星のプランツガーデン

森野ゆら

文字の大きさ
上 下
11 / 41
2章

するどい視線

しおりを挟む
 あぁ。しまった。クロリバ星の組織では無遅刻無欠席のエリートだったのに!
 そんな私が遅刻だなんて! ありえない!
 これが慣れが引き起こす、油断というものか。
 ダッシュで教室に行くと、先生がすでに教卓の前に立っていた。

「おはよう。空山さん」

 にっこり笑う先生に、私もすかさず笑顔を作る。

「先生、おはようございます」

「転校してからの疲れが出てるのかもしれないけど……遅刻はダメよ」

「はい。ごめんなさい」

 ぺこりと頭を下げて席へと歩く。
 周りからクスクス笑い声が聞こえるが、ノープロブレムだ。
 席の近くまでいくと、すばるがいつもの笑顔で私を迎えてくれた。

「おはよう。里依ちゃん」

「おはよう、すばる」

 作り笑顔と作り声をすばるに返す。
 朝の会が終わって、先生が教室を出て行き、クラスメイトたちがざわめく。
 この学園に潜入してから二週間。
 だいぶん慣れて、クラスメイトの顔と名前も四割ほどは一致してきた。
 すばるとも「友達」という関係に近くなってきた気もするし、あとは……どうやって父親の日生薫教授に近づくかだが。

「ねぇねぇ。今度の土曜日、ありさちゃんのお家、遊びに行ってもいい?」

「うん。いいよ。ちょうど塾もお休みなんだ。来て来て~♪」

 不意に聞こえてきた声に、ポンと手を打つ。
 ……これだ!
 お家に遊びに行ってもいいか作戦!
 すばると「友達」という仮の関係を少しは築いていた甲斐があった!
 今なら、遊びに誘っても不自然じゃないはず。
 おそらく、成功率は七十パーセント。やってみる価値はある!

「ねぇねぇ、すばる」

 思い立ったら、即実行。
 呼びかけると、机から教科書を出していたすばるがこちらを向いた。

「土曜日、すばるのお家、行ってみたいなぁ」

「えっ」

 私の言葉に、すばるはちょっとびっくりした顔。
 それから、何かを少し考えている。
 ……しまった。いきなりすぎたか? 
 まだ「友達」として、そこまでの段階ではなかった?
 断られるかもしれないと身を固くしてると、すばるがにこやかに答えた。

「いいよ。父さんがいるけど、出かけるって言ってたし、大丈夫だと思う」

「わーい! やったぁ」

「じゃあ、せっかくだから風斗も呼ぼうか。この前来たところだけど」

 風斗? 別に呼ばなくてもいいが。
 ちっと心の中で舌打ちしながら、すばるにきいてみる。

「風斗はすばるの家によく遊びに来てるの?」

「うん。週に二回ほど来てるよ。父さんと気が合うみたいで、よく話してる」

「へぇ。そうなんだ」

 週二も来てるのか。風斗とすばるは仲良しなんだな。
 しかも、薫教授とも気が合うなんて。
 そのコミュニケーション力、任務のために教えてもらいたいくらいだ。
 ……と、ふと視線を感じた。
 振り返ると、教卓の方から女子三人がこちらを見ている。
 真ん中は確か……茶谷(ちゃたに)モエ。
 長いストレートの髪で、切れ長の瞳。背が高く、スタイルが良い。
 去年、他の学校から転校してきたらしいが、ルックスの良さと優秀な成績で、皆から一目置かれているらしい。
 その脇を固めている二人は……ええっと、ちょっと名前が思い出せない。
 三つ編みの小柄な女子と、メガネのショートカットの女子。
 いつも茶谷モエと一緒にいる。
 二週間経って、だいぶん分かってきた。
 どうやらあの三人は、大のすばるファンらしい。
 私がすばると話していると、毎回のごとくこちらをにらんでいる。
 ……気をつけないと。余計なねたみをもらうのは、やっかいだ。
 確か、(男心をつかむ……)の本にも書いてあった。
 一番こわいのは、女子からのねたみだと。
 時に陰湿で、莫大なパワーを持つらしいからな。
 任務に差しつかえるようなことは、極力防がないと。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

空の話をしよう

源燕め
児童書・童話
「空の話をしよう」  そう言って、美しい白い羽を持つ羽人(はねひと)は、自分を助けた男の子に、空の話をした。    人は、空を飛ぶために、飛空艇を作り上げた。  生まれながらに羽を持つ羽人と人間の物語がはじまる。  

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

ベンとテラの大冒険

田尾風香
児童書・童話
むかしむかしあるところに、ベンという兄と、テラという妹がいました。ある日二人は、過去に失われた魔法の力を求めて、森の中に入ってしまいます。しかし、森の中で迷子になってしまい、テラが怪我をしてしまいました。そんな二人の前に現れたのは、緑色の体をした、不思議な女性。リンと名乗る精霊でした。全九話です。

処理中です...