魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

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6章

オーシュランへ

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 オーシュラン店の裏口へミレイが入ったのを見て、はあっとため息をついた。
 学校から出たミレイをずっとつけてきたけど、結局声をかけられなかった。
 まさか、ミレイがあの模様を描いていたなんて。
 ショックでまだ信じられない。
 でも、そうだ。魔法特進科のトップの成績のミレイなら、あの魔術を使えてもおかしくない。
 ミレイが魔術師。
 そう思ったら、胸の奥がなぜかきゅうっと苦しくなった。
 スクト山で言ってくれた言葉は、やっぱりウソだったんだ。
 君を守るとか、オーシュランは嫌いとか、私が油断しそうな言葉を並べて。
 きっと、うわべだけ私と仲良くなって、店をのっとろうとしてるんだ。
 お兄ちゃんの左腕を使えなくして、お父さんの記録書を奪って。
 どれだけ、私たちの店をおとしめたら気が済むんだろう。
 悔しくなって、オーシュランの建物を見上げた。

 ……許せない。絶対にミレイの、オーシュランの思い通りにはさせない。

 確かめてやる! ミレイが魔術師だってこと。
 スカートのポケットの上から鏡を握りこんで、オーシュラン店に入った。

「いらっしゃいませ……あっ、この間の小娘……」

 奥から出てきたのは、前にいた失礼なおじさん店員。
 ぎょっとしたおじさん店員は、イヤそうに唇をひん曲げた。

「だーかーら、ここに来ても買うものないだろう? さぁ、帰った帰った」

 追い返そうとするおじさん店員に、私は負けじとずんずん店の奥へと入る。

「今日も用事があって来たんです!」

「用事とか言って……ここは遊びに来るところじゃないんだ」

「遊びに来てません!」

 おじさん店員とにらみ合いをしていると、奥から誰かががやってきた。

「……おや、セアラさん?」

 書類の束をかかえたデリーさんが、私を見て目を丸くした。

「デリーさん!」

 かあっと耳が熱くなって、胸がドキリとした。
 おじさん店員が首をかしげる。

「デリー様、この小娘……じゃなかったこのお客様と知り合いですか?」

「えぇ。私にとって大切なお客様です。もしかして、君ですか? 以前、セアラさんに失礼な態度をとったのは」

 おじさん店員はあわわっと口をおさえた。

「も、申し訳ありません。デリー様の知人の方と知っておれば、このようなことは……」

「人によって接客態度を変えるのは、いかがなものでしょうか」

 デリーさんの冷ややかな声に、おじさん店員がふるえあがった。

「も、申し訳ありません。しかし、この娘は前に泥のついた靴で上がってきまして……」

「口をつつしんでください。このことをオーナーに話しましょうか?」

「そっ、それは困ります」

「それでは下がってください。セアラさんに失礼ですから」

「は、はいっ」

 おじさん店員は逃げるように奥へと走っていった。
 デリーさんがふうっと息をついて、私に向き直る。

「セアラさん、いらっしゃいませ。この間はお世話になりました。今日はお買い物ですか?」

「いや、そうじゃなくて……あの、ミレイ……いますか?」

「ミレイ様にご用事でしたか。今、お呼びします。奥に客間がありますので、そちらへどうぞ」
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