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5章
放送部からのオファー
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その日はめずらしく、すばる、風斗と一緒に中間休みに園芸クラブの部屋に集まっていた。
理科の授業で、植物の調べ学習の課題が出たためだ。
同学年のみんなは図書室に流れこんでいたが、すばるのおかげでこの部屋にも植物の本はたくさんある。
園芸クラブの特権だ。おかげで、混みあったところで課題をせずにすむ。
園芸本を引っ張り出し、ノートにせっせと書いていると、ドアをたたく音がした。
「はーい」
返事をしたすばるがドアを開けると、ポニーテールの女子が立っていた。
「あ、すばるくん。やっぱりここにいたんだね。四組の柚木(ゆずき)です。放送クラブのお願いがあってやってきましたー!」
やけに明るい声が響いて、私と風斗は鉛筆を止めた。
「あ、どうぞ」
すばるが言うと、柚木さんはニコニコしながら入ってきた。
「わー、ここが園芸クラブの部屋なんだね~。初めて入ったー♪」
部屋中を見まわす柚木さんに、すばるがイスをすすめると、柚木さんは「ありがとー」と弾んだ声で言って、腰をおろした。
「あの、お願いってなに?」
向かいに座ったすばるがきくと、柚木さんはニパッと笑った。
「放送クラブのことなんだけど。今日のお昼休みから、クラブを紹介する『わくわくクラブ』ってコーナーを放送するんだ」
「へぇ! おもしろそうだね」
「うん。それで。まず第一回目は、園芸クラブさんにお願いしたいの」
「えっ! な、なんでぼくたちが一番なの?」
固い口調で言うすばるに、柚木さんは少し考えるように額に手をやった。
「ええと。正直に言うと、他の文化クラブのみなさんは、七月にある七夕会の用意で忙しいらしいの。それで、まずはヒマそう……じゃなくてっ、時間がありそうな園芸クラブさんにお願いしよっかなーって」
なるほど。……ヒマそうに見えるんだな。
まぁ、傍から見れば、このクラブは水やりしてるだけに見えるかもしれないな。
心の中でうなずいてると、すばるがくっと眉をつり上げた。
「それって……」
強い瞳ですばるが柚木さんを見すえた。
おや? めずらしい。すばる、怒ったのか?
それも仕方がないことかもしれない。
毎日の水やりや花の手入れ、枯れた葉の処理……
園芸クラブはヒマそうに見えて、実はやることがいっぱいだ。
すばるは園芸クラブの代表として「ヒマそう」という言葉に引っかかったのかもしれない。
すばるの強い視線を受けて、柚木さんが少しとまどった表情を見せた。
「あ、ごめん。決して園芸クラブがヒマとか……」
「それって……チャンスだよね!」
勢いよく言うすばるに、私たちは「え?」と二度見した。
「その放送で、全校のみんなに園芸クラブの良さを知ってもらえるチャンスだよね!」
柚木さんがハッとして、ぱしっと胸の前で手を組んだ。
「そうだよ。だから、ぜひぜひお願いしたいの! もしかしたら、放送を聞いて興味持ってくれる人がいるかも! そしたら、部員が増えて、クラブ費も支給されて、新しい道具とか新調できるかもしれないよ……ふふふ……」
柚木さんが気味の悪い声を出して、にんまりする。
「分かったよ! やる! 園芸クラブをみんなに知ってもらうんだ! 柚木さん、ぜひお願いします!」
すばるが頭を下げると、柚木さんが両手を広げた。
「やった~! ありがとう、すばるくん! じゃあ早速、給食食べた後、すぐに放送室まで来てね!」
「えっ……今日?」
「うん。言ったでしょ? 今日のお昼休みから始まるコーナーだって」
「えええっ、そんな、ぼく、心の準備が……」
「だいじょーぶ、大丈夫っ。十分もかからないから。園芸クラブの活動を簡単に説明してくれるだけでいいよ。じゃ、よろしくね~」
とまどうすばるを残して、柚木さんはゴキゲンで帰っていった。
「どうしよう。早口言葉とか言えないよ」
すばるがあわわ……と口を押さえる。
えーっと。……早口言葉を言う必要があるのか?
