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第九章 幕引き

216、審判のとき

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 静寂に包まれた法廷。主任裁判官の国王がすうと息を吸った。オリビアは彼の空色の瞳が一瞬わずかに曇ったように見えた。彼とレオンを中心に、視界の端に傍聴席の王族達がちらつく中、裁判の行末を見届ける。

「判決、被告人レオン・ダイヤモンド=ジュエリトスを有罪とする!」

 国王の言葉に驚いていたのは副裁判官達だけだった。わざわざ裁判を開いたということは、そのつもりだったのだろう。きっと学院での奉仕活動が今回の罰になる。そうなったらたまに手伝いでもしようか。オリビアはそんなことを思いながら次の言葉を待った。

「今回の事件ではクラブ棟を保有する貴族学院や生徒の保護者からの訴えはなく、本来であれば事故として処理しても構わないものだった。被告人は自費でのクラブ棟再建、動物の慰霊碑建設も学院に申し出ている。副官達は無罪と判断した。つまり、この判決は私の独断である。そして刑罰についても同様だ」

 国王は穏やかに、明瞭な声で語った。そして再び息を吸い、証言席のレオンをまっすぐに見つめる。

「王家のものが故意ではないとはいえ、大勢の国民の命を脅かすようなことがあってはならない。一歩間違えれば国家反逆罪だ……。よって厳しい罰を与えるとする」

 父の言葉を受け止める覚悟ができたのか、レオンが彼を見つめながら小さく頷いた。ついに刑罰が言い渡される。

「レオン・ダイヤモンド=ジュエリトス、そなたから王位継承権を剥奪する!」

 オリビアはあまりの驚きに両手を口で覆い、目を見開いた。事故に対する罰にしてはあまりにも重い。ちらりと横目で傍聴人席を見るとレオンの母で第三王妃のレイチェルが涙ぐんでいた。

「被告人は判決や刑罰に異議はあるか?」

「いいえ、ありません」

 問いかけに対し、レオンが首を横に振った。以前、学院で生徒達に謝罪したとき、彼は王から言い渡される罰について「全面的に受け入れる」と言っていたのを思い出す。あのときから、こうなることを予想していたのかもしれない。

 国王が再びレオンに語りかける。

「本日この時から、そなたは王位継承権を失う。貴族院や各領地にも閉廷後すぐに伝達する。しかしこれからも王族であることには変わりない。今回の事件を猛省し、今後はさらに国民のために尽くしなさい」

「はい」

 頷くレオンに、彼の父は空色の瞳を細め、最後に激励の言葉を付け加えた。

「最後に、これは父としての言葉だ。レオンよ、お前は今後王になる可能性はない。だが王族として国民を大切に思い、しっかりと働きなさい。それさえできていればどんな仕事をしても、どんな人と結ばれても構わない。お前はのびのびと、自由に生きなさい」

「はい!」

 オリビアは父の優しい言葉に涙する友人を見つめながら、自分の目元も熱くなった。ぼやけそうな視界をなんとかしようと上を向き瞬きをする。傍聴人席では彼の母がハンカチで目を押さえていた。

「では、これにて閉廷!」

 こうしてレオンの裁判が終わりを告げた。証言席の彼がこちらを向き、目元を赤らめながら微笑んだ。その表情はずいぶんと晴れやかで清々しい。

 オリビアは一つの事件に決着をつけ新たな人生を歩む友人に、にっこりと笑顔を向けた。

>>続く
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