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第八章 決戦!ペリドット領
199、明日を待ちわびるふたり
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午後から領内の店に顔出しをしたり、娼館のオリーブを訪ねたりして過ごしたチーム・オリビア。夕食後はまたエリオットに捕まり、みんなで彼の部屋でチェスなどをしていた。
「待った、ジョージ、もうひと勝負!」
「エリオット様、言いにくいんですが、たぶんまた俺の勝ちっすよ?」
「いいや、勝つまでやる。今夜は寝かさないぞ、ジョージ!」
「いやそれ夜通し負け続ける宣言じゃないっすか。付き合ってられませんよ」
チェスが不得手なエリオットがさらに負けを重ねようとする姿を尻目に、セオと経営する店舗の帳簿を確認していたオリビア。ふいに目の端に光を感じ、目を細めた。
「オリビア様、耳飾りが反応しているようです」
「え、誰? みんなここにいるわよね?」
「いいえ、もうお一方、ここにいない方がおられるじゃないですか!」
セオに気付かされ、オリビアはもう一人、この場にはいない耳飾りの持ち主を思い浮かべた。慌てて通信し語りかける。
「こちらリビー。どちら様ですか?」
返ってきたのは、愛しい恋人の優しい声。
『こちらリアム。オリビア嬢、今、話してもいいかな?』
「は、はい。もちろんです!」
音声だけを繋ぐオリビアの耳飾り。今は遠く離れた王都にいるはずのリアムにオリビアの姿は見えない。それでもオリビアは背筋を伸ばし、椅子に座り直して顔を上げた。まるで目の前に彼が居るかのように振る舞う。
『もうそろそろ休もうと思っていたんだ』
「そうでしたか。今日もお仕事お疲れ様でした。リアム様は意外と早く休まれるのですね」
『ああ。それで眠る前に君の声が聞きたいと思ったんだ。明日会えるというのに恥ずかしいが……』
他の仲間達と話すときとは違い、彼の声を聞いていると耳がくすぐったくなる。オリビアは話しているうちに、今度はリアムが目の前にいないことが焦ったくなった。早く彼に会いたい。深緑の瞳を細める姿を見たい。
「私も、今、リアム様の声が聞けて嬉しいです。それに早く会いたい、明日が待ち遠しいと思っています」
『よかった。明日は夜明けとともに出発しようと思って、こんなに早く休もうとしているんだ』
愛しい人が、自分に会うために早朝出発しようとしている。オリビアは喜びで胸がいっぱいになった。声が明るく弾み、上擦る。
「リアム様が、私と同じ気持ちでいてくださっていることがとっても嬉しいですわ。早く明日になって欲しいから、私ももう眠ってしまいたいです」
『本当に?』
リアムの問いかけに、オリビアは大きく頷いて返事をした。
「もちろん本当ですわ。明日の昼食はご一緒できそうでしょうか? 何か召し上がりたいものがあれば今おっしゃってくださいね」
『いや、その……』
「どうしたのですか、リアム様?」
リアムの声が少し揺れた。彼の声色を何となく気恥ずかしそうだと感じたオリビアは、その場で首を傾げた。
『昼どころか、明日は九時頃には着くと思う』
「九時ですか? いくらなんでも王都からでしたら日の出に出発してもお昼過ぎになるかと思いますが……」
『実は、もう今日のうちにパール領まで来ているんだ。だから、クリスタル領までは四時間ほどで到着するはずだ』
オリビアはリアムの行動力に驚き「まあ」と言って口をぽかんと広げた。引き続き、恥ずかしそうなリアムの声が返ってくる。
「気味悪く思われるかもしれないのは覚悟していたが、どうしても早く君に会いたくて仕事も急いで切り上げて出発してしまっていたんだ」
「気味悪くなんかありません。本当に早く会いたい。会いたいです、リアム様」
もっと自分に魔力があれば。この距離も飛び越えるような魔法も使えたのだろうか。オリビアは自分の能力の限界を悔しく思った。
『嬉しいよオリビア嬢。明日が待ち遠しいな』
「ええ、本当に。明日は遅めの朝食を用意してお待ちしていますね」
『楽しみにしている。それじゃあそろそろ休むよ。おやすみ、オリビア嬢』
