魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

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7章

お兄ちゃんまでおかしい

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 何とか学校を抜け出すことに成功して、家まで帰ってくることができた。
 意外に役に立ったなぁ、ハクたん。
 それにしても、エリカちゃん、普通じゃなかった。
 学校中のみんな、完全に操られてた。
 しかも、ミレイはいなかった。学校じゃなく、ちがう場所で魔術を使ってるんだ。
 早く、お兄ちゃんに伝えて、対策を練らなきゃ。

「お兄ちゃん! 学校が大変なことになってる!」

 家へ入って叫ぶけど、返事はない。
 店は開けてあるけど、すごく静かだ。
 もしかして……具合が悪くなって、寝てるのかな?
 ドクドクする胸を押さえて、お兄ちゃんの部屋をバンッと勢いよく開けた。

「お兄ちゃん、あのね、」

 言いかけて、ハッと気づいた。
 ベッドのそばで棒立ちのお兄ちゃんは、エリカちゃんと同じ目をしてる。

「まさか……お兄ちゃんまで……」

「……セアラ、帰って……きたのか」

 一歩、二歩とお兄ちゃんが近づいてきた。
 生気のない目で私を見て、まるでゾンビみたいに顔が青黒い。
 うそ。うそだ。まさか、お兄ちゃんまで。
 力がぬけて、へたりと座り込んだ。
 よく見たら、床に紙や本が散乱してる。
 お兄ちゃんが暴れたんだろうか。いつもの三倍くらい散らかし方がひどい。
 お兄ちゃんがすぐそばまでやって来た。
 くやしい。エリカちゃんや学校の友達を魔術にやられて。
 それに、お兄ちゃんまで。
 魔術師……ミレイはどこかでのうのうと魔術を唱えて、みんなを操ってるんだ。
 お兄ちゃんが私に覆いかぶさるようにしゃがみこんできた。
 こわくて、思わず床についてる手に力を入れる。
 いつもとちがう、お兄ちゃんの表情。魂を抜かれたような目。

「お兄ちゃん! しっかりしてよ! お兄ちゃんはリアムの店主でしょ? 魔術師なんかに負けないでよ!」

 叫んだら、お兄ちゃんがビクリと体を震わせた。
 一瞬、お兄ちゃんの目に光が灯る。

「……セアラ? ……おれ……」

 戻った? いつものお兄ちゃんに!
 そう期待したのも束の間。
 すぐにお兄ちゃんの目はドロドロと濁っていく。

「お兄ちゃん! しっかりして」

 また、ビクリとお兄ちゃんが体をふるわせた。
 戦ってるんだ。お兄ちゃんも。魔術に操られないように。
 そう思ったら、じわっとまぶたが熱くなった。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」

 呼びかけると、お兄ちゃんがトンと私の肩をたたいた。

「……セアラ。逃げろ。……おれもそのうち完全に意識を取られてしまう。逃げろ」

 そう言った後、また目が曇ってしまった。
 お兄ちゃんだ。今の言葉はお兄ちゃんだ。

「分かった。絶対に何とかするから!」

 お兄ちゃんをそっと離して立ち上がり、家を飛び出した。
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