っていうのは、牛のうんちを発酵させ、微生物の力を借りて分解された有機質肥料で……」
のってきたすばるは、スラスラ説明をしているが、柚木さんの目が点になっている。
となりにいた佐谷さんが、あわてて柚木さんにこそっとささやいた。
「柚木さん、いいの? お昼どきの放送なのに……糞とか牛の……っていうワードとか」
その声が聞こえたのか、すばるがハッとした顔でぴたりと説明を止めた。
「えっと、あ、あのっ……」
すばるは顔を真っ赤にしたかと思うと、フリーズしてしまった。
しーんと沈黙が流れ、佐谷さんがオロオロしている。
「放送事故ってやつ?」
風斗がゆかいそうにつぶやいた。
……と、柚木さんがマイクに顔をよせた。
「そんなわけで、土にもこだわりを持って植物を育てている園芸クラブです。みなさん、興味がありましたら、南校舎前の畑に来てみてくださいね。それでは、次のコーナーに行きましょー! 音楽クラブが作った曲を楽しんでいただくこのコーナー。今日のおすすめ曲は『雨上がりのカエルたち』です。どうぞ~」
我に返った佐谷さんがボタンを押すと、音楽が流れ始めた。
手際よく、自分のマイクとすばるのマイクのスイッチをオフにした柚木さんに、すばるががばっと頭を下げた。
「ごめんなさいっ! ぼくってばお昼の時間にとんでもない言葉を……」
「あははっ、大丈夫だよ~。すばるくん、おもしろいねー」
おなかをかかえて笑い始めた柚木さんに、佐谷さんがあきれた顔を向けた。
「柚木さんてば。笑いだしたら止まらないんだから」
「本当に……本当にごめんなさい!」
「だから、いいってば」
柚木さんはひぃひぃ笑って手を振るけど、すばるは涙目で訴える。
「でも、まだ給食を食べていた子がいたかもしれない。低学年の子たちとか……なのに、ぼくはっ」
「そんなに気にしなくて大丈夫。低学年は今日、先生たちの会議で短縮授業だから、もう帰る用意してる頃だよ」
柚木さんがフォローを入れてくれてるが、すばるは平謝り。
結局……放送室を出るまで、すばるはどんより顔のままだった。
お昼休みの放送室前。
すばるはドアノブに手をかけようとして、やめてを繰り返している。
「ぼ、ぼくが言ったこと、校内中に流れるんだよね? そ、それってすごいことだよね。でも、もし、失敗したらどうしよう。ううう……」
ドアの前でウロウロするすばるを、私と風斗は観察……じゃなくて見守る。
園芸クラブの良さを全校生に知ってもらう、なんてはじめは言ってたのに、今は緊張のカタマリだ。
「や、やっぱりやめようか……」
すばるがまわれ右をした時、ガチャッと勢いよくドアが開いた。
「いらっしゃーい! 待ってたよん。入ってきてくれてよかったのに~」
柚木さんが満面の笑顔で言って、すばるがギギギっと首を動かす。
「あ、あの、柚木さん、ぼく……」
「もうあと三分でお昼の放送始まるから、急いで!」
柚木さんがすばるの腕をぐいっと引っ張って、中へ引き込んだ。
「座って、座って♪」
マイクの前に無理やり座らされたすばるは、氷のようにカチコチだ。
柚木さんの他にもう一人、目の大きな女子がいて、私たちにぺこっと頭を下げてきた。
「この子はもう一人の放送クラブの子で、五年生の佐谷(さたに)ちゃんだよ」
佐谷さんは、「よろしくお願いします」と言った後、柚木さんの袖を引っ張った。
「柚木さん、もう始まる時間です」
「あ、ほんとだ。よーし」
柚木さんがすばるの横に座って、マイクの位置の調整をした。
それから、姿勢を出した後、ふうっと息を吐いてボタンを押した。
「こんにちは。お昼休みがやってきました。いつものように放送クラブの柚木と佐谷がおおくりします。では、今日から始まる新コーナー! わくわくクラブのお時間です」
柚木さんが、明るく、落ち着いた声を響かせた。
すごい。マイクを通すと柚木さんの声がアナウンサーみたいに聞こえるな。
「それでは、最初に紹介するのは、園芸クラブさんです。では、日生すばるくん。どうぞ」
柚木さんに目で合図されて、すばるはあわてて姿勢を正す。
「ぼぼぼぼぼぼぼくたち園芸くっクラブは、えーとえーと……」
……ガチガチでカミカミじゃないか。
ハラハラした気持ちで、すばるを見ていると、横で風斗がぷっとふき出した。
「毎日水やりをして、はっ、花と野菜をそっそ、育ててますっ」
すばるは、ふるえる手でメモを持って、一生懸命読み上げる。
見ているこっちまでドキドキが伝わってきそうだが、メモの中盤くらいになると、声がだいぶん落ち着いてきた。
「ぼ、ぼくたちは畑も作っていて、土にもこだわっています。植物にとって土はとても大事だからです」
土か。そう言えば、ふかふかだったな。
見ると、となりで風斗がメモを取り始めた。
熱心だな。さすが園芸クラブだ。(って、私も園芸クラブだが)
「土には堆肥も混ぜて……あ、堆肥はホームセンターで買ってきた牛糞堆肥を使っています。牛糞っていうのは、牛のうんちを発酵させ、微生物の力を借りて分解された有機質肥料で……」
のってきたすばるは、スラスラ説明をしているが、柚木さんの目が点になっている。
となりにいた佐谷さんが、あわてて柚木さんにこそっとささやいた。
「柚木さん、いいの? お昼どきの放送なのに……糞とか牛の……っていうワードとか」
その声が聞こえたのか、すばるがハッとした顔でぴたりと説明を止めた。
「えっと、あ、あのっ……」
すばるは顔を真っ赤にしたかと思うと、フリーズしてしまった。
しーんと沈黙が流れ、佐谷さんがオロオロしている。
「放送事故ってやつ?」
風斗がゆかいそうにつぶやいた。
……と、柚木さんがマイクに顔をよせた。
「そんなわけで、土にもこだわりを持って植物を育てている園芸クラブです。みなさん、興味がありましたら、南校舎前の畑に来てみてくださいね。それでは、次のコーナーに行きましょー! 音楽クラブが作った曲を楽しんでいただくこのコーナー。今日のおすすめ曲は『雨上がりのカエルたち』です。どうぞ~」
我に返った佐谷さんがボタンを押すと、音楽が流れ始めた。
手際よく、自分のマイクとすばるのマイクのスイッチをオフにした柚木さんに、すばるががばっと頭を下げた。
「ごめんなさいっ! ぼくってばお昼の時間にとんでもない言葉を……」
「あははっ、大丈夫だよ~。すばるくん、おもしろいねー」
おなかをかかえて笑い始めた柚木さんに、佐谷さんがあきれた顔を向けた。
「柚木さんてば。笑いだしたら止まらないんだから」
「本当に……本当にごめんなさい!」
「だから、いいってば」
柚木さんはひぃひぃ笑って手を振るけど、すばるは涙目で訴える。
「でも、まだ給食を食べていた子がいたかもしれない。低学年の子たちとか……なのに、ぼくはっ」
「そんなに気にしなくて大丈夫。低学年は今日、先生たちの会議で短縮授業だから、もう帰る用意してる頃だよ」
柚木さんがフォローを入れてくれてるが、すばるは平謝り。
結局……放送室を出るまで、すばるはどんより顔のままだった。
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