魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

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5章

ミレイとペンダント

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 この世の終わりみたいな気持ちになって、へたりと座り込んだ。
 もっと早くここに来ればよかった。
 デリーさんと会って浮かれた気持ちになって、何やってたんだろう。

「……どうしよう。私、お兄ちゃんを助けてあげられない」

 熱でうなされているお兄ちゃんの様子を思い出して、胸が苦しくなる。
 ダメだ。横にミレイがいるのに、泣きたくなってきた。

「……どうかした?」

 ミレイが気をつかうように、しゃがみこんできた。

「お兄ちゃん……死んじゃうかもしれない」

 口に出してしまったら、よけいに不安になってきた。
 ケンカもするし、口うるさいし、私の分のお菓子も食べちゃうし。
 だけど、お兄ちゃんは私のたった一人の家族なんだ。

「……お兄さん、どうかしたのか?」

 ミレイが静かにきいてきた。

「実は……」

 言いかけて、ハッと口を押えた。
 もし、ミレイにお兄ちゃんが倒れてるって言ったら、うちのお店を乗っ取るチャンスだって思われるかもしれない。
 お兄ちゃんが身動きできない今、オーシュランの人たちがやってきたら……
 私一人で追い返すなんてできないかも。

「あははっ、ウソウソ。お兄ちゃん、すっごく元気だよ。お腹すいて死んじゃうっていっつも言ってるから、早く帰ってご飯作らなきゃ」

 立ち上がって笑顔を作ると、ミレイはいぶかしげな顔で私を見上げた。

「さ、帰ろっと。散歩も疲れてきたし」

 歩き出そうとしたら、ミレイが引き止めるように私の前に立った。

「本当に大丈夫なのか?」

「うん。大丈夫。ごめん、変なこと言って」

「おれに何かできることがあったら、手伝うよ?」

 真っすぐに見つめてくる瞳に、話してみようかって心がゆらぐ。
 だけど。だまされちゃいけない。
 今まで、オーシュランの人にされたこと、思い出すんだ。

「……オーシュランのあなたに手伝ってもらうことなんてないよ」

 冷えた声で言ったら、ミレイがきゅっとくちびるを引き結んだ。
 しばらく私たちの間で沈黙が流れ、ミレイがあきらめたような息をはいた。

「……仕方ないな。じゃあ、これだけ」

 ミレイがポケットから出してきたのは、ペンダント。
 古びた金色の台座の中に青緑の石が入ってる。

「いらないよ、こんな……」

「いや、これだけは持ってて。本当に困った時、呼んで」

 ミレイはペンダントを無理やり押しつけて、走って行ってしまった。
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