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第八章 決戦!ペリドット領
192、ジョージの慟哭
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オリビアは驚き、思い切り目を見開いた。領内で殺人など自分が生まれてから一度も聞いたことはない。大きく息を吐くエリオット。残念そうに肩を落とすセオ。さらに彼らの視線がジョージに向いていることが気になる。
「ちなみに、亡くなった方の身元はわかっているの?」
恐る恐る聞いてみた。エリオットとセオが目配せをしている。どうやらこの中に被害者と関わり合いのある人間がいるのだろうとオリビアは察した。そしてそれが誰なのかも。
「もしかして、娼館の誰かっすか?」
ジョージが息を吐き、鋭い視線でエリオットとセオを見つめた。彼らはバツの悪そうな顔で軽く頷く。セオが口を開いた。
「はい。その通りです。被害者はジョージさんがオリーブさんに任せている店の、カタリーナという少女だそうです」
「なんだって! 本当か?」
ジョージが声を荒げ、セオの両肩を掴んだ。セオは苦痛に顔を歪めながらも頷き返事をした。
「オリーブさんが確認していますので、間違いないかと」
オリビアは両手で口を覆い「そんな」と呟いて息を吸った。ジョージの娼館のカタリーナ。もうすぐ誕生日だと話していた今朝、すでに彼女は亡くなっていたのだ。彼女のプレゼントを持っていたジョージを思い浮かべ、居たたまれなくなり、歯を食いしばり拳を握る彼の手に自分の手を添える。
「なんでこんなことに……。あの子は仕事も真面目にやってて、客にも同僚にも愛されてた。俺にとっても妹みたいで……」
ジョージが自分の手を取り両手で抱きしめ、悔しそうに搾り出した言葉を、オリビアは「そうね」と相槌を打ちながら全て受け止めた。彼の背中に手を回し、その手でポンポンと呼吸をと問えるように優しく叩く。
「カタリーナは、素敵な女の子だったのね」
「もうすぐ、誕生日だったのに。なんでこんなことに……」
涙を必死に堪えるような苦々しい声。こんなに感情をむき出しにするジョージを見ることはめったにない。普段はひょうひょうとしているが、実は情に厚いジョージ。彼がこうなることをわかっていたから、兄は話すのをためらっていたのだろう。
「ねえジョージ、カタリーナに会いに行きましょう。プレゼントを、棺に入れてあげなくちゃ」
オリビアはジョージから体を離し、両手を握った。彼を見上げ、ぎこちないかもしれないが精一杯の笑顔を向ける。ジョージもそれに応えるように首を縦に振ると、鼻を啜すすって微笑した。
「そうっすね。せっかくのプレゼントだ。ちゃんと届けないと」
「ええ、行きましょう」
「おいジョージ、私も行くぞ。だからオリビア様の護衛は任せて、ちゃんとカタリーナに別れの挨拶をしてこい」
目元を真っ赤にしながら、リタもジョージに笑顔を向けていた。
「ゴリラ女がいるなら安心だな。あざっす」
「許すのは、今日だけだぞ」
少し元気がない声だが、ジョージがいつもの軽口を叩く。オリビアはふたりと目を合わせ「よし、行こう」と頷いた。
「だったら俺の馬車を使うといい。気をつけて行くんだぞ!」
「「はい!」」
エリオットがにっこりと微笑んだ。その目元も赤い。心優しい彼は、きっと妹と同じ年頃の少女が亡くなったと聞いて、胸を痛めたのだろう。
オリビアは兄の馬車に乗り、リタ、ジョージとともに市街地を目指した。
>>続く
「ちなみに、亡くなった方の身元はわかっているの?」
恐る恐る聞いてみた。エリオットとセオが目配せをしている。どうやらこの中に被害者と関わり合いのある人間がいるのだろうとオリビアは察した。そしてそれが誰なのかも。
「もしかして、娼館の誰かっすか?」
ジョージが息を吐き、鋭い視線でエリオットとセオを見つめた。彼らはバツの悪そうな顔で軽く頷く。セオが口を開いた。
「はい。その通りです。被害者はジョージさんがオリーブさんに任せている店の、カタリーナという少女だそうです」
「なんだって! 本当か?」
ジョージが声を荒げ、セオの両肩を掴んだ。セオは苦痛に顔を歪めながらも頷き返事をした。
「オリーブさんが確認していますので、間違いないかと」
オリビアは両手で口を覆い「そんな」と呟いて息を吸った。ジョージの娼館のカタリーナ。もうすぐ誕生日だと話していた今朝、すでに彼女は亡くなっていたのだ。彼女のプレゼントを持っていたジョージを思い浮かべ、居たたまれなくなり、歯を食いしばり拳を握る彼の手に自分の手を添える。
「なんでこんなことに……。あの子は仕事も真面目にやってて、客にも同僚にも愛されてた。俺にとっても妹みたいで……」
ジョージが自分の手を取り両手で抱きしめ、悔しそうに搾り出した言葉を、オリビアは「そうね」と相槌を打ちながら全て受け止めた。彼の背中に手を回し、その手でポンポンと呼吸をと問えるように優しく叩く。
「カタリーナは、素敵な女の子だったのね」
「もうすぐ、誕生日だったのに。なんでこんなことに……」
涙を必死に堪えるような苦々しい声。こんなに感情をむき出しにするジョージを見ることはめったにない。普段はひょうひょうとしているが、実は情に厚いジョージ。彼がこうなることをわかっていたから、兄は話すのをためらっていたのだろう。
「ねえジョージ、カタリーナに会いに行きましょう。プレゼントを、棺に入れてあげなくちゃ」
オリビアはジョージから体を離し、両手を握った。彼を見上げ、ぎこちないかもしれないが精一杯の笑顔を向ける。ジョージもそれに応えるように首を縦に振ると、鼻を啜すすって微笑した。
「そうっすね。せっかくのプレゼントだ。ちゃんと届けないと」
「ええ、行きましょう」
「おいジョージ、私も行くぞ。だからオリビア様の護衛は任せて、ちゃんとカタリーナに別れの挨拶をしてこい」
目元を真っ赤にしながら、リタもジョージに笑顔を向けていた。
「ゴリラ女がいるなら安心だな。あざっす」
「許すのは、今日だけだぞ」
少し元気がない声だが、ジョージがいつもの軽口を叩く。オリビアはふたりと目を合わせ「よし、行こう」と頷いた。
「だったら俺の馬車を使うといい。気をつけて行くんだぞ!」
「「はい!」」
エリオットがにっこりと微笑んだ。その目元も赤い。心優しい彼は、きっと妹と同じ年頃の少女が亡くなったと聞いて、胸を痛めたのだろう。
オリビアは兄の馬車に乗り、リタ、ジョージとともに市街地を目指した。
>>続く
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