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3章
苔テラリウム
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「じゃーん! 苔テラリウムの材料だよ。里依ちゃん、興味持ってくれてるみたいだったから、用意してたんだ」
苔テラリウム……?
あぁ、初めて園芸クラブの部屋に入った時に聞いたやつか。
すばるはパックを開けて、私の前に出してきた。
「ほら、これだよ。この前話してたタマゴケ。それからこっちはヒノキゴケ」
「あ……うん」
苔を指さすすばるに、私は生返事を返す。
そう言えば、あの時、苔の種類を聞いたような。
すばるには悪いが、あんまり覚えてないな。
「早速、今から作ってみようよ」
ワクワクした顔で言うすばるに、私は仕方なくうなずいた。
すばるは、ガラス瓶とピンセットを私と風斗に渡すと、こほんと咳払いをした。
「えー、まずは砂利を入れます」
小石が入った袋を開けたすばるは、ガラス瓶のフタを開けた。
からころんと面白い音を立てて、小さな石がガラス瓶の中へ入っていく。
「次はミズゴケをその上に入れまーす」
すばるの口調とノリは、この前テレビで見た、料理番組の先生みたいだ。
すばるが薄い黄色のフサフサしたものをピンセットで入れていく。
「ミズゴケ……これも苔なのか?」
きくと、すばるがうなずいた。
「そうだよ。湿地に生えてるのを乾燥させたものなんだ。水持ちがよくなるし、排水性もあるから入れてるといいんだよ」
へぇ。そうなのか。苔って言ってもいろいろあるんだな。
「この前給食で出た、切干大根みたい」
小人がしゃべったかのような声で風斗がつぶやくと、すばるが笑った。
「あはは。確かに。でも食べちゃダメだよ」
すばるが冗談を言って、風斗の口元がゆるむ。
この二人、ほんとに仲がいいんだな。こういう関係が「友達」っていうんだろう。
……いいな。
って、あれ? なんで私はうらやましく思ってるんだ?
ふと、思ってしまった気持ちを否定するように頭を振る。
何考えてるんだ。友達なんて不要だ。
すばるとの今の関係も任務のためのものだし。
私はきっと、すばるとは……今、目の前の二人のような関係になることはない。
そんなことをぼんやり考えながら、すばるの教えてくれる通りに作業していく。
その後、土を入れて水で湿らせ、すばるが言う「軽石」という石を入れた。
「では、いよいよ苔を植えるよ!」
これからすごく楽しいことが起こるぞ! と言わんばかりに、すばるが苔を手にした。
苔を分けて、少しずつピンセットで植えていく。
土の上、石の隙間、ガラス際……
瓶の中の世界に、どんどん緑が増えていく。
少し背の高いヒノキゴケと、やわらかいタマゴケをどこに配置するか……
これは、なかなかセンスがいるかもしれない。
石のくぼんだ所に入れるのも、おもしろいかもしれないな。
ピンセットで少しずつ苔を植えていると、いつの間にか夢中になっていた。
気づけば、風斗もすばるも真剣にピンセットを動かしている。
黙々と作業すること十五分ほど。
だいたい完成した私たちは、ピンセットを置いた。
「風斗も里依ちゃんも、初めてなのに上手だね」
感心したようにすばるに言われて、瓶の中をあらためて見る。
……まるで、瓶の中に小さな森が入ってるみたいだ。
ガラスの底の方は、砂利や土が地層のように見える。
「持って帰っていいよ。今日のお土産に」
すばるが後片付けをしながら言った時、
トントン
ノックの音がしてドアが開いた。
急にドクンと胸が鳴る。
入ってきたのは、背が高くてスーツを着た、メガネの男性。
「いらっしゃい、風斗くん。それに……里依ちゃんだね」
男性は私の顔を見て、にっこりほほえんだ。
苔テラリウム……?
あぁ、初めて園芸クラブの部屋に入った時に聞いたやつか。
すばるはパックを開けて、私の前に出してきた。
「ほら、これだよ。この前話してたタマゴケ。それからこっちはヒノキゴケ」
「あ……うん」
苔を指さすすばるに、私は生返事を返す。
そう言えば、あの時、苔の種類を聞いたような。
すばるには悪いが、あんまり覚えてないな。
「早速、今から作ってみようよ」
ワクワクした顔で言うすばるに、私は仕方なくうなずいた。
すばるは、ガラス瓶とピンセットを私と風斗に渡すと、こほんと咳払いをした。
「えー、まずは砂利を入れます」
小石が入った袋を開けたすばるは、ガラス瓶のフタを開けた。
からころんと面白い音を立てて、小さな石がガラス瓶の中へ入っていく。
「次はミズゴケをその上に入れまーす」
すばるの口調とノリは、この前テレビで見た、料理番組の先生みたいだ。
すばるが薄い黄色のフサフサしたものをピンセットで入れていく。
「ミズゴケ……これも苔なのか?」
きくと、すばるがうなずいた。
「そうだよ。湿地に生えてるのを乾燥させたものなんだ。水持ちがよくなるし、排水性もあるから入れてるといいんだよ」
へぇ。そうなのか。苔って言ってもいろいろあるんだな。
「この前給食で出た、切干大根みたい」
小人がしゃべったかのような声で風斗がつぶやくと、すばるが笑った。
「あはは。確かに。でも食べちゃダメだよ」
すばるが冗談を言って、風斗の口元がゆるむ。
この二人、ほんとに仲がいいんだな。こういう関係が「友達」っていうんだろう。
……いいな。
って、あれ? なんで私はうらやましく思ってるんだ?
ふと、思ってしまった気持ちを否定するように頭を振る。
何考えてるんだ。友達なんて不要だ。
すばるとの今の関係も任務のためのものだし。
私はきっと、すばるとは……今、目の前の二人のような関係になることはない。
そんなことをぼんやり考えながら、すばるの教えてくれる通りに作業していく。
その後、土を入れて水で湿らせ、すばるが言う「軽石」という石を入れた。
「では、いよいよ苔を植えるよ!」
これからすごく楽しいことが起こるぞ! と言わんばかりに、すばるが苔を手にした。
苔を分けて、少しずつピンセットで植えていく。
土の上、石の隙間、ガラス際……
瓶の中の世界に、どんどん緑が増えていく。
少し背の高いヒノキゴケと、やわらかいタマゴケをどこに配置するか……
これは、なかなかセンスがいるかもしれない。
石のくぼんだ所に入れるのも、おもしろいかもしれないな。
ピンセットで少しずつ苔を植えていると、いつの間にか夢中になっていた。
気づけば、風斗もすばるも真剣にピンセットを動かしている。
黙々と作業すること十五分ほど。
だいたい完成した私たちは、ピンセットを置いた。
「風斗も里依ちゃんも、初めてなのに上手だね」
感心したようにすばるに言われて、瓶の中をあらためて見る。
……まるで、瓶の中に小さな森が入ってるみたいだ。
ガラスの底の方は、砂利や土が地層のように見える。
「持って帰っていいよ。今日のお土産に」
すばるが後片付けをしながら言った時、
トントン
ノックの音がしてドアが開いた。
急にドクンと胸が鳴る。
入ってきたのは、背が高くてスーツを着た、メガネの男性。
「いらっしゃい、風斗くん。それに……里依ちゃんだね」
男性は私の顔を見て、にっこりほほえんだ。
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