22 / 41
4章
ゆれる心
しおりを挟む
「……はい。すばるが隕石のかけらのことを知っているかは、微妙です。引き続き、すばるの様子を探っていきます」
屋上へつながる階段に座り、通信機の向こうのリーダーに答える。
放課後のこの時間、帰宅した生徒やクラブに行った生徒ばかりで誰もいないが、念のために声をひそめる。
学園にいる間、リーダーと通信する時は人気のない場所を探すのに苦労する。
この屋上への階段は、めったに人が来ない貴重な場所だ。
「……話は変わるが。リィ。君は組織の中でも派閥があるのを知っているか?」
「……はい。ウワサは聞いたことがあります。上層部を強く支持するグループと、それに反発するグループ」
「知っていたか。ちなみに……リィ。おれたちはどちらのグループだと思う?」
「え……」
そんなの考えたことはなかった。
私はただ、クロリバ星のために組織の元で動いているだけで。
「難しい質問だったな。悪かった。じゃあ、また何かあったら連絡してくれ」
プチッと切れた通信機をスカートのポケットに入れた。
どこの世界でも、派閥というものはあるものだな。
たとえ同じ組織の中でも、少し考え方がちがうだけで分かれてしまう。
まぁ、教室の中でもそうだ。
茶谷モエのグループに、運動クラブの仲良しグループ、おとなしい系のグループ……
女子の中では更に細かく分類されてしまうようだ。私はどこのグループにも属さないが。
さてと。今日も園芸クラブの方へ行くか。
私が園芸クラブに入ってから、三週間。
すっかり、園芸クラブのメンバーを演じるのも慣れてきた。
園芸クラブのドアを開けると、観葉植物の手入れをしていたすばるが立ち上がった。
「あ、里依ちゃん。教室にはいなかったから、今日はもう帰ったのかと思った」
「いや……ちょっと係の仕事で」
あははとごまかし笑いをすると、すばるがあわてて手を振った。
「あ、いいんだよ。風斗もまだだし。それより、校長先生からこんな紙をもらってさ」
すばるが出してきたのは、一枚の紙。
(注意!)という赤文字の下に、花壇や農作物が荒らされる被害が続出! と書いてある。
「自治会からの通達なんだって。ニュースでもやってたけど、この辺りでも被害が出始めたみたい。校長先生は、誰かの嫌がらせだろうって言ってたけど……念のため、園芸クラブも注意するようにって」
「そ……そうなんだね」
すばるに答えながらも、心の中では冷や汗をかく。
学園に入るまでは、私は毎日のようにビーム銃で植物を枯らせていた。
しかし、最近はすばるに見つかるとまずいから、ビーム銃すら出してない。
家のクローゼットに眠らせたままだ。
最後にビーム銃を使ったのは、この学園に入学する前にタンポポを撃ったのが最後だ。
なのに、どうしてだろう?
私がやっていたことが、今頃になってニュースで報道されたり、自治会で問題になっているのだろうか?
それとも……私の他に、植物を荒らしている者がいるのか?
考えていると、ドアが開いて風斗が入ってきた。
「こんにちは」
風斗が小さな声であいさつして、長机の上にドサリとカバンを置く。
風斗のカバンの持ち手の所にゆれているのは、キーホルダーにしてある小さな人形。
……なんだこの人形? 変なデザインだな。
青と白のシマシマ模様の体に、口からキバがはみ出た怪物のキャラクター。
キャラの顔はお世辞にも可愛いとは言えない。
しかし、このキャラ、どこかで見たな? 今、はやってるんだろうか?
