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第二章 使用人を懐柔せよ!
第17話 披露宴
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メイドのサーシャは目を瞑り、意を決した様子で声を上げた。
すると同じように並んでいた女性たちも次々に「私の子もお願いします」と懇願した。
彼女たちはエミリーと同じように幼い子を抱えて働いていたのだ。他の家族には頼れない。子供は一歳~五歳の間で合計五人いた。
「わかりました。ピエールさんに話しておくので明日から来てください」
「「ありがとうございます!」」
メイドたちは目に涙を滲ませながらアリスに礼を言った。それに笑顔で応えながら、アリスはこのシングルマザー問題は少し根が深いのかもしれないと気を引き締めた。
そして最後に一人残った男性の使用人に声をかけた。
「最後はあなたね。話を聞かせてくれるかしら?」
「はい。私は執事のレオと申します。その、とても、言いにくいのですが……」
レオは歯切れの悪い口調でちらりと漆黒の瞳を左側に揺らした。なんとなくアリスは彼が何を言いたいのか察し、それを後押しする一言を添える。
「レオ、私は解決のために全力を出します。どうか遠慮せず、続きを話してちょうだい」
「ありがとうございます。実は、子供たちの夜泣きが響いて眠れない日があり困っています」
レオは申し訳なさそうに眉を下げ、母親たちに一礼した。彼女たちは眉根を寄せ、静かに首を振った。他の使用人たちからは「確かに」「私も……」などレオと同じ意見が飛んでくる。よく見るとレオを含め何人かは目の下に隈ができていた。
誰も悪くはない。しかしみんなが困っている。アリスは思い悩んだ。口を一文字に結び「うーん」と唸ってから黙り込む。そして彼らを見据え口を開いた。
「エイメン、使用人棟に現在空き部屋は?」
「各階に数部屋ございます。合わせると1階分が空きます」
エイメンの返事を聞いて、アリスは彼が自分の考え出した解決策に気づいたと悟った。さすが使用人頭。
「では皆さん、まずは今日から少しずつ荷造りをしてください——」
アリスはそう言って困惑の表情を浮かべる使用人たちににっこりと微笑んだ。
「大丈夫、私を信じてちょうだい!」
◇◆◇◆
「なかなか賑わっているじゃないか」
「ファハドさん! 来てくれたんですね!」
アリスはドアをノックする音に振り向き、義兄の再来を笑顔で迎えた。今日は待ちに待った披露宴の日だ。
「約束したからな。本当に間に合うとは。使用人棟のことも聞いたぞ。やるじゃないか」
アリスはまず書斎を簡易保育所として使用人の子供を預かることにした。ピエールと協力し子供達やその母親たちと打ち解けることができた。
そして使用人棟の部屋替えを決行。子供がいる使用人たちは一番下の階に引越し、すぐ上の階は物置として使用。単身者を三階以上に入居させた。夜泣きの声がだいぶ小さくなったことで彼らの安眠は確保され、アリスはそのことで随分と感謝された。
さらに今後のことを考えて家族向けの使用人棟建設を計画。来月から着工となる予定だ。
「君がウィリアムの妻になってくれて本当によかった。礼を言うぞアリス」
「こちらこそ、私を愛してくれる素敵な夫にやりがいのある仕事……あなたたち兄弟に出会えて本当によかった。ありがとうございます!」
「ああ、これからも我が弟を頼むぞ」
アリスが「はい!」と笑顔で応えると、ファハドは口の端を上げ手を振って、従者と部屋を出ていった。
「奥様、今の……ファハド殿下ですよね? 間近で見たのは初めてですが美しすぎます!」
支度を手伝ってくれたエミリーがため息混じりに部屋の出入り口を見つめている。アリスは彼女に向かってニヤリと白い歯を見せ笑った。
「私の夫は……彼より美しいわよ」
「ええ!」と言って両目を輝かせるエミリー。支度を終えたアリスは彼女と別れ前庭が見える部屋に向かった。
「アリス!」
