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第六章 事件発生
152、願う者たち3
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ジョージの声が低く冷静で、余計に不安を掻き立てた。それでもオリビアは居ても立っても居られず、彼の言うことを聞くことができない。
「嫌よ。私も行く」
「ダメです、アレキサンドライト卿と待っていてください」
「自分の身は自分で守れるわ。だから私も……」
「ダメだって言ってんだろ!!」
室内に響く怒鳴り声。オリビアは肩をびくりと跳ねさせ、俯き、自分に向けられたそれに反応した。声の主は一度深呼吸をして今度は冷静に言葉を発した。
「……すみません、大声出して」
「…………」
「必ずリタを連れて帰ってきます。アレキサンドライト公、あとはよろしくお願いいたします」
「ああ。ジョージ、気をつけて」
俯いたままのオリビアを残し、ジョージが部屋を出ていく。
「ジョージ!」
顔を上げ、護衛の名を呼んだ。彼は歩みを止めるが振り向かない。オリビアはその背中を激励した。
「必ず、リタと帰ってきてね」
「はい、約束します」
「できなかったら減給よ!」
「そりゃ大変だ。いってきます」
オリビアはそう言って出ていくジョージを見送った。目にはいっぱい涙を溜めている。
「クリスタルさん、私も寮の管理人や教師たちに連絡して管理人室で待つよ」
「シルベスタ先生、ありがとうございます」
「早く見つかるといいね。アレキサンドライト君、あとは頼むよ」
「はい。ありがとうございます!」
シルベスタも去り、リアムが部屋のドアを閉めた。彼はこちらを向いて目を丸くして驚いているような表情を浮かべた。次に、眉と目尻を下げオリビアの元へ駆け寄ってきた。全体的にその様子はぼんやりと歪んで見える。
「オリビア嬢っ……き、きっとリタは大丈夫だ。だから泣かないで……」
「え、私……泣いて?」
オリビアは目元に手を伸ばすと、まつ毛が濡れていた。次に頬も一部濡れていることに気づく。溜まっていた涙は、すでにボロボロと流れ、今も止まっていない。
そして、近づいてきたリアムに今度は自分の体がすっぽりと包まれる。
「こんなこと、初めてなんだね」
「はい、リタは私を心配させるようなことはしないんです」
「うん、だったら不安も無理はない」
「ええ、探してくれているみなさんを信じています。けれど……」
「大丈夫、きっと無事に帰ってくるよ。みんなを、ジョージを、リタを信じて待とう」
話している間、オリビアはリアムの体温や優しく背中を撫でる一定のリズムに少しずつ落ち着きを取り戻してきた。涙が引いたタイミングでリアムがオリビアを抱き抱え、ソファにおろす。そして隣に腰掛け、片方の手で肩を抱き、もう片方の手でオリビアの手を握った。
「リアム様」
「なんだい?」
「ありがとうございます。少し落ち着きました」
「よかった。お茶でも淹れようか、待ってて」
「いいえ!」
オリビアは立ちあがろうとしたリアムの手をぎゅっと握った。さらに彼の胸板に自分の頭を擦り寄せる。
「オリビア嬢?」
「もう少し、このままでいていただけないでしょうか?」
大胆なことを言ったかと思いつつ、オリビアはリアムの手を離さなかった。彼も体の力を抜き、ソファに身を預け、肩に置いていた手で髪の毛を撫でる。
「わかった。もう少しこのままでいよう」
「はい……」
優しく髪を撫でるリアムの大きな手と、微かに聞こえる胸の鼓動を心地よく感じながら、オリビアはリタとジョージが無事戻ってくることを強く願った。
>>次話へ続く
「嫌よ。私も行く」
「ダメです、アレキサンドライト卿と待っていてください」
「自分の身は自分で守れるわ。だから私も……」
「ダメだって言ってんだろ!!」
室内に響く怒鳴り声。オリビアは肩をびくりと跳ねさせ、俯き、自分に向けられたそれに反応した。声の主は一度深呼吸をして今度は冷静に言葉を発した。
「……すみません、大声出して」
「…………」
「必ずリタを連れて帰ってきます。アレキサンドライト公、あとはよろしくお願いいたします」
「ああ。ジョージ、気をつけて」
俯いたままのオリビアを残し、ジョージが部屋を出ていく。
「ジョージ!」
顔を上げ、護衛の名を呼んだ。彼は歩みを止めるが振り向かない。オリビアはその背中を激励した。
「必ず、リタと帰ってきてね」
「はい、約束します」
「できなかったら減給よ!」
「そりゃ大変だ。いってきます」
オリビアはそう言って出ていくジョージを見送った。目にはいっぱい涙を溜めている。
「クリスタルさん、私も寮の管理人や教師たちに連絡して管理人室で待つよ」
「シルベスタ先生、ありがとうございます」
「早く見つかるといいね。アレキサンドライト君、あとは頼むよ」
「はい。ありがとうございます!」
シルベスタも去り、リアムが部屋のドアを閉めた。彼はこちらを向いて目を丸くして驚いているような表情を浮かべた。次に、眉と目尻を下げオリビアの元へ駆け寄ってきた。全体的にその様子はぼんやりと歪んで見える。
「オリビア嬢っ……き、きっとリタは大丈夫だ。だから泣かないで……」
「え、私……泣いて?」
オリビアは目元に手を伸ばすと、まつ毛が濡れていた。次に頬も一部濡れていることに気づく。溜まっていた涙は、すでにボロボロと流れ、今も止まっていない。
そして、近づいてきたリアムに今度は自分の体がすっぽりと包まれる。
「こんなこと、初めてなんだね」
「はい、リタは私を心配させるようなことはしないんです」
「うん、だったら不安も無理はない」
「ええ、探してくれているみなさんを信じています。けれど……」
「大丈夫、きっと無事に帰ってくるよ。みんなを、ジョージを、リタを信じて待とう」
話している間、オリビアはリアムの体温や優しく背中を撫でる一定のリズムに少しずつ落ち着きを取り戻してきた。涙が引いたタイミングでリアムがオリビアを抱き抱え、ソファにおろす。そして隣に腰掛け、片方の手で肩を抱き、もう片方の手でオリビアの手を握った。
「リアム様」
「なんだい?」
「ありがとうございます。少し落ち着きました」
「よかった。お茶でも淹れようか、待ってて」
「いいえ!」
オリビアは立ちあがろうとしたリアムの手をぎゅっと握った。さらに彼の胸板に自分の頭を擦り寄せる。
「オリビア嬢?」
「もう少し、このままでいていただけないでしょうか?」
大胆なことを言ったかと思いつつ、オリビアはリアムの手を離さなかった。彼も体の力を抜き、ソファに身を預け、肩に置いていた手で髪の毛を撫でる。
「わかった。もう少しこのままでいよう」
「はい……」
優しく髪を撫でるリアムの大きな手と、微かに聞こえる胸の鼓動を心地よく感じながら、オリビアはリタとジョージが無事戻ってくることを強く願った。
>>次話へ続く
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