魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

文字の大きさ
上 下
10 / 46
2章

お兄ちゃんのフクザツな思い

しおりを挟む
「さて、早速、今日からとりかかるぞ! そのためには、水晶キノコの涙がいるんだけど、セアラ、お願いしていいか」

「うん。任せて! たくさん採ってこないとね!」

「あぁ。なにせ百個だからな。頼むぞ」

 百個かぁ。東の森だけじゃ足りないな。海辺の森まで行かなくちゃいけないかも。
 あー、急に忙しくなっちゃった。でも、これがうれしい悲鳴ってやつだよね。

 ぐるるるる……

 大きな音がお兄ちゃんのお腹から鳴った。

「とりあえず腹減った。それはそうと、今日はなんで帰ってくるのが遅かったんだ?」

「あー……ちょっとオーシュランの店によってたんだ」

「オーシュランに? なんでだよ」

 さっきまでニコニコしていたお兄ちゃんの顔が急に険しくなった。
 やばい。やっぱりオーシュランに行ったなんて、お兄ちゃんにとったら気分悪いよね。

「あのね、ミレイっていう子の落とし物を届けに行ったの。店員さんは最悪だったけど……でも、聞いて! 素敵な男の人がいてね、お父さんのことほめてくれたの!『すばらしい技術の持ち主でした』って」

 デリーさんが話したことを伝えたけど、お兄ちゃんの顔はどんどん曇っていく。
 ついには、お兄ちゃんがフキゲンそうに、はんっと悪態をついてきた。

「セアラは父さんのことほめられて、うれしいのかよ」

「当たり前だよ。お兄ちゃんだってうれしいでしょ?」

「うれしくない。あんなヤツがほめられてもうれしくない」

「あんなヤツって私たちの父さんなのに」

「おれたちのこと、疎ましく思ってたヤツだぞ?」

 ギリッと奥歯をかみしめるお兄ちゃん。

「おれ、やっぱ、父さんを許せないんだ。おれとセアラを置いてオーシュランに行ったこと。おれは……捨てられたって思ってるから」

「……うん。分かるよ」

 お兄ちゃんがお父さんに対して、複雑な気持ちを抱いてるのは知ってる。
 私だって、思うもん。お父さんは私たちのこと、いらなかったんじゃないかって。
 自由になりたかったから家に戻らず、オーシュランで働くことにしたんじゃないかって。
 まさか、そのまま帰ってこないなんて、思いもしなかったけど。
 
「ま、そんなことを考えてもしょうがないよな。もう父さんはいないし。おれがちゃんと父さんのかわりをして、セアラを養っていくから」

「……えー、頼りないなぁ」

「なんだと!」

「あははっ、うそうそ」

「……父さんの話は置いといて。せっかくうれしい大量注文が来たんだ。今日はおれが晩ごはんを作るよ!」

 お兄ちゃんがニカッと笑って、部屋の奥へと入っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

ちょっとだけマーメイド~暴走する魔法の力~

ことは
児童書・童話
星野桜、小学6年生。わたしには、ちょっとだけマーメイドの血が流れている。 むかしむかし、人魚の娘が人間の男の人と結婚して、わたしはずっとずっと後に生まれた子孫の一人だ。 わたしの足は水に濡れるとうろこが生え、魚の尾に変化してしまう。 ――わたし、絶対にみんなの前でプールに入ることなんてできない。もしそんなことをしたら、きっと友達はみんな、わたしから離れていく。 だけど、おぼれた麻衣ちゃんを助けるため、わたしはあの日プールに飛び込んだ。 全14話 完結

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

処理中です...