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第八章 決戦!ペリドット領

214、決着は金曜日

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 敵陣に入ったリアムが剣を抜き、肉体強化で護衛や傭兵をなぎ倒していく。セオ、ジョージもそれぞれ武器を手に敵と応戦していた。しかし、大勢対三人ではなかなか捌ききれない。

「ねえリタ、リアム様たちは大丈夫かしら?」

 思わずリタに不安を吐露する。自分と同じように険しい表情で彼らの戦う姿を見ていた彼女は、オリビアの手を握り笑みを浮かべた。

「きっと大丈夫です。信じましょう、オリビア様」

「そうね、信じて待つわ」

 繋いだ手を離さず、引き続きリアムたちに視線を戻す。次から次へと増える敵兵に対し何か作戦を立てたのか、セオとジョージがリアムを守るように敵と交戦しはじめた。

「リアム様、どうしたのかしら?」

 その場で動かなくなったリアムを案じながら見つめるオリビア。すると、リアムの身体がむくむくと大きく変化していった。強化魔法だ。元の三倍ほどの大きさで変化は止まり、彼は最後に手元の剣に手をかざした。みるみるうちに剣は彼のサイズに見合った大斧に変化した。その変化に合わせて、セオとジョージは敵陣から大きく後退し、オリビアたちのところまで戻ってくる。

「ジョージ、セオ!」

 彼らと並んで、前方のリアムを遠目に見上げる。

「ありゃあ、反則だな。誰も勝てっこないって」

「確かに。私たちにできるのは、巻き込まれないよう下がって見ていることくらいです」

 そう言い合ってジョージとセオは苦笑していた。リタも聞きながらうんうんと縦に首を振る。オリビアも彼らに同意だ。あの大きな斧で一振りされたら、ひとたまりもないだろう。敵も理解したらしく、盾を構えながらリアムと距離を取ろうとしている。

「そんなに、簡単じゃないわよ」

 不意に聞こえた声に反応し、隣を見る。声の主はいつの間にか目覚めたエヴァ・ペリドットだった。手足を縛られたまま建物の外壁を背もたれに座り込んでいる。

「どういうことですか?」

 オリビアが問いかけたとき、ドンと大きな衝撃音が聞こえた。リアムが肩を押さえている。暗くて詳細は見えないが、彼の前方には小さな人影があった。

「傭兵の中には魔法攻撃部隊がいる。あれは魔法弾。一発じゃ致命傷は無理だろうけど、大勢で一斉に打てばわからないよ」

 エヴァが最後に「ほらね」と言って薄ら笑いを浮かべた。直後にたくさんの光の玉がリアムを襲う。彼はそれを正面から大斧を盾の代わりにして凌ぐ。オリビアは何度も打たれれば、いつか斧が壊れてしまうのではないかと不安になった。彼の回復魔法は、物質は復元できないはずだ。

「ほら、もう一度くるわよ。いつまで耐えられるかしらね?」

「リアム様!」

 黒ローブの集団が、魔法弾を作り始める。光の玉が徐々に大きくなっていく。そして、そろそろ打ち込まれるという頃合いだった。

『そこまでだ! すぐに魔法を解きなさい! 我々は、王立騎士団だ!』

 その声は、上空から聞こえた。魔法攻撃の気配がないことから、その場にいたほとんどの人間が空を見上げてたのだろう。オリビアも前方上空に注目した。そこには水色の軍服を着て夜空に浮かぶ人間たちがずらりと並んでいた。美しい隊列は、まるで快晴の空を貼り付けたようにも見える。先頭にはひとり、音声拡張用と思われる道具を口の前に持っている人物が。おそらく隊長なのだろう。

「あれは、飛空隊ひくうたい!」

「飛空隊?」

 驚きの声を上げるセオに、オリビアは首を傾げた。彼は「はい」と頷いて話し始める。

「飛空隊は、飛行系の魔法が使える者のみで編成され、高速移動と戦闘に特化した精鋭部隊です。騎士団の中でも花形と言われています。出動には国王陛下か王太子殿下の許可が必要なのですよ」

「そんな部隊がわざわざ来てくれたのね」

「きっと、アレキサンドライト家の経由ですね。隊長がエリオット様に依頼して手紙を送ったと聞いています」

「そうだったの……」

 オリビアは自宅で心配しながらひたすら待ち続けているであろう兄を思い、胸が痛んだ。早く家に帰りたい。リアム様と、みんなと。改めて決意して再び飛空隊に目を向ける。

『魔法を解けと言っている! 解かないのなら、こちらも攻撃するぞ。飛空隊、構え!』

 依然魔法を解かない敵側に、隊長が警告した。さらに彼の呼びかけに反応した隊員達が弓と魔法弾を構えていた。上空から地上へ一気に撃たれたら、全滅を免れないだろう。その考えに至ったのか、敵達は魔法を解き武器も下ろした。

『武器を捨てて手を上げろ! それから、ジョルジュ・ペリドットは直ちに投降しなさい!』

「…………」

『ジョルジュ・ペリドット! 投降しろ!』

 飛空隊隊長の呼びかけに、ペリドットからの返事はなかった。逃げようとしているのか。するとリアムが肉体強化したまま敵陣に一歩踏み出した。彼は人混みの中から、何かを掴み高く持ち上げた。つまみ上げたという方が正しいかもしれない。ジタバタと抵抗するジョルジュ・ペリドットだった。

『よくやった、リアム・アレキサンドライト少尉! 全隊、上陸!』

 号令とともに、上空から水色の軍隊が降り立つ。そして隊長の指示により彼らはペリドット側の兵士や傭兵達を次々に捕らえていった。その後、陸路で駆けつけた援軍が彼らを王都に向け移送した。その中にはペリドット夫妻の姿も。項垂れながら連れられる彼らを見て、オリビアは大きく息を吐いた。

「オリビア嬢!」

「リアム様!」

 強化魔法を解いたリアムが向かってくる。オリビアは全力で駆け出し、彼の胸に思いきり飛び込んだ。恋人の逞しい腕に包まれながら泣きじゃくる。彼が生きて戻ってきた喜びと安堵、戦い中の不安と恐怖、様々な感情が入り混じる。自分が捕らわれている間、この思いをリアムにさせてしまったのかと思うと申し訳ない気持ちもあった。

「オリビア嬢、泣いているのか?」

「リアム様、無事に戻ってよかった……」

「すぐに戻ると言ったのに待たせてしまったな。さあ、一緒に帰ろう」

「はい」

 リアムと騎士団の馬車に乗り込むと、隣り合わせで座り手を繋いだ。まもなく馬車は出発する。ペリドットの市街地を通る頃、広間の時計は深夜零時を回っており、波乱の一日を終えた疲れが一気に瞼にのしかかった。

 隣に愛しい恋人の体温を感じながら、静かに瞼を閉じる。時折揺れる馬車はふわふわと気持ち良く、オリビアは夢心地で帰路についた。

>>次章へ続く

ここまで読んでいただきありがとうございます!
第八章、長かったですね💦
引き続きよろしくお願いします☺️
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