魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

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1章

魔法が使えたら

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 この世の中、魔法が使える人と使えない人がいる。
 残念ながら、私たちは魔法を使える血筋じゃない。
 魔法が使える人は、仕事もたくさんあって、お給料も高い。
 雷の魔法を使える人は土木関係の仕事をしたり、水の魔法を使える人は、川の水流の管理をしたり。もちろん、魔法を教える学校の先生にもなれる。
 魔法を使えたら、仕事もいっぱいあるし、裕福な暮らしができる。
 魔法が使えるかどうかで、貧富が決まっちゃうなんて不公平な世の中だよ。

「はー、ひとかけらでも大金持ちになれる、シャランの魔法石でも転がってねーかなぁ」

「もう、夢みたいな話しないで。シャランの魔法石はレア中のレアなんだから無理だよ」

「いやいや、見たことがある人もいるってよ。セアラ、探してきてくれよ~」

「現実逃避しないでよ。私たちはひたすら道具を作って、たくさん売るしかないの。なにかヒット作が出たら大儲けできるかもしれないし」

「簡単に言うなよ。まぁ、父さんの記録書さえあれば、新商品もどんどん作れただろうなぁ。それに……この腕が動くようになったら、今の倍の量は作れるんだけど」

 お兄ちゃんが悔しそうに黒い模様がある左腕をさすった。
 その姿を見て、私はきゅっとくちびるをかむ。
 お兄ちゃんの左腕は動かない。
 普段は、片腕で魔法道具を作り続けてるんだ。
 奇妙なひし形が何個も合わさった黒い模様。魔術をかけられた忌々しい跡。
 あの風の強い夜。お兄ちゃんが魔法をかけられなければ。
 お父さんの記録書さえ盗まれなければ。
 私たちは、今よりもっと楽な暮らしができたかもしれない。
 お兄ちゃんは、もっともっと道具作りに集中できたかもしれない。

「あ~腹減って仕方ねぇ。この際、ペリリ草でもなんでもいいから、ごはん作ってくれ~」

 私の中で渦巻き始めた暗い思いを切るように、お兄ちゃんが大きな声を出した。

「もう~、そんなに言うなら自分で作った方が早いのに」

「そう言うなよ~。自分で作ったものより、セアラのごはんの方がおいしいんだよ」

 お兄ちゃんが私の頭に右手をふわりとのせ、髪をくしゃくしゃとかきまぜる。
 もう。ただでさえ、くせ毛なのに余計にからまるじゃない!

 ……ったく。うまく言えば、ごはん作ってもらえるって思ってるな。

「……あれ? そう言えば、今日は昼から学校って言ってなかったか?」

「え?」

 昼から学校? ……そう、そうだった!
 今日は昼から、この前の試験の結果が貼り出されて、その後授業だった!

「わ、忘れてたぁ! ごめん! 今から行ってくる!」

「えええ、おれのごはんは?」

「テキトーにペリリ草食べてて。じゃ! 行ってきます!」

「えー……ペリリ草……いやだ~、青臭い~」

「文句言わないで! えーと、私のショルダーバッグ、どこ行ったっけ?」

「あの、モコモコのショルダーバッグか。どうにかならないのかよ。道具入れすぎだろ?」

「入れすぎじゃないよ。足りないくらいなんだから。いつでも道具の営業しないと、新規のお客さんを取り込めないんだからね」

「はー、営業はありがたいけどさ。重いだろーに」

「平気だよ。あ、こんなとこにあるじゃん! お兄ちゃんの服で見えなかった!」

 お兄ちゃんの脱いだ服にうもれていたショルダーバッグをひっつかんで、家を出る。
 やばい。走ったら間に合うかな? ……と、ピタリと足を止めた。
 店の軒先で、白い毛の動物がちょこんと座ってる。

「クウちゃん!」

 声をかけると、クウちゃんが愛らしい真ん丸の目をこちらに向けた。
 クウちゃんは真っ白なケモノ。
 毛並みがよくて、フワフワ。たれ耳が可愛い。
 図鑑で調べたけど、森に住む怪獣でガウガーっていう種類の子どもに似てるんだ。
 あれは何年前だったかな?
 クウちゃんがいばらにからまってたところを助けたの。
 それ以来、木の実や薬草が入ったカゴを届けに来てくれるようになったんだ。

「クウちゃん、今日も持ってきてくれたんだ」

 クウちゃんはくわえていたカゴを地面に置いて、私を見上げた。
 カゴには、たくさんの木の実や葉っぱ。

「わぁ。今日もとってきてくれたの? セントラルリーフに光キノコ、空の実まで! いつもありがとう!」

 しゃがんで、ふわふわの頭をなでると、クウちゃんはくすぐったそうに緑の目を細めた。
 かわいいなぁ。小さくてピカピカの足の爪、くりくりの緑の瞳。
 今日はいい天気だし、一緒にここで日向ぼっこしていたい……って、はっ。
 そうだ、こんなことしてる場合じゃなかった!

「クウちゃん、ごめんね。私、今から学校なんだ。行ってくるね」

 あわてて立ち上がり、学校へとダッシュした。
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