魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

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3章

黒の模様と魔術師

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 今から数年前。
 お父さんが亡くなったという知らせを受けて、お兄ちゃんが本格的にこの店主として頑張り始めた矢先の、風が強い夜だった。
 家の奥でガタガタっと音がして、寝る用意をしていた私たちはびっくりしたんだ。

「お兄ちゃん、変な音したよ。オバケの音かも」

「ばーか。ちがうよ。今夜は風が強いだろ? きっとどこからか板が飛んできて、店の壁にバコンって当たったんだよ」

 お兄ちゃんが笑って言ったら、

 カタン。

 また、音が聞こえてきた。

「……お兄ちゃん。やっぱ、家の中だよ。ドロボーかオバケだよ、絶対」

「そんなわけない。じゃ、確かめに行くぞ。オバケでもいたらおもしろいしな!」

 はっはっはと笑うお兄ちゃんと一緒に、奥の作業部屋へ見に行った。
 バンッとドアを開けたお兄ちゃんがへらっと笑った。

「ほーら。何もないだろ? いつもの作業部屋だ」

「……お兄ちゃん、誰かいる」

「え?」

 本棚の陰から少しだけ、黒い布端が見えていた。
 おそるおそる近づくと、突然、黒いローブを着た人が出てきた!
 フードを深くかぶってて、顔はよく見えない。

「だれだ!」

 お兄ちゃんが私をかばうように前へ出ると、

「……※〇△~~~」

 黒ローブの人が何かを唱えた瞬間、かざしてきた手から光が飛び出してきた。
 お兄ちゃんは、かろうじてよけたけど、左腕に光が当たってしまった。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「あぁ。腕をかすっただけだ……それより」

 お兄ちゃんが左腕を押さえながら、顔を上げた。

 ……いない。

 黒いローブの不審者がきれいに消えていた。
 かわりに裏口のドアが開いたままになって、外からの風が吹き込んできた。

「大丈夫か? セアラ。……いてっ」

 お兄ちゃんがぎゅっと左腕を押さえた。

「痛む? 腕、ケガしたの?」

 お兄ちゃんが押さえている右手をはずすと、奇妙な黒いひし形の模様がついていた。

「きゃっ、なにこれ!」

「……あれ? 腕に力が入らない」

 お兄ちゃんが何とか動かそうとするけど、左腕はぶらんとしたまま。
 その時のお兄ちゃんの真っ青な顔は今でも覚えている。
 店の中には、物色したような跡があって、お父さんがずっと書きためていた記録書まで盗まれてた。
 記録書は、お父さんが作ってきたこれまでの魔法道具の作業工程が書かれていて、お兄ちゃんがそれを頼りに魔法道具を作ってたんだ。
 だから、その本があれば、もっとたくさんお父さんの技術を学べたのに。
 魔法をかけたヤツの目的はたぶん、お父さんの記録書。
 そいつはどこに逃げたか分かんなくて、結局見つからず何年も経っちゃったんだ。
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