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4章
すばるファンのねたみ
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モエたちに連れてこられたのは、体育館の裏。
運動場の方から、にぎやかな声が聞こえてくる。
「わざわざこんな所まで連れてきて、何の用だ?」
きくと、三つ編み女子がフンッと鼻を鳴らした。
「何の用って……自分で分かってないの?」
「さっぱり分からんが」
首をひねると、三つ編み女子がイラっとしたように大きな声を出した。
「私たちが言いたいことは、すばるくんのことよ! あなた、すばるくんになれなれしいのよ。ねぇ。モエちゃん」
「……そうね」
三つ編み女子に同意を求められ、モエは静かにうなずいた。
続けて、メガネ女子がダンッと地面を踏みしめた。
「あなた、土曜日にすばるくんの家に行ったんでしょう? 何しに行ったの?」
「何しにって……」
まさか薫教授の部屋に忍び込んで、隕石のかけらを取ってこようとしたなんて言えない。
「……言えないこと?」
「え、まぁ……」
そう。言えないことだ……なんて言えば、余計に問い詰められそうだな。
だが、なんてごまかせばいいんだ。うまくかわせる理由がすぐに思いつかない。
何を言おうかと考えていると、三つ編み女子がハッとした。
「も、もしかしてっ。すばるくんの彼女になるために、すばるくんのお父様のお気に入りになろうと企んでるんじゃないでしょうね!」
なるほどっ!
三つ編み女子の提案に、私はポンと手を打った。
「それ! それにしよう!」
「は?」
三人はぽかんとして、私を見る。
「そう。私、すばるくんのお父様に気に入られたくて♡お話もいっぱいしちゃった!」
「あ、あなたねぇ……!」
メガネ女子がすごい目で私をにらみつけてくる。
ふふ。敵視されているようだが、何とかごまかせそうだな。
心の中でガッツポーズをしていると、三つ編み女子が私をびしっと指さしてきた。
「あなた、転校してきて間もないのに、すぐにすばるくんと仲良くするなんて、ルール違反なのよ。すばるくんは、クラスの女子にとってアイドルなんだから、独り占めは禁止なの。とにかく、すばるくんにベタベタしないで!」
なるほど。これが、ねたみか。
……地球人は嫉妬をする傾向があると言う。資料通りだ。
「ベタベタしているつもりはないが」
「空山さんって、ほんとはそんな話し方なんだね」
三つ編み女子が冷たく言い放ってきた。
それにうなずいて、メガネ女子が距離をつめてくる。
「すばるくんの前だけ、ぶりっこしてるの?」
「ぶりっこ?」
聞きなれない言葉に顔をしかめる。
ぶりっことはどういう意味だ?
そうだ。……たしか「ブリ」というアジ科に分類される魚が存在したはずだ。
ブリのような見た目の子だと言いたいのか?
いや、ちがう気がする。私は魚のコスプレはしていない。
ブリは出世魚と呼ばれる。
クラス内で私の出世をねたんでいるということか?
いや、なんでこの子たちが私の出世をねたむ必要があるんだ。
それとも、ブリには他の意味が? ブリ、ブリブリブリ……
分からん。くっ。私としたことが。まだまだ勉強不足だ……
ギリッと奥歯をかみしめると、三つ編み女子がハンッと笑った。
「何よ、その悔しそうな顔。ぶりっこしてるのがバレて悔しいの?」
「申し訳ない。私の出世オーラがあふれでているのであれば、それは仕方ないことで……」
「は? なに言ってるの?」
メガネ女子があきれたように息をついたあと、キッとにらんできた。
「とにかく、ムカつくのよ。すばるくんに近づこうとして、園芸クラブに入ってさ」
「そうそう。ずるいのよ。別に園芸に興味ないくせに!」
三つ編み女子が腕組みしながらうなずく。
園芸に興味ない……か。
そんなことはない。ちがった意味で興味があるだけで。
「黙っちゃって。やっぱり図星なんだ」
メガネ女子がふふっと勝気に笑った。
「そうだ。私は園芸が好きでクラブに入っているのではない。植物はキライだし、敵だ」
きっぱり言うと、メガネ女子と三つ編み女子がとまどったように顔を見合わせた。
今、水やりなどの世話をしているのも、すばるの前で面目を保つためのもの。
そう言えば。すばるは大の植物好きだが、一般の地球人は植物に対してどういう認識なんだろうか?
