星のプランツガーデン

森野ゆら

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4章

ゆれる心

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「……はい。すばるが隕石のかけらのことを知っているかは、微妙です。引き続き、すばるの様子を探っていきます」

 屋上へつながる階段に座り、通信機の向こうのリーダーに答える。
 放課後のこの時間、帰宅した生徒やクラブに行った生徒ばかりで誰もいないが、念のために声をひそめる。
 学園にいる間、リーダーと通信する時は人気のない場所を探すのに苦労する。
 この屋上への階段は、めったに人が来ない貴重な場所だ。

「……話は変わるが。リィ。君は組織の中でも派閥があるのを知っているか?」

「……はい。ウワサは聞いたことがあります。上層部を強く支持するグループと、それに反発するグループ」

「知っていたか。ちなみに……リィ。おれたちはどちらのグループだと思う?」

「え……」

 そんなの考えたことはなかった。
 私はただ、クロリバ星のために組織の元で動いているだけで。

「難しい質問だったな。悪かった。じゃあ、また何かあったら連絡してくれ」

 プチッと切れた通信機をスカートのポケットに入れた。
 どこの世界でも、派閥というものはあるものだな。
 たとえ同じ組織の中でも、少し考え方がちがうだけで分かれてしまう。
 まぁ、教室の中でもそうだ。
 茶谷モエのグループに、運動クラブの仲良しグループ、おとなしい系のグループ……
 女子の中では更に細かく分類されてしまうようだ。私はどこのグループにも属さないが。
 さてと。今日も園芸クラブの方へ行くか。
 私が園芸クラブに入ってから、三週間。
 すっかり、園芸クラブのメンバーを演じるのも慣れてきた。
 園芸クラブのドアを開けると、観葉植物の手入れをしていたすばるが立ち上がった。

「あ、里依ちゃん。教室にはいなかったから、今日はもう帰ったのかと思った」

「いや……ちょっと係の仕事で」

 あははとごまかし笑いをすると、すばるがあわてて手を振った。

「あ、いいんだよ。風斗もまだだし。それより、校長先生からこんな紙をもらってさ」

 すばるが出してきたのは、一枚の紙。
(注意!)という赤文字の下に、花壇や農作物が荒らされる被害が続出! と書いてある。

「自治会からの通達なんだって。ニュースでもやってたけど、この辺りでも被害が出始めたみたい。校長先生は、誰かの嫌がらせだろうって言ってたけど……念のため、園芸クラブも注意するようにって」

「そ……そうなんだね」

 すばるに答えながらも、心の中では冷や汗をかく。
 学園に入るまでは、私は毎日のようにビーム銃で植物を枯らせていた。
 しかし、最近はすばるに見つかるとまずいから、ビーム銃すら出してない。
 家のクローゼットに眠らせたままだ。
 最後にビーム銃を使ったのは、この学園に入学する前にタンポポを撃ったのが最後だ。
 なのに、どうしてだろう? 
 私がやっていたことが、今頃になってニュースで報道されたり、自治会で問題になっているのだろうか?
 それとも……私の他に、植物を荒らしている者がいるのか?
 考えていると、ドアが開いて風斗が入ってきた。

「こんにちは」

 風斗が小さな声であいさつして、長机の上にドサリとカバンを置く。
 風斗のカバンの持ち手の所にゆれているのは、キーホルダーにしてある小さな人形。
 ……なんだこの人形? 変なデザインだな。
 青と白のシマシマ模様の体に、口からキバがはみ出た怪物のキャラクター。
 キャラの顔はお世辞にも可愛いとは言えない。
 しかし、このキャラ、どこかで見たな? 今、はやってるんだろうか?
 顔をしかめていると、すばるが畑へのドアを開けた。

「よーし、今日も野菜たちのお世話をするぞ~」

 私と風斗もすばるの後について、畑へと出る。
 太陽の光がまぶしくて、暑い。
 そんな暑さにも負けず、植物たちは日に日に成長している。
 私が植えたミニトマトは、なんと最近、黄色い花が咲いた。
 しかも、花のあとに緑の小さな実ができているのも発見した。
 花から実になるなんて、かなりの驚きだ。
 他の野菜や花も少し見ぬ間に、茎がぐんと伸びていたり、葉が大きくなったり。
 そんな脅威の成長を私は毎日メモし、リーダーへ報告書を出している。
 これも植物の生態を知り、根絶やしにするための大事な仕事だ。
 今日も園芸クラブの一員を演じて、任務を頑張ろう。
 ぐっと気合を入れた時、ヒューンと空から何かが飛んできた。

「あ、ツバメ」

 すばるが見上げて、ツバメの飛ぶ方向をうれしそうに眺めている。
 軒下に入ったツバメが、くわえていたなにかを壁にはりつけている。

「巣、作るのかなぁ」

 すばるがニコニコしながら、ツバメを見上げた。
 ほう。鳥という生物はあんな風に巣をつくるのか。

「じゃじゃん♪ 突然ですが、ツバメクイズです」

「は?」

 急にクイズの出題者になったすばるに、私は身構えた。

「ツバメが低く飛べば天気は何になると言われてるでしょう? 晴れか雨で答えてね」

「低く飛んだら……?」

 風斗があごに手をあてて、うーんと考える。
 さっぱり分からんな。鳥類についてはあまり調べてなかったからな。 
 今度、本屋で鳥の図鑑を探してみるか。
 しかし……しょせん二択だ。半分の確率で当ててみせる。

「晴れ!」

 強気で言うと、すばるが両手でバツを作った。

「ブブー。答えは雨でした」

「なぜだ?」

 ムッとして言うと、すばるがくすっと笑った。

「ツバメのエサになる虫は湿度が上がると羽が重くなって高く飛べないんだ。だからその虫を捕まえて食べるツバメも低く飛ぶらしいよ」

「ほう……」

 適当に言ってるのかと思ったが、一応根拠があるらしい。
 ……この地球の生き物はおもしろいな。
 そう思いながら、じょうろを取りに倉庫へと向かった。
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