顔をしかめていると、すばるが畑へのドアを開けた。
「よーし、今日も野菜たちのお世話をするぞ~」
私と風斗もすばるの後について、畑へと出る。
太陽の光がまぶしくて、暑い。
そんな暑さにも負けず、植物たちは日に日に成長している。
私が植えたミニトマトは、なんと最近、黄色い花が咲いた。
しかも、花のあとに緑の小さな実ができているのも発見した。
花から実になるなんて、かなりの驚きだ。
他の野菜や花も少し見ぬ間に、茎がぐんと伸びていたり、葉が大きくなったり。
そんな脅威の成長を私は毎日メモし、リーダーへ報告書を出している。
これも植物の生態を知り、根絶やしにするための大事な仕事だ。
今日も園芸クラブの一員を演じて、任務を頑張ろう。
ぐっと気合を入れた時、ヒューンと空から何かが飛んできた。
「あ、ツバメ」
すばるが見上げて、ツバメの飛ぶ方向をうれしそうに眺めている。
軒下に入ったツバメが、くわえていたなにかを壁にはりつけている。
「巣、作るのかなぁ」
すばるがニコニコしながら、ツバメを見上げた。
ほう。鳥という生物はあんな風に巣をつくるのか。
「じゃじゃん♪ 突然ですが、ツバメクイズです」
「は?」
急にクイズの出題者になったすばるに、私は身構えた。
「ツバメが低く飛べば天気は何になると言われてるでしょう? 晴れか雨で答えてね」
「低く飛んだら……?」
風斗があごに手をあてて、うーんと考える。
さっぱり分からんな。鳥類についてはあまり調べてなかったからな。
今度、本屋で鳥の図鑑を探してみるか。
しかし……しょせん二択だ。半分の確率で当ててみせる。
「晴れ!」
強気で言うと、すばるが両手でバツを作った。
「ブブー。答えは雨でした」
「なぜだ?」
ムッとして言うと、すばるがくすっと笑った。
「ツバメのエサになる虫は湿度が上がると羽が重くなって高く飛べないんだ。だからその虫を捕まえて食べるツバメも低く飛ぶらしいよ」
「ほう……」
適当に言ってるのかと思ったが、一応根拠があるらしい。
……この地球の生き物はおもしろいな。
そう思いながら、じょうろを取りに倉庫へと向かった。
屋上へつながる階段に座り、通信機の向こうのリーダーに答える。
放課後のこの時間、帰宅した生徒やクラブに行った生徒ばかりで誰もいないが、念のために声をひそめる。
学園にいる間、リーダーと通信する時は人気のない場所を探すのに苦労する。
この屋上への階段は、めったに人が来ない貴重な場所だ。
「……話は変わるが。リィ。君は組織の中でも派閥があるのを知っているか?」
「……はい。ウワサは聞いたことがあります。上層部を強く支持するグループと、それに反発するグループ」
「知っていたか。ちなみに……リィ。おれたちはどちらのグループだと思う?」
「え……」
そんなの考えたことはなかった。
私はただ、クロリバ星のために組織の元で動いているだけで。
「難しい質問だったな。悪かった。じゃあ、また何かあったら連絡してくれ」
プチッと切れた通信機をスカートのポケットに入れた。
どこの世界でも、派閥というものはあるものだな。
たとえ同じ組織の中でも、少し考え方がちがうだけで分かれてしまう。
まぁ、教室の中でもそうだ。
茶谷モエのグループに、運動クラブの仲良しグループ、おとなしい系のグループ……
女子の中では更に細かく分類されてしまうようだ。私はどこのグループにも属さないが。
さてと。今日も園芸クラブの方へ行くか。
私が園芸クラブに入ってから、三週間。
すっかり、園芸クラブのメンバーを演じるのも慣れてきた。
園芸クラブのドアを開けると、観葉植物の手入れをしていたすばるが立ち上がった。
「あ、里依ちゃん。教室にはいなかったから、今日はもう帰ったのかと思った」
「いや……ちょっと係の仕事で」
あははとごまかし笑いをすると、すばるがあわてて手を振った。
「あ、いいんだよ。風斗もまだだし。それより、校長先生からこんな紙をもらってさ」
すばるが出してきたのは、一枚の紙。
(注意!)という赤文字の下に、花壇や農作物が荒らされる被害が続出! と書いてある。
「自治会からの通達なんだって。ニュースでもやってたけど、この辺りでも被害が出始めたみたい。校長先生は、誰かの嫌がらせだろうって言ってたけど……念のため、園芸クラブも注意するようにって」
「そ……そうなんだね」
すばるに答えながらも、心の中では冷や汗をかく。
学園に入るまでは、私は毎日のようにビーム銃で植物を枯らせていた。
しかし、最近はすばるに見つかるとまずいから、ビーム銃すら出してない。
家のクローゼットに眠らせたままだ。
最後にビーム銃を使ったのは、この学園に入学する前にタンポポを撃ったのが最後だ。
なのに、どうしてだろう?
