星のプランツガーデン

森野ゆら

文字の大きさ
上 下
24 / 41
5章

放送部からのオファー

しおりを挟む
 その日はめずらしく、すばる、風斗と一緒に中間休みに園芸クラブの部屋に集まっていた。
 理科の授業で、植物の調べ学習の課題が出たためだ。
 同学年のみんなは図書室に流れこんでいたが、すばるのおかげでこの部屋にも植物の本はたくさんある。
 園芸クラブの特権だ。おかげで、混みあったところで課題をせずにすむ。
 園芸本を引っ張り出し、ノートにせっせと書いていると、ドアをたたく音がした。

「はーい」

 返事をしたすばるがドアを開けると、ポニーテールの女子が立っていた。

「あ、すばるくん。やっぱりここにいたんだね。四組の柚木(ゆずき)です。放送クラブのお願いがあってやってきましたー!」

 やけに明るい声が響いて、私と風斗は鉛筆を止めた。

「あ、どうぞ」

 すばるが言うと、柚木さんはニコニコしながら入ってきた。

「わー、ここが園芸クラブの部屋なんだね~。初めて入ったー♪」

 部屋中を見まわす柚木さんに、すばるがイスをすすめると、柚木さんは「ありがとー」と弾んだ声で言って、腰をおろした。

「あの、お願いってなに?」

 向かいに座ったすばるがきくと、柚木さんはニパッと笑った。

「放送クラブのことなんだけど。今日のお昼休みから、クラブを紹介する『わくわくクラブ』ってコーナーを放送するんだ」

「へぇ! おもしろそうだね」

「うん。それで。まず第一回目は、園芸クラブさんにお願いしたいの」

「えっ! な、なんでぼくたちが一番なの?」

 固い口調で言うすばるに、柚木さんは少し考えるように額に手をやった。

「ええと。正直に言うと、他の文化クラブのみなさんは、七月にある七夕会の用意で忙しいらしいの。それで、まずはヒマそう……じゃなくてっ、時間がありそうな園芸クラブさんにお願いしよっかなーって」

 なるほど。……ヒマそうに見えるんだな。
 まぁ、傍から見れば、このクラブは水やりしてるだけに見えるかもしれないな。
 心の中でうなずいてると、すばるがくっと眉をつり上げた。

「それって……」

 強い瞳ですばるが柚木さんを見すえた。
 おや? めずらしい。すばる、怒ったのか?
 それも仕方がないことかもしれない。
 毎日の水やりや花の手入れ、枯れた葉の処理……
 園芸クラブはヒマそうに見えて、実はやることがいっぱいだ。
 すばるは園芸クラブの代表として「ヒマそう」という言葉に引っかかったのかもしれない。
 すばるの強い視線を受けて、柚木さんが少しとまどった表情を見せた。

「あ、ごめん。決して園芸クラブがヒマとか……」

「それって……チャンスだよね!」

 勢いよく言うすばるに、私たちは「え?」と二度見した。

「その放送で、全校のみんなに園芸クラブの良さを知ってもらえるチャンスだよね!」

 柚木さんがハッとして、ぱしっと胸の前で手を組んだ。

「そうだよ。だから、ぜひぜひお願いしたいの! もしかしたら、放送を聞いて興味持ってくれる人がいるかも! そしたら、部員が増えて、クラブ費も支給されて、新しい道具とか新調できるかもしれないよ……ふふふ……」

 柚木さんが気味の悪い声を出して、にんまりする。

「分かったよ! やる! 園芸クラブをみんなに知ってもらうんだ! 柚木さん、ぜひお願いします!」

 すばるが頭を下げると、柚木さんが両手を広げた。 

「やった~! ありがとう、すばるくん! じゃあ早速、給食食べた後、すぐに放送室まで来てね!」

「えっ……今日?」

「うん。言ったでしょ? 今日のお昼休みから始まるコーナーだって」

「えええっ、そんな、ぼく、心の準備が……」

「だいじょーぶ、大丈夫っ。十分もかからないから。園芸クラブの活動を簡単に説明してくれるだけでいいよ。じゃ、よろしくね~」

 とまどうすばるを残して、柚木さんはゴキゲンで帰っていった。

「どうしよう。早口言葉とか言えないよ」

 すばるがあわわ……と口を押さえる。
 えーっと。……早口言葉を言う必要があるのか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

処理中です...