魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

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1章

お父さんのこと

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 お父さんの道具を作る腕はすごかったの。
 彼方の星のオルゴール、魔法の鈴つき三角帽子、時を止める砂時計……
 なんと、お城から注文が来たこともあったんだ。
 お父さんが作る魔法道具は一流だったと思うの。
 私は、お父さんが道具を作ってる様子を見るのが好きだった。
 お父さんが木を削ったり、石を磨いたり。
 どんどん形になって、最後には立派な魔法道具になる。
 何回見てもワクワクする、夢みたいな作業工程。
 それをこれからも、ずーっと見ていけるって思ってた。
 そう。オーシュランの使いの人がうちの店に来るまでは。
 使いの人はお父さんに「オーシュランで働いてみないか?」って、突然もちかけてきた。
 まだ大通りに大きな店を出す前のオーシュランは、道具を作る技術者が足りなかったらしい。だから、お父さんに来てほしかったみたいなんだ。
 でも、お父さんは断った。この店をたたむつもりはないって。
 だけど、一度、オーシュランの店へ行ってから、全然家に帰ってこなくなった。
 お給料がすごくいいから、オーシュランで働くことにしたんだって。
 それから、しばらくして、またオーシュランの使いの人がやってきた。

「あなたたちの父さんは、二度と帰ってきません」

 突然、そう言われた私たちは、返す言葉もないくらい驚いて、ただただ、使いの人の話をぼんやり聞いていた。
 お父さん、天の花っていう植物を採りに行って、崖から落ちたんだって。
 はじめは信じられなかったけど、一日、二日、五日、十日……まったく帰ってこない事実に、あぁ、本当に帰ってこないやって思ったっけ。

 それから、私とお兄ちゃん、完全に二人の生活が始まったんだ。
 お兄ちゃんは、生活のために道具作りを始めて、魔法道具屋リアムを再び始めたの。
 でも、オーシュランが大通りに出店してからは、お客さんをずいぶん取られちゃって、魔法道具屋リアムはなかなか厳しい状況だ。

「お父さんがいたら、オーシュランに負けない店になってたのにな」

 ぼそりとつぶやくと、お兄ちゃんが立ち上がり、カウンターにもたれかかった。

「それはどうかな。父さん、腕はいいけど、不愛想だから接客は全然ダメだったし、結局オーシュランを選んだんじゃないか」

「うーん。でも、お父さんは……」

「やめろ。おれたちのことなんか、見向きもしなかったヤツの話を出すなよ」

 お兄ちゃんに言われて、ぐぐっと黙り込む。
 見向きもしない……かぁ。まぁ、そんな風ではあったなぁ。
 お父さんは無口で、笑った顔なんて見たことなかった。
 一応、私たちが普通の生活に困らないように、衣食住はちゃんとしてくれてたけど。
 お店のことばかりで、遊んでくれることもなかったし。
 正直、お父さんは私たちのことが疎ましかったから、オーシュランへ行ったのかなって、今でも思う。
 お母さんが早くに亡くなって、一人で私たちを育てることになったお父さん。
 育児をしながら、店の仕事をするのは辛かっただろうな。
 私たちがいなければ、お父さんはもっと自由に生きられたのに。
 ……なーんて考えると、底なしの沼にはまったみたいに、暗くて苦しい気持ちになる。
 うつむいてると、お兄ちゃんがバスッとクッションを投げてきた。

「痛っ。何するのよ!」

「腹減った。今日はセアラがお昼ごはん当番だろ? 早く作ってくれよ。おれ、肉料理がいいな」

 ぐるるとお腹を鳴らしながら、お兄ちゃんが提案してくるけど、却下だ。

「肉なんてないから。今日はペリリ草のスープとパンひと切れだけだよ」

「えええ。またペリリ草のスープ? い~や~だ~。あ~き~た~」

「ぜいたく言わないの! ペリリ草はその辺にいくらでも生えてくる、ビンボー生活の救世主なんだから」

「はぁーあ。やだな。ビンボー道具屋。せめておれに魔法が使えたらな」

 お兄ちゃんがブツブツ言って、雨漏り寸前のボコボコな天井を仰いだ。
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