「ウィル、お待たせ」
室内には婚礼衣装に身を包み髪を整えたウィリアムが待っていた。彼はアリスに駆け寄り軽くキスをしてから抱き寄せる。
「綺麗だよ、アリス」
「あなたも素敵。あいさつの言葉は考えてきた?」
「うん……」
アリスは披露宴に出ることに消極的になっていたウィリアムを気遣い、バルコニーから挨拶をすることにした。それでも不安そうに眉を下げる夫を自分から抱きしめ彼を激励する。
「みんなあなたの言葉を楽しみに待っているわ。それに、私が一緒にいる。大丈夫よ」
「うん!」
ウィリアムが力強く頷く。アリスは彼と手を繋ぎバルコニーに立った。前庭には使用人たちが集まっており、皆ふたりに注目している。
そのせいか、繋いだウィリアムの手が震えていた。アリスは彼を見つめぎゅっと手を握り直した。
「私はサウード州の領主、ウィリアム・サウードだ。今まで姿を見せず申し訳なかった。この度、私は素晴らしい妻を娶った。彼女の名はアリス。遠くラウリンゼ王国からアラービヤに、私の元に来てくれた。彼女の素晴らしさは皆も身をもって知っているかと思う。どうかこれからも、アリスと、私たち夫婦を支えてほしい」
ウィリアムが挨拶する姿を使用人たちは拍手も忘れるほどに見惚れていた。そこへパチパチと拍手が響く。彼の兄ファハドとその従者ピエールだ。彼らの拍手で使用人たちも手を叩き、庭中がウィリアムを讃える拍手喝采に包まれた。
「皆さん、妻のアリス・サウードです。いつも私たちのために働いてくれてありがとう。他国から嫁いできてこの国の勝手がわからず、ご迷惑をおかけするかもしれません。けれど夫とともにこの地を統べるものとして、日々成長していきたいと思います。どうかご協力をお願いいたします」
「奥様ー!」
「旦那様!」
再び大きな拍手が響き渡る。アリスはウィリアムとともに「乾杯!」とグラスを掲げた。
「食事も飲み物もたくさん用意しています! 楽しんでくださいね!」
この日、若く美しい領主夫妻を使用人たちは心から祝福した。披露宴は大成功し、使用人たちは飲めや歌えやと遅くまで宴を楽しんだという——。
>>第三章へ続く
すると同じように並んでいた女性たちも次々に「私の子もお願いします」と懇願した。
彼女たちはエミリーと同じように幼い子を抱えて働いていたのだ。他の家族には頼れない。子供は一歳~五歳の間で合計五人いた。
「わかりました。ピエールさんに話しておくので明日から来てください」
「「ありがとうございます!」」
メイドたちは目に涙を滲ませながらアリスに礼を言った。それに笑顔で応えながら、アリスはこのシングルマザー問題は少し根が深いのかもしれないと気を引き締めた。
そして最後に一人残った男性の使用人に声をかけた。
「最後はあなたね。話を聞かせてくれるかしら?」
「はい。私は執事のレオと申します。その、とても、言いにくいのですが……」
レオは歯切れの悪い口調でちらりと漆黒の瞳を左側に揺らした。なんとなくアリスは彼が何を言いたいのか察し、それを後押しする一言を添える。
「レオ、私は解決のために全力を出します。どうか遠慮せず、続きを話してちょうだい」
「ありがとうございます。実は、子供たちの夜泣きが響いて眠れない日があり困っています」
レオは申し訳なさそうに眉を下げ、母親たちに一礼した。彼女たちは眉根を寄せ、静かに首を振った。他の使用人たちからは「確かに」「私も……」などレオと同じ意見が飛んでくる。よく見るとレオを含め何人かは目の下に隈ができていた。
誰も悪くはない。しかしみんなが困っている。アリスは思い悩んだ。口を一文字に結び「うーん」と唸ってから黙り込む。そして彼らを見据え口を開いた。
「エイメン、使用人棟に現在空き部屋は?」
「各階に数部屋ございます。合わせると1階分が空きます」
エイメンの返事を聞いて、アリスは彼が自分の考え出した解決策に気づいたと悟った。さすが使用人頭。
「では皆さん、まずは今日から少しずつ荷造りをしてください——」