理科の授業で、植物の調べ学習の課題が出たためだ。
同学年のみんなは図書室に流れこんでいたが、すばるのおかげでこの部屋にも植物の本はたくさんある。
園芸クラブの特権だ。おかげで、混みあったところで課題をせずにすむ。
園芸本を引っ張り出し、ノートにせっせと書いていると、ドアをたたく音がした。
「はーい」
返事をしたすばるがドアを開けると、ポニーテールの女子が立っていた。
「あ、すばるくん。やっぱりここにいたんだね。四組の柚木(ゆずき)です。放送クラブのお願いがあってやってきましたー!」
やけに明るい声が響いて、私と風斗は鉛筆を止めた。
「あ、どうぞ」
すばるが言うと、柚木さんはニコニコしながら入ってきた。
「わー、ここが園芸クラブの部屋なんだね~。初めて入ったー♪」
部屋中を見まわす柚木さんに、すばるがイスをすすめると、柚木さんは「ありがとー」と弾んだ声で言って、腰をおろした。
「あの、お願いってなに?」
向かいに座ったすばるがきくと、柚木さんはニパッと笑った。
「放送クラブのことなんだけど。今日のお昼休みから、クラブを紹介する『わくわくクラブ』ってコーナーを放送するんだ」
「へぇ! おもしろそうだね」
「うん。それで。まず第一回目は、園芸クラブさんにお願いしたいの」
「えっ! な、なんでぼくたちが一番なの?」
固い口調で言うすばるに、柚木さんは少し考えるように額に手をやった。
「ええと。正直に言うと、他の文化クラブのみなさんは、七月にある七夕会の用意で忙しいらしいの。それで、まずはヒマそう……じゃなくてっ、時間がありそうな園芸クラブさんにお願いしよっかなーって」
なるほど。……ヒマそうに見えるんだな。
まぁ、傍から見れば、このクラブは水やりしてるだけに見えるかもしれないな。
心の中でうなずいてると、すばるがくっと眉をつり上げた。
「それって……」
強い瞳ですばるが柚木さんを見すえた。
おや? めずらしい。すばる、怒ったのか?
それも仕方がないことかもしれない。
毎日の水やりや花の手入れ、枯れた葉の処理……
園芸クラブはヒマそうに見えて、実はやることがいっぱいだ。
すばるは園芸クラブの代表として「ヒマそう」という言葉に引っかかったのかもしれない。
すばるの強い視線を受けて、柚木さんが少しとまどった表情を見せた。
「あ、ごめん。決して園芸クラブがヒマとか……」
「それって……チャンスだよね!」
勢いよく言うすばるに、私たちは「え?」と二度見した。
「その放送で、全校のみんなに園芸クラブの良さを知ってもらえるチャンスだよね!」
柚木さんがハッとして、ぱしっと胸の前で手を組んだ。
「そうだよ。だから、ぜひぜひお願いしたいの! もしかしたら、放送を聞いて興味持ってくれる人がいるかも! そしたら、部員が増えて、クラブ費も支給されて、新しい道具とか新調できるかもしれないよ……ふふふ……」
柚木さんが気味の悪い声を出して、にんまりする。
「分かったよ! やる! 園芸クラブをみんなに知ってもらうんだ! 柚木さん、ぜひお願いします!」
すばるが頭を下げると、柚木さんが両手を広げた。
「やった~! ありがとう、すばるくん! じゃあ早速、給食食べた後、すぐに放送室まで来てね!」
「えっ……今日?」
「うん。言ったでしょ? 今日のお昼休みから始まるコーナーだって」
「えええっ、そんな、ぼく、心の準備が……」
「だいじょーぶ、大丈夫っ。十分もかからないから。園芸クラブの活動を簡単に説明してくれるだけでいいよ。じゃ、よろしくね~」
とまどうすばるを残して、柚木さんはゴキゲンで帰っていった。
「どうしよう。早口言葉とか言えないよ」
すばるがあわわ……と口を押さえる。
えーっと。……早口言葉を言う必要があるのか?
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