魔法道具のお店屋さん

森野ゆら

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1章

町はずれの魔法道具屋

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 ビュウウッと強い風が吹いて、落ち葉と砂が舞い上がる。

「あああ、待って! 行かないで~!」

 店の看板が飛んでいきそうになって、あわてて押さえた。
 木造の小屋は、ミシミシと嫌な音を立てて、今にも吹っ飛びそう。
 雨風にうたれてくすんだ壁。ところどころ雑草が生えた屋根。
 ボロい。今にも崩れそうなほどボロい。
 ううっ。でもね。これでも一応、お店なんだよ。
  なんと、魔法道具のお店!
 商品の品質には自信があり! (私が作ったんじゃないけど)
 作っているのは、店主である私の兄、ハクト。
   元はお父さんのお店なんだけど、数年前にお父さんが天国に行ってからは、お兄ちゃんが道具を作って販売してる。
  それで、私の仕事はと言うと。主に道具作りの材料をとってくること。
 お兄ちゃんから頼まれた薬草や石、木の枝から鳥の羽まで。
 ありとあらゆるものをとってくるの。けっこう大変なんだよ。
 あとは、お店の中を掃除したり、チラシを作って配ったり、バッグに入れた道具を持ち歩いて、こんな物がありますよーってオススメしたりもする。

「あら? こんな所に魔法道具屋があったのね」

「ほんと。ずいぶん古いけど。えーっと、『魔法道具屋 リアム』だって」

 向こうから歩いてきた二人の婦人が、ピタリと立ち止まった。
 羽のついた帽子をかぶったほっそりした人と、全身フリル服のぽっちゃりした人。
 婦人たちは、ものめずらしそうに店を見て、こそこそ話し始めた。

「ちょうどよかったじゃない。息子さんに魔法力を上げるパーツを買わなきゃって言ってなかった?」

「ええ。でも、この店……大丈夫かしら?」

 あやしんでいる婦人たちに、私は急いで営業スマイルを作る。

「あのっ、いらっしゃいませ! よかったら中へどうぞ」

 声をかけると、婦人たちは顔を見合わせた。

「せっかくだから、見ていく? 隠れた名店かもしれないし」

「そうね。わざわざ大通りまで行くのも遠回りだしねぇ。あの……魔法力を上げるパーツってあるかしら? 息子がステッキの先につけるんだけど」

「ありますよ。うちのパーツ飾りは、ロール地方の鉱物を使ってるんです。魔法を放出しやすいように、形にもこだわってます!」

「あら? ロール地方の? じゃあ、ちょっとだけのぞかせてもらおうかしら」

 やった。興味を持ってくれたみたい。
 早速、湿った音がするドアをギギギッと開け、婦人たちを中へ通した。

「魔法飾りは奥になりますので……げっ」

 中を見て、顔が凍りついた。
 カウンターの上は、書類や道具が散乱してめちゃくちゃ。
 床には、お菓子の食べかすが散らかってるし。
 ちょっと待って。さっき、片付けてから外のお掃除に出たのに!
 短時間でこんなに散らかすなんてありえないでしょ!
 二人の婦人は見ちゃいけないものを見たように、顔をゆがませた。

「あ、あははっ。ネズミでも来たのかな? それより、奥の棚へどうぞ。新商品も置いてますから」

 ああ、もう。裏声になっちゃった。
 散らかったカウンターを背中で隠しながら、婦人たちを奥の棚へと案内した。
 赤い布を敷いた棚の上に、十個ほど並べた魔法飾り。
 飾りの石が薄暗い店内の中できらりと光ってる。
 あぁ。この商品たちだって、ほんとはピカピカの透明ケースに置いてたら、見栄えがいいのに。

「こちらに並べているのが魔法飾りです。ステッキの先につけるものがスタンダードですが、持ち手の少し上につけるのも最近の流行りですよ」

 そう説明して、一番左の星型の飾りをトレイにのせて婦人たちに見せた。
 婦人たちは魔法飾りに顔を近づけて、目をしぱしぱさせた。

「へぇ。なかなか良さそうね。他の色はないのかしら?」

「他……ですか。あいにく、星型はその一点だけで……」

「あら、品ぞろえ悪いのね。他もあまり置いてないみたいだし」

 婦人が帽子のつばをくいっと上げながら店内を見渡すと、ふっくらした婦人があざけるように笑った。

「店の中もボロボロだし、汚いし、残念ながらこの店はハズレね。やっぱり、魔法道具はオーシュランさんで買わなくちゃ」

 うなずき合う婦人たちに、私は手をパタパタ振る。

「そ、そうおっしゃらずに……。あのっ、一番左にあるゴールドの魔法飾りは、オーシュランさんに負けない品質なんですよ」

「……そうなの?」

 帽子の婦人が、金色の魔法飾りに手を伸ばした時、

 ガターーーーーン!

 部屋の奥にある物置から、ものすごい音が鳴った。
 婦人がビクリとして、あわてて手をひっこめる。
 物置の扉がキィと鈍い音をたてて開いた。

「か~え~れ~。お前たちに売るものはな~い~」

 おどろおどろしい声とともに、のっそりと毛むくじゃらの頭をした影がはい出てきた。
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