アリスはそう言って困惑の表情を浮かべる使用人たちににっこりと微笑んだ。
「大丈夫、私を信じてちょうだい!」
◇◆◇◆
「なかなか賑わっているじゃないか」
「ファハドさん! 来てくれたんですね!」
アリスはドアをノックする音に振り向き、義兄の再来を笑顔で迎えた。今日は待ちに待った披露宴の日だ。
「約束したからな。本当に間に合うとは。使用人棟のことも聞いたぞ。やるじゃないか」
アリスはまず書斎を簡易保育所として使用人の子供を預かることにした。ピエールと協力し子供達やその母親たちと打ち解けることができた。
そして使用人棟の部屋替えを決行。子供がいる使用人たちは一番下の階に引越し、すぐ上の階は物置として使用。単身者を三階以上に入居させた。夜泣きの声がだいぶ小さくなったことで彼らの安眠は確保され、アリスはそのことで随分と感謝された。
さらに今後のことを考えて家族向けの使用人棟建設を計画。来月から着工となる予定だ。
「君がウィリアムの妻になってくれて本当によかった。礼を言うぞアリス」
「こちらこそ、私を愛してくれる素敵な夫にやりがいのある仕事……あなたたち兄弟に出会えて本当によかった。ありがとうございます!」
「ああ、これからも我が弟を頼むぞ」
アリスが「はい!」と笑顔で応えると、ファハドは口の端を上げ手を振って、従者と部屋を出ていった。
「奥様、今の……ファハド殿下ですよね? 間近で見たのは初めてですが美しすぎます!」
支度を手伝ってくれたエミリーがため息混じりに部屋の出入り口を見つめている。アリスは彼女に向かってニヤリと白い歯を見せ笑った。
「私の夫は……彼より美しいわよ」
「ええ!」と言って両目を輝かせるエミリー。支度を終えたアリスは彼女と別れ前庭が見える部屋に向かった。
「アリス!」
「ウィル、お待たせ」
室内には婚礼衣装に身を包み髪を整えたウィリアムが待っていた。彼はアリスに駆け寄り軽くキスをしてから抱き寄せる。
「綺麗だよ、アリス」
「あなたも素敵。あいさつの言葉は考えてきた?」
「うん……」
アリスは披露宴に出ることに消極的になっていたウィリアムを気遣い、バルコニーから挨拶をすることにした。それでも不安そうに眉を下げる夫を自分から抱きしめ彼を激励する。
「みんなあなたの言葉を楽しみに待っているわ。それに、私が一緒にいる。大丈夫よ」
「うん!」
ウィリアムが力強く頷く。アリスは彼と手を繋ぎバルコニーに立った。前庭には使用人たちが集まっており、皆ふたりに注目している。
そのせいか、繋いだウィリアムの手が震えていた。アリスは彼を見つめぎゅっと手を握り直した。
「私はサウード州の領主、ウィリアム・サウードだ。今まで姿を見せず申し訳なかった。この度、私は素晴らしい妻を娶った。彼女の名はアリス。遠くラウリンゼ王国からアラービヤに、私の元に来てくれた。彼女の素晴らしさは皆も身をもって知っているかと思う。どうかこれからも、アリスと、私たち夫婦を支えてほしい」
ウィリアムが挨拶する姿を使用人たちは拍手も忘れるほどに見惚れていた。そこへパチパチと拍手が響く。彼の兄ファハドとその従者ピエールだ。彼らの拍手で使用人たちも手を叩き、庭中がウィリアムを讃える拍手喝采に包まれた。
「皆さん、妻のアリス・サウードです。いつも私たちのために働いてくれてありがとう。他国から嫁いできてこの国の勝手がわからず、ご迷惑をおかけするかもしれません。けれど夫とともにこの地を統べるものとして、日々成長していきたいと思います。どうかご協力をお願いいたします」
「奥様ー!」
「旦那様!」
再び大きな拍手が響き渡る。アリスはウィリアムとともに「乾杯!」とグラスを掲げた。
「食事も飲み物もたくさん用意しています! 楽しんでくださいね!」
この日、若く美しい領主夫妻を使用人たちは心から祝福した。披露宴は大成功し、使用人たちは飲めや歌えやと遅くまで宴を楽しんだという——。
>>第三章へ続く
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