魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

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1章

ライバルは大型魔法道具屋!

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「きゃああああっ」

「ひいっ、オバケ?」

 婦人たちが悲鳴のような声を出して、抱き合う。
 毛むくじゃら頭は、そんなのお構いなしで、のそりのそりとこちらへ近づいてくる。

「なんなの、この店、気持ち悪い! 早く出ましょ!」

 婦人たちが顔面蒼白でドアの方へ走っていく。

「あ、お待ちください! これはオバケじゃなくて……」

「ひいいいっ……だれか助けて~~~」

 私の言葉は届かず、婦人たちは逃げるように店を出ていってしまった。

「……お~に~いちゃ~ん」

 私はギロッと毛むくじゃらをにらむ。

「なんだよ。これくらいのことで逃げるなんて、口のわりに大したことないな。あのオバサンたち」

 毛むくじゃら……もとい、お兄ちゃんはかぶっていたモップをぺいっと床に投げ捨て、羽織っていた黒のカーテンをはぎとると、カウンター前の回転イスにどかりと座った。
 濃い青の髪をかきあげ、つまらなそうに窓の外を見ながら長い足を組む。
 黙っていれば、どこかの騎士かと見まちがうほどの容姿なんだけど、性格は子どもじみた所がある残念な性格。

「せっかくのお客さんなのに! お兄ちゃんのせいで帰っちゃったじゃない!」

「別にいいじゃないか。人の店をハズレとか言うヤツ、あんなの客じゃないよ」

「もうっ、一つでも魔法飾りが売れたら、新しいシーツだって買えたのに! ミートパイだって買いに行けたのにぃ~」

「おれは、あんな客に自分の作ったものを売りたくないね。しかもゴールドピースはかなり苦労した作品だからな」

「変なこだわり言ってる場合じゃないでしょ! ビンボー生活なのに! それより、お兄ちゃん、なんでカウンターの上散らかしたの? さっき片付けたんだよ!」

 お兄ちゃんはギクリとして、くるりとイスを回転させ、背中を向けた。

「……ったく。お客さんが来た時に限って、こんなに散らかすんだから」

 お菓子の包みを集めながら言うけど、お兄ちゃんは知らんぷり。
 まったく。しょうがないなぁ。いつものことだけど。
 お兄ちゃんに、片付けのことを言っても時間のムダだ。
 気を取り直して、カウンターに散らばってる物を片付け始めた。
 お兄ちゃんが書いたラクガキ紙に書類、郵便物……

 あれ……このチラシ。

 郵便物に混じった派手なチラシが目に入って、ぴたりと手を止めた。
 光沢のあるチラシをスルリと抜き取ってみる。
 おしゃれな文字の説明文に、いくつも描かれてる魔法道具のイラスト。

(あなたが探しているもの、必ずあります。魔法道具ならオーシュラン)

「オーシュラン!」

 ビリビリとチラシを破ると、お兄ちゃんがイスを一回転半して、ぎょっとした顔で私に向き直った。
 オーシュランは、この森を抜けた大通りにある、レンガ造りの五階建てのお店。
 さっきの婦人たちも言ってたとおり、この地域一番の品ぞろえを持つ魔法道具のお店なんだ。
 同じ業種だから、ライバル……って言いたいけど、こんなボロ小屋の魔法道具屋じゃ、相手にもなってない。
 でもね、こんなつぶれかけの魔法道具屋だけど、お父さんがいた頃はけっこう繁盛してたんだよ!
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