私がやっていたことが、今頃になってニュースで報道されたり、自治会で問題になっているのだろうか?
それとも……私の他に、植物を荒らしている者がいるのか?
考えていると、ドアが開いて風斗が入ってきた。
「こんにちは」
風斗が小さな声であいさつして、長机の上にドサリとカバンを置く。
風斗のカバンの持ち手の所にゆれているのは、キーホルダーにしてある小さな人形。
……なんだこの人形? 変なデザインだな。
青と白のシマシマ模様の体に、口からキバがはみ出た怪物のキャラクター。
キャラの顔はお世辞にも可愛いとは言えない。
しかし、このキャラ、どこかで見たな? 今、はやってるんだろうか?
顔をしかめていると、すばるが畑へのドアを開けた。
「よーし、今日も野菜たちのお世話をするぞ~」
私と風斗もすばるの後について、畑へと出る。
太陽の光がまぶしくて、暑い。
そんな暑さにも負けず、植物たちは日に日に成長している。
私が植えたミニトマトは、なんと最近、黄色い花が咲いた。
しかも、花のあとに緑の小さな実ができているのも発見した。
花から実になるなんて、かなりの驚きだ。
他の野菜や花も少し見ぬ間に、茎がぐんと伸びていたり、葉が大きくなったり。
そんな脅威の成長を私は毎日メモし、リーダーへ報告書を出している。
これも植物の生態を知り、根絶やしにするための大事な仕事だ。
今日も園芸クラブの一員を演じて、任務を頑張ろう。
ぐっと気合を入れた時、ヒューンと空から何かが飛んできた。
「あ、ツバメ」
すばるが見上げて、ツバメの飛ぶ方向をうれしそうに眺めている。
軒下に入ったツバメが、くわえていたなにかを壁にはりつけている。
「巣、作るのかなぁ」
すばるがニコニコしながら、ツバメを見上げた。
ほう。鳥という生物はあんな風に巣をつくるのか。
「じゃじゃん♪ 突然ですが、ツバメクイズです」
「は?」
急にクイズの出題者になったすばるに、私は身構えた。
「ツバメが低く飛べば天気は何になると言われてるでしょう? 晴れか雨で答えてね」
「低く飛んだら……?」
風斗があごに手をあてて、うーんと考える。
さっぱり分からんな。鳥類についてはあまり調べてなかったからな。
今度、本屋で鳥の図鑑を探してみるか。
しかし……しょせん二択だ。半分の確率で当ててみせる。
「晴れ!」
強気で言うと、すばるが両手でバツを作った。
「ブブー。答えは雨でした」
「なぜだ?」
ムッとして言うと、すばるがくすっと笑った。
「ツバメのエサになる虫は湿度が上がると羽が重くなって高く飛べないんだ。だからその虫を捕まえて食べるツバメも低く飛ぶらしいよ」
「ほう……」
適当に言ってるのかと思ったが、一応根拠があるらしい。
……この地球の生き物はおもしろいな。
そう思いながら、じょうろを取りに倉庫へと向かった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
空の話をしよう
源燕め
児童書・童話
「空の話をしよう」
そう言って、美しい白い羽を持つ羽人(はねひと)は、自分を助けた男の子に、空の話をした。
人は、空を飛ぶために、飛空艇を作り上げた。
生まれながらに羽を持つ羽人と人間の物語がはじまる。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
ベンとテラの大冒険
田尾風香
児童書・童話
むかしむかしあるところに、ベンという兄と、テラという妹がいました。ある日二人は、過去に失われた魔法の力を求めて、森の中に入ってしまいます。しかし、森の中で迷子になってしまい、テラが怪我をしてしまいました。そんな二人の前に現れたのは、緑色の体をした、不思議な女性。リンと名乗る精霊でした。全九話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる