魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

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8章

思わぬ救世主

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 クウちゃんを包む真っ黒なケムリが、禍々しく空へと舞い上がる。

「クウちゃん……クウちゃん!」

 叫ぶけど、クウちゃんの姿はケムリで見えない。
 クウちゃん……助けてやれなかった。いつも私を助けてくれてたのに。
 お兄ちゃんにつかまれて、何もできない自分が情けなくて悔しい。

「とんだ邪魔が入ったな。どこのケモノだ」

 魔術師がイライラしながら、ローブの端を破って、赤くなった手首に巻きつけた。

「クウちゃんになんてことするの!」

「クウ? お前の飼ってるケモノか? そんなことはどうでもいい。さっさと魔術をかけて……」

 言いかけた魔術師がハッと目を見開いた。
 魔術師の視線の先は、黒いケムリ。……あれ? 黒くない。
 黒いケムリはかき消され、かわりに白いケムリがたちのぼっていた。
 そのケムリがだんだんと晴れてきて、人影が見えてきた。

「やっぱりお前が魔術師だったんだな。デリー」

 ケムリの中のその声に胸が鳴る。

「ミレイ!」

「ミレイ……まさか。どういうことだ?」

 魔術師がわなわな震えながら、ミレイに尋ねた。

「変化の魔法を使っていただけだよ。おれの趣味でね」

 変化の魔法? 趣味??
 っていうか、クウちゃんってミレイだったの!?
 びっくりして声が出ない私の横で、魔術師がフンと鼻を鳴らした。

「なかなかの悪趣味だな、ミレイ」

「お前ほどではないと思うが?」

 ミレイが魔術師をキッとにらんで、腰につけているステッキを取り出した。

「オーシュランのバカ息子が。前からお前のことは気に入らなかたんだよ。私のやることにいちいち疑いをかけやがって……」

「オーシュランに来た時から怪しいと思ってたんだ。父はすっかり、デリーのことを信頼してたけどね。やっぱり、おれの目は正しかったんだな」

「フン、今更何を言っても遅いわ。お前の父親も魔術でフヌケ状態だ。ありがたく思え。親子一緒に私のしもべにしてやる」

 魔術師が呪文を唱え始めた。
 ダメだ。ミレイまであの魔術をかけられたら終わりだよ。
 前のめりになったら、背後のお兄ちゃんがぐいっと後ろに引っ張ってきた。
 そのままぐいぐい後ろに引っ張られて、にらみ合いをしているミレイと魔術師からだいぶん離れてしまった。

「離してよ! ミレイが魔術をかけられちゃう!」

 もう、こうなったらお兄ちゃんをぶっ倒してもデリーさんの魔術を阻止しなきゃ!
 お兄ちゃんを振りほどこうと、思い切り体をひねったら。

「おい。暴れるな、セアラ」
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