「……君たちは……植物が好きか?」
調査のためにきくと、三人は目を丸くした。
「え? まぁ、別にキライでもないけど」
三つ編み女子が言うと、メガネ女子が眉間にしわをよせた。
「わ、私はちょっと……ほら、虫とか苦手だし、育てるのに土で汚れるのもイヤだし、毎日水やりとかめんどくさいし。ね、モエちゃん」
メガネ女子から話をふられたモエは、整ったくちびるを少し動かした。
「植物は……い」
モエの小さな声がよく聞こえず、三つ編み女子がきき返した。
モエは答えず、かわりに私をまっすぐ見つめた。
「そんなことより……すばるくんから何かもらった?」
「え?」
「な、なに? あなた、すばるくんからプレゼントもらったの?」
三つ編み女子がイラッとして声を荒げた。
「……別に、何ももらってないが……」
私が答えたと同時にチャイムが鳴った。
「あ、もう行こう! 五時間目遅れちゃう」
「そうだね。とにかく、すばるくんに近いポジションだからって、いい気にならないでよね!」
三つ編み女子とメガネ女子がモエの手を引っ張り、三人は走り去っていった。
運動場の方から、にぎやかな声が聞こえてくる。
「わざわざこんな所まで連れてきて、何の用だ?」
きくと、三つ編み女子がフンッと鼻を鳴らした。
「何の用って……自分で分かってないの?」
「さっぱり分からんが」
首をひねると、三つ編み女子がイラっとしたように大きな声を出した。
「私たちが言いたいことは、すばるくんのことよ! あなた、すばるくんになれなれしいのよ。ねぇ。モエちゃん」
「……そうね」
三つ編み女子に同意を求められ、モエは静かにうなずいた。
続けて、メガネ女子がダンッと地面を踏みしめた。
「あなた、土曜日にすばるくんの家に行ったんでしょう? 何しに行ったの?」
「何しにって……」
まさか薫教授の部屋に忍び込んで、隕石のかけらを取ってこようとしたなんて言えない。
「……言えないこと?」
「え、まぁ……」
そう。言えないことだ……なんて言えば、余計に問い詰められそうだな。
だが、なんてごまかせばいいんだ。うまくかわせる理由がすぐに思いつかない。
何を言おうかと考えていると、三つ編み女子がハッとした。
「も、もしかしてっ。すばるくんの彼女になるために、すばるくんのお父様のお気に入りになろうと企んでるんじゃないでしょうね!」
なるほどっ!
三つ編み女子の提案に、私はポンと手を打った。
「それ! それにしよう!」
「は?」
三人はぽかんとして、私を見る。
「そう。私、すばるくんのお父様に気に入られたくて♡お話もいっぱいしちゃった!」
「あ、あなたねぇ……!」
メガネ女子がすごい目で私をにらみつけてくる。
ふふ。敵視されているようだが、何とかごまかせそうだな。
心の中でガッツポーズをしていると、三つ編み女子が私をびしっと指さしてきた。
「あなた、転校してきて間もないのに、すぐにすばるくんと仲良くするなんて、ルール違反なのよ。すばるくんは、クラスの女子にとってアイドルなんだから、独り占めは禁止なの。とにかく、すばるくんにベタベタしないで!」
なるほど。これが、ねたみか。
……地球人は嫉妬をする傾向があると言う。資料通りだ。
「ベタベタしているつもりはないが」
「空山さんって、ほんとはそんな話し方なんだね」
三つ編み女子が冷たく言い放ってきた。
それにうなずいて、メガネ女子が距離をつめてくる。
「すばるくんの前だけ、ぶりっこしてるの?」
「ぶりっこ?」
聞きなれない言葉に顔をしかめる。
ぶりっことはどういう意味だ?
そうだ。……たしか「ブリ」というアジ科に分類される魚が存在したはずだ。
ブリのような見た目の子だと言いたいのか?
いや、ちがう気がする。私は魚のコスプレはしていない。
ブリは出世魚と呼ばれる。
クラス内で私の出世をねたんでいるということか?
いや、なんでこの子たちが私の出世をねたむ必要があるんだ。
それとも、ブリには他の意味が? ブリ、ブリブリブリ……
分からん。くっ。私としたことが。まだまだ勉強不足だ……
ギリッと奥歯をかみしめると、三つ編み女子がハンッと笑った。
「何よ、その悔しそうな顔。ぶりっこしてるのがバレて悔しいの?」
「申し訳ない。私の出世オーラがあふれでているのであれば、それは仕方ないことで……」
「は? なに言ってるの?」
メガネ女子があきれたように息をついたあと、キッとにらんできた。
「とにかく、ムカつくのよ。すばるくんに近づこうとして、園芸クラブに入ってさ」
「そうそう。ずるいのよ。別に園芸に興味ないくせに!」
三つ編み女子が腕組みしながらうなずく。
園芸に興味ない……か。
そんなことはない。ちがった意味で興味があるだけで。
「黙っちゃって。やっぱり図星なんだ」
メガネ女子がふふっと勝気に笑った。
「そうだ。私は園芸が好きでクラブに入っているのではない。植物はキライだし、敵だ」
きっぱり言うと、メガネ女子と三つ編み女子がとまどったように顔を見合わせた。
今、水やりなどの世話をしているのも、すばるの前で面目を保つためのもの。
そう言えば。すばるは大の植物好きだが、一般の地球人は植物に対してどういう認識なんだろうか?
「……君たちは……植物が好きか?」
調査のためにきくと、三人は目を丸くした。
「え? まぁ、別にキライでもないけど」
三つ編み女子が言うと、メガネ女子が眉間にしわをよせた。
「わ、私はちょっと……ほら、虫とか苦手だし、育てるのに土で汚れるのもイヤだし、毎日水やりとかめんどくさいし。ね、モエちゃん」
メガネ女子から話をふられたモエは、整ったくちびるを少し動かした。
「植物は……い」
モエの小さな声がよく聞こえず、三つ編み女子がきき返した。
モエは答えず、かわりに私をまっすぐ見つめた。
「そんなことより……すばるくんから何かもらった?」
「え?」
「な、なに? あなた、すばるくんからプレゼントもらったの?」
三つ編み女子がイラッとして声を荒げた。
「……別に、何ももらってないが……」
私が答えたと同時にチャイムが鳴った。
「あ、もう行こう! 五時間目遅れちゃう」
「そうだね。とにかく、すばるくんに近いポジションだからって、いい気にならないでよね!」
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