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第四章 暗雲
第28話 理由
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アリスはウィリアムの腕の中で顔を上げた。大好きな蜂蜜色の瞳が寂しそうにこちらを向いている。なぜ知っていながら領民を放置していたのか——アリスが聞く前に、ウィリアムが話し始めた。
「知っていたよ。実は内戦の影響で土地が荒れていたサウードは、辺境ということもあって復興が追いついていなかった。そこへ二年前の暗殺事件だ。養父母は領民のために一生懸命だったけど、彼らは領民に殺されてしまった。他の領地はサウードの民の移住を認めないし、貧しい彼らは砂船に乗れないから国外にも出られない。僕がしていたのは彼らが命を繋ぐ最低限の援助……サウードの民は、暗殺事件の罰を受けている状態さ」
「そんな! 罪のない領民ばかりでしょう? そんなのってないわ」
アリスは涙が止まらなかった。ぐずぐずと鼻を啜り、ウィリアムの胸に顔を埋めて泣き続けた。一歩間違えば国王の暗殺事件だ。領民や領地がお咎めなしとはいかなかったのだろう。それでも悲しかった。昼間の領民のうつろな瞳が忘れられない。一昨日屋敷前に来ていた領民の「助けて」という叫び声が蘇る。
「僕の家族は兄さんだけだった。養父母も僕によくしてくれた。だから彼らに背いた領民なんて、罰を受けて当然。僕はそう考えていた」
ウィリアムがアリスの頭を撫でる。アリスが「でも」と言葉を返そうとすると彼は「けれど」と話を続けた。
「アリスのおかげで変わっていく使用人や子供たちを見て、本当にこのままでいいのか不安になったんだ。だから君が出した答えに従おうと思って領地に向かわせた。結果は、よくわかったよ」
「ウィル……」
最後に「ありがとう、アリス」と言ってウィリアムがアリスの涙を拭った。そしてそっと唇を重ねる。
「領民たちの生活を立て直すよ。彼らが生き生きと笑顔で過ごせるように。アリスにはいろんなことを任せてしまうと思うんだけど……僕のことを助けてくれる?」
アリスは不安げに眉を下げる夫に、笑顔を向けた。
「もちろんよ。任せてちょうだい!」
それからアリスはウィリアムと楽しく食事をして、夜の支度をし寝室に向かった。
「そうだ、今日は三日目だわ」
ドアを開ける直前に、今日が約束の日であると思い出すアリス。ドアに置いた手が緊張で汗ばんだ。
「アリス、こっちへ来て」
ドアを開けると夜着姿のウィリアムがソファに座って待っていた。アリスは彼に歩み寄り、隣に座る。
「お待たせ、ウィル」
「アリス、今日が約束の三日目だよ。待たせてごめんね。これを作ってたんだ」
ウィリアムが小さな瓶をアリスに差し出した。中には液体が入っている。
「これは何?」
アリスは首を傾げた。これのために待ったということは、今日この日に必要なものだったということ。まさか、いきなり媚薬なのか。先日のピエールの話も相待ってアリスの妄想は止まらない。
しかしウィリアムの答えは、アリスが思ってもいないものだった。
「避妊薬だよ。アリスが妊娠しないように——」
「え?」
ウィリアムは驚き身を固めるアリスに「さあ飲んで」と満面の笑みを浮かべた。
>>続く
第二十八話を読んでいただきありがとうございます☺️
書いててあれ? サイコホラーだっけ? と自分を疑ました。
いいえ、恋愛です。ハッピーエンドです。ご安心を。
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第二十九話もよろしくお願いします!
「知っていたよ。実は内戦の影響で土地が荒れていたサウードは、辺境ということもあって復興が追いついていなかった。そこへ二年前の暗殺事件だ。養父母は領民のために一生懸命だったけど、彼らは領民に殺されてしまった。他の領地はサウードの民の移住を認めないし、貧しい彼らは砂船に乗れないから国外にも出られない。僕がしていたのは彼らが命を繋ぐ最低限の援助……サウードの民は、暗殺事件の罰を受けている状態さ」
「そんな! 罪のない領民ばかりでしょう? そんなのってないわ」
アリスは涙が止まらなかった。ぐずぐずと鼻を啜り、ウィリアムの胸に顔を埋めて泣き続けた。一歩間違えば国王の暗殺事件だ。領民や領地がお咎めなしとはいかなかったのだろう。それでも悲しかった。昼間の領民のうつろな瞳が忘れられない。一昨日屋敷前に来ていた領民の「助けて」という叫び声が蘇る。
「僕の家族は兄さんだけだった。養父母も僕によくしてくれた。だから彼らに背いた領民なんて、罰を受けて当然。僕はそう考えていた」
ウィリアムがアリスの頭を撫でる。アリスが「でも」と言葉を返そうとすると彼は「けれど」と話を続けた。
「アリスのおかげで変わっていく使用人や子供たちを見て、本当にこのままでいいのか不安になったんだ。だから君が出した答えに従おうと思って領地に向かわせた。結果は、よくわかったよ」
「ウィル……」
最後に「ありがとう、アリス」と言ってウィリアムがアリスの涙を拭った。そしてそっと唇を重ねる。
「領民たちの生活を立て直すよ。彼らが生き生きと笑顔で過ごせるように。アリスにはいろんなことを任せてしまうと思うんだけど……僕のことを助けてくれる?」
アリスは不安げに眉を下げる夫に、笑顔を向けた。
「もちろんよ。任せてちょうだい!」
それからアリスはウィリアムと楽しく食事をして、夜の支度をし寝室に向かった。
「そうだ、今日は三日目だわ」
ドアを開ける直前に、今日が約束の日であると思い出すアリス。ドアに置いた手が緊張で汗ばんだ。
「アリス、こっちへ来て」
ドアを開けると夜着姿のウィリアムがソファに座って待っていた。アリスは彼に歩み寄り、隣に座る。
「お待たせ、ウィル」
「アリス、今日が約束の三日目だよ。待たせてごめんね。これを作ってたんだ」
ウィリアムが小さな瓶をアリスに差し出した。中には液体が入っている。
「これは何?」
アリスは首を傾げた。これのために待ったということは、今日この日に必要なものだったということ。まさか、いきなり媚薬なのか。先日のピエールの話も相待ってアリスの妄想は止まらない。
しかしウィリアムの答えは、アリスが思ってもいないものだった。
「避妊薬だよ。アリスが妊娠しないように——」
「え?」
ウィリアムは驚き身を固めるアリスに「さあ飲んで」と満面の笑みを浮かべた。
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