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9章
お父さんの記録書
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「リアムさんの記録書、お返しします」
ミレイがお兄ちゃんに丁重に渡した。
お兄ちゃんが机の上に包みを置いて、丁寧に結び目をはずしていく。
茶色に色あせて、ところどころすりきれている本が出てきた。
久しぶりに見たお父さんの記録書に、胸がいっぱいになる。
「破られたところや汚されたところはないようだけど、一応確認してもらえますか?」
ミレイに言われて、お兄ちゃんがパラパラと記録書をめくる。
お父さんの字だ。
一ページ、一ページに手書きの図と一緒にびっしり書かれてる。
「すごいな。昔はまだ勉強不足で、何を書いてあるか分からなかったけど……これで新作の道具がたくさん作れそうだ」
ページをめくるお兄ちゃんの目が輝いてる。
ミレイもうなずいて、のぞきこんできた。
「リアムさんの作業工程や知識が書かれてるなんて、それだけで感動しますね」
私は何のことが書いてあるか、よく分かんないんだけど、二人とも宝物を見るような目で熱心に読んでる。
「一つ聞いていいか?」
お兄ちゃんが顔を上げて、ミレイに問いかけた。
「この記録書をオーシュランで持っていれば、たくさんの新作や技術を生みだせる。それなのに、どうして返してくれるんだ?」
お兄ちゃんにきかれて、ミレイが少し間を置いた。
「確かに。このリアムさんの記録書は、値がつけられないくらいレアなもの。オーシュランが独占して使えば、いい道具をどんどん作れる。だけど……」
ミレイは一呼吸おいて、私とお兄ちゃんを見つめた。
「これはハクトさんとセアラに返さないといけないものだと思った。自分の父をだましてでも」
「だましてでも?」
私がきくと、ミレイが複雑な顔をした。
「うん。魔術が解かれて、すべてを聞いた父は記録書のこともたずねてきたよ。だけど、これには価値がありませんとウソをついた。まんまとだまされてくれたよ。父は店の経営や技術をデリーに任せきりにして、何も分かってないからね」
そっか。ミレイのお父さんがデリーさんに全部任せたせいで、オーシュランがおかしくなったんだ。ミレイはそれを良く思ってなかったってことで……
スクト山で、ミレイがオーシュランのことを嫌いって言っていた意味がちょっと分かった気がする。
「記録書の中に少し、気になることがあるんだ。最後から2ページ前のこの部分なんだけど」
そう言って、ミレイが記録書の最後の方をめくり、下の方の何も書いてない部分に、ミレイが指をすべらせた。
「デリーは気づいてなかったみたいだね。この部分に時忘れ蝶の粉がぬられてる」
「時忘れ蝶? お兄ちゃん、知ってる?」
「あぁ。月が虹色に光る時、どこかに現れるという、時の泉に舞う蝶のことだ。おれは見たことないけどね」
「時忘れ蝶の鱗粉は、物を消してしまう効能があるんだ。ほんとはすぐそこにあるんだけど、見えない」
「じゃあ、その鱗粉を使って、お父さんが何かを隠してるってこと?」
「その可能性があるね。ハクトさんならこの鱗粉を中和できるんじゃないですか?」
ミレイがきくと、お兄ちゃんがあごに手を当てた。
「……そうだなぁ。闇ハサミムシの卵と花くるみの殻を使って……」
お兄ちゃんがブツブツ言いながら、考え始めた。
それから、私たちの声は聞こえないくらい考え事に集中してしまった。
あー、もうこうなると、お兄ちゃんの世界だ。
お客さんが来ててもこうなっちゃう時もあるから、困ったものだよ。
あきれていると、ミレイが立ち上がった。
「それじゃ、そろそろ失礼しようかな」
「えっ? もう?」
そんなぁ。さっき、来たところなのに。
ミレイがお兄ちゃんに丁重に渡した。
お兄ちゃんが机の上に包みを置いて、丁寧に結び目をはずしていく。
茶色に色あせて、ところどころすりきれている本が出てきた。
久しぶりに見たお父さんの記録書に、胸がいっぱいになる。
「破られたところや汚されたところはないようだけど、一応確認してもらえますか?」
ミレイに言われて、お兄ちゃんがパラパラと記録書をめくる。
お父さんの字だ。
一ページ、一ページに手書きの図と一緒にびっしり書かれてる。
「すごいな。昔はまだ勉強不足で、何を書いてあるか分からなかったけど……これで新作の道具がたくさん作れそうだ」
ページをめくるお兄ちゃんの目が輝いてる。
ミレイもうなずいて、のぞきこんできた。
「リアムさんの作業工程や知識が書かれてるなんて、それだけで感動しますね」
私は何のことが書いてあるか、よく分かんないんだけど、二人とも宝物を見るような目で熱心に読んでる。
「一つ聞いていいか?」
お兄ちゃんが顔を上げて、ミレイに問いかけた。
「この記録書をオーシュランで持っていれば、たくさんの新作や技術を生みだせる。それなのに、どうして返してくれるんだ?」
お兄ちゃんにきかれて、ミレイが少し間を置いた。
「確かに。このリアムさんの記録書は、値がつけられないくらいレアなもの。オーシュランが独占して使えば、いい道具をどんどん作れる。だけど……」
ミレイは一呼吸おいて、私とお兄ちゃんを見つめた。
「これはハクトさんとセアラに返さないといけないものだと思った。自分の父をだましてでも」
「だましてでも?」
私がきくと、ミレイが複雑な顔をした。
「うん。魔術が解かれて、すべてを聞いた父は記録書のこともたずねてきたよ。だけど、これには価値がありませんとウソをついた。まんまとだまされてくれたよ。父は店の経営や技術をデリーに任せきりにして、何も分かってないからね」
そっか。ミレイのお父さんがデリーさんに全部任せたせいで、オーシュランがおかしくなったんだ。ミレイはそれを良く思ってなかったってことで……
スクト山で、ミレイがオーシュランのことを嫌いって言っていた意味がちょっと分かった気がする。
「記録書の中に少し、気になることがあるんだ。最後から2ページ前のこの部分なんだけど」
そう言って、ミレイが記録書の最後の方をめくり、下の方の何も書いてない部分に、ミレイが指をすべらせた。
「デリーは気づいてなかったみたいだね。この部分に時忘れ蝶の粉がぬられてる」
「時忘れ蝶? お兄ちゃん、知ってる?」
「あぁ。月が虹色に光る時、どこかに現れるという、時の泉に舞う蝶のことだ。おれは見たことないけどね」
「時忘れ蝶の鱗粉は、物を消してしまう効能があるんだ。ほんとはすぐそこにあるんだけど、見えない」
「じゃあ、その鱗粉を使って、お父さんが何かを隠してるってこと?」
「その可能性があるね。ハクトさんならこの鱗粉を中和できるんじゃないですか?」
ミレイがきくと、お兄ちゃんがあごに手を当てた。
「……そうだなぁ。闇ハサミムシの卵と花くるみの殻を使って……」
お兄ちゃんがブツブツ言いながら、考え始めた。
それから、私たちの声は聞こえないくらい考え事に集中してしまった。
あー、もうこうなると、お兄ちゃんの世界だ。
お客さんが来ててもこうなっちゃう時もあるから、困ったものだよ。
あきれていると、ミレイが立ち上がった。
「それじゃ、そろそろ失礼しようかな」
「えっ? もう?」
そんなぁ。さっき、来たところなのに。
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