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第九章 幕引き
223、少女の一手
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大勢の小声が法廷内に反響する。鬱蒼とした森で風が吹き、無数の木の枝葉が擦れているようだとオリビアは思った。すうと息を吸い、再び話し始める。
「私は、ラピスラズリ侯爵家とペリドット伯爵家に繋がりがあることは知りませんでした。けれど調べるとエヴァ・ペリドット伯爵夫人はラピスラズリ侯爵家の養女だったことがわかりました。そこでなんとなく、事件から一連の繋がりを感じたのです。そしてさらに私をそう思わせるような事件が起きました」
「それはどんな事件ですか?」
もうひと押し。オリビアは深呼吸をした。焦らずに、事実のみを話す。
「クリスタル領で、殺人事件が起きたのです」
「詳しく話してください」
「はい。被害者は娼館に勤める十六歳の少女でした。名前はカタリーナ。彼女は前夜に身元はわからないけれど羽振りのいい客を相手にしたそうです。そして「客の忘れ物を届ける」と言って深夜に娼館を出ました。ですがカタリーナは戻りませんでした。翌朝遺体となって発見されたのです。彼女は、犯人の手がかりになりそうなものを残していました。資料をご覧ください」
「これは!」
騎士団員が驚き、目を見開いた。法廷内の視線が彼に集中している。正しくは、彼が持っている資料だ。一瞬迷ったのか裁判籍を見上げた彼に、国王が頷いた。
「資料のひとつとして、指輪がありました。これは殺害された少女が口の中に隠していたようです。金でできており、ラピスラズリと思われる青い石が入っています。さらに裏には紋章が彫られています。これは、ラピスラズリ家の紋章です!」
傍聴席が盛り上がる。想定外の証拠品に、彼らは声を抑えられなくなっていた。
「皆、静粛に。証人は話を続けなさい」
「はい。私も指輪の紋章がラピスラズリ侯爵家のものでしたので驚きました。これでラピスラズリ侯爵と事件が繋がったとは思いませんでしたが、気になったのは事実です。そして先ほどの証言でお話ししましたが、私は攫われる直前、演習場で傭兵たちが集っているのを目撃しています。そのときに聞いたのです。『我々、マルズワルト国民や、ジュエリトス辺境の民にも魔法の恩恵を』という言葉を。以上が、私がペリドット伯爵に言ったことを考えるに至った理由でございます」
国王に嗜められ静まり返った法廷で、オリビアは前を向き、最後まで話し終えた。法廷席の中央から柔らかい口調の言葉が降ってくる。
「オリビア・クリスタル伯爵家令嬢。ここからは私がいくつか質問しても良いかな?」
「はい。全て正直にお話しいたします」
オリビアが腰を折り頭を下げると、国王が小さく頷き口を開いた。
「その前に、被告人や傍聴席の者たちは、許可なく一切発言しないように。守れなものは法廷侮辱罪で即収監する。では証人よ、ひとつめの質問だ。そなたはラピスラズリ侯爵や隣国マルズワルトが事件に関わっている可能性を感じさせる証拠を提示した。これだけの証拠を持ちながら、彼らを疑っているわけではないと言ったな。それはなぜかな?」
国王の口角がわずかに上がっている。なかなか意地悪な質問だ。傍聴席からの視線が無数に刺さる。オリビアは裁判席を見上げた。
>>続く
「私は、ラピスラズリ侯爵家とペリドット伯爵家に繋がりがあることは知りませんでした。けれど調べるとエヴァ・ペリドット伯爵夫人はラピスラズリ侯爵家の養女だったことがわかりました。そこでなんとなく、事件から一連の繋がりを感じたのです。そしてさらに私をそう思わせるような事件が起きました」
「それはどんな事件ですか?」
もうひと押し。オリビアは深呼吸をした。焦らずに、事実のみを話す。
「クリスタル領で、殺人事件が起きたのです」
「詳しく話してください」
「はい。被害者は娼館に勤める十六歳の少女でした。名前はカタリーナ。彼女は前夜に身元はわからないけれど羽振りのいい客を相手にしたそうです。そして「客の忘れ物を届ける」と言って深夜に娼館を出ました。ですがカタリーナは戻りませんでした。翌朝遺体となって発見されたのです。彼女は、犯人の手がかりになりそうなものを残していました。資料をご覧ください」
「これは!」
騎士団員が驚き、目を見開いた。法廷内の視線が彼に集中している。正しくは、彼が持っている資料だ。一瞬迷ったのか裁判籍を見上げた彼に、国王が頷いた。
「資料のひとつとして、指輪がありました。これは殺害された少女が口の中に隠していたようです。金でできており、ラピスラズリと思われる青い石が入っています。さらに裏には紋章が彫られています。これは、ラピスラズリ家の紋章です!」
傍聴席が盛り上がる。想定外の証拠品に、彼らは声を抑えられなくなっていた。
「皆、静粛に。証人は話を続けなさい」
「はい。私も指輪の紋章がラピスラズリ侯爵家のものでしたので驚きました。これでラピスラズリ侯爵と事件が繋がったとは思いませんでしたが、気になったのは事実です。そして先ほどの証言でお話ししましたが、私は攫われる直前、演習場で傭兵たちが集っているのを目撃しています。そのときに聞いたのです。『我々、マルズワルト国民や、ジュエリトス辺境の民にも魔法の恩恵を』という言葉を。以上が、私がペリドット伯爵に言ったことを考えるに至った理由でございます」
国王に嗜められ静まり返った法廷で、オリビアは前を向き、最後まで話し終えた。法廷席の中央から柔らかい口調の言葉が降ってくる。
「オリビア・クリスタル伯爵家令嬢。ここからは私がいくつか質問しても良いかな?」
「はい。全て正直にお話しいたします」
オリビアが腰を折り頭を下げると、国王が小さく頷き口を開いた。
「その前に、被告人や傍聴席の者たちは、許可なく一切発言しないように。守れなものは法廷侮辱罪で即収監する。では証人よ、ひとつめの質問だ。そなたはラピスラズリ侯爵や隣国マルズワルトが事件に関わっている可能性を感じさせる証拠を提示した。これだけの証拠を持ちながら、彼らを疑っているわけではないと言ったな。それはなぜかな?」
国王の口角がわずかに上がっている。なかなか意地悪な質問だ。傍聴席からの視線が無数に刺さる。オリビアは裁判席を見上げた。
>>続く
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