「おやすみなさい、リアム様」
挨拶とともに耳飾りの光が消え、魔法が解ける。オリビアは耳飾りに手を触れ、しばらく恋人の余韻に浸っていた。
>>続く
「待った、ジョージ、もうひと勝負!」
「エリオット様、言いにくいんですが、たぶんまた俺の勝ちっすよ?」
「いいや、勝つまでやる。今夜は寝かさないぞ、ジョージ!」
「いやそれ夜通し負け続ける宣言じゃないっすか。付き合ってられませんよ」
チェスが不得手なエリオットがさらに負けを重ねようとする姿を尻目に、セオと経営する店舗の帳簿を確認していたオリビア。ふいに目の端に光を感じ、目を細めた。
「オリビア様、耳飾りが反応しているようです」
「え、誰? みんなここにいるわよね?」
「いいえ、もうお一方、ここにいない方がおられるじゃないですか!」
セオに気付かされ、オリビアはもう一人、この場にはいない耳飾りの持ち主を思い浮かべた。慌てて通信し語りかける。
「こちらリビー。どちら様ですか?」
返ってきたのは、愛しい恋人の優しい声。
『こちらリアム。オリビア嬢、今、話してもいいかな?』
「は、はい。もちろんです!」
音声だけを繋ぐオリビアの耳飾り。今は遠く離れた王都にいるはずのリアムにオリビアの姿は見えない。それでもオリビアは背筋を伸ばし、椅子に座り直して顔を上げた。まるで目の前に彼が居るかのように振る舞う。
『もうそろそろ休もうと思っていたんだ』
「そうでしたか。今日もお仕事お疲れ様でした。リアム様は意外と早く休まれるのですね」
『ああ。それで眠る前に君の声が聞きたいと思ったんだ。明日会えるというのに恥ずかしいが……』
他の仲間達と話すときとは違い、彼の声を聞いていると耳がくすぐったくなる。オリビアは話しているうちに、今度はリアムが目の前にいないことが焦ったくなった。早く彼に会いたい。深緑の瞳を細める姿を見たい。
「私も、今、リアム様の声が聞けて嬉しいです。それに早く会いたい、明日が待ち遠しいと思っています」
『よかった。明日は夜明けとともに出発しようと思って、こんなに早く休もうとしているんだ』
愛しい人が、自分に会うために早朝出発しようとしている。オリビアは喜びで胸がいっぱいになった。声が明るく弾み、上擦る。
「リアム様が、私と同じ気持ちでいてくださっていることがとっても嬉しいですわ。早く明日になって欲しいから、私ももう眠ってしまいたいです」
『本当に?』
リアムの問いかけに、オリビアは大きく頷いて返事をした。
「もちろん本当ですわ。明日の昼食はご一緒できそうでしょうか? 何か召し上がりたいものがあれば今おっしゃってくださいね」
『いや、その……』
「どうしたのですか、リアム様?」
リアムの声が少し揺れた。彼の声色を何となく気恥ずかしそうだと感じたオリビアは、その場で首を傾げた。
『昼どころか、明日は九時頃には着くと思う』
「九時ですか? いくらなんでも王都からでしたら日の出に出発してもお昼過ぎになるかと思いますが……」
『実は、もう今日のうちにパール領まで来ているんだ。だから、クリスタル領までは四時間ほどで到着するはずだ』
オリビアはリアムの行動力に驚き「まあ」と言って口をぽかんと広げた。引き続き、恥ずかしそうなリアムの声が返ってくる。
「気味悪く思われるかもしれないのは覚悟していたが、どうしても早く君に会いたくて仕事も急いで切り上げて出発してしまっていたんだ」
「気味悪くなんかありません。本当に早く会いたい。会いたいです、リアム様」
もっと自分に魔力があれば。この距離も飛び越えるような魔法も使えたのだろうか。オリビアは自分の能力の限界を悔しく思った。
『嬉しいよオリビア嬢。明日が待ち遠しいな』
「ええ、本当に。明日は遅めの朝食を用意してお待ちしていますね」
『楽しみにしている。それじゃあそろそろ休むよ。おやすみ、オリビア嬢』
「おやすみなさい、リアム様」
挨拶とともに耳飾りの光が消え、魔法が解ける。オリビアは耳飾りに手を触れ、しばらく恋人の余韻に浸っていた。
>>続く
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