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第五章 交差する陰謀

137、僕は剣術が得意じゃない1

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 週末の夜、王宮の一室。第三王子でオリビアのクラスメイトでもあるレオンが部下ふたりを呼び寄せていた。

「さて、今週オリビア嬢の侍女とヘマタイト君の様子はどうだった? まずはオリバーから」

「はっ。侍女のリタはいつも通り仕事をしておりました。特に目立った行動も、魔法を使う気配もありませんでした。週末はオリビア・クリスタルと朝から馬車でクリスタル領に向かいました」

 レオンはふたりに聞こえるようにため息をついた。いい報告ができなかったオリバーは顔を伏せて肩を小さく丸めている。

「特に進捗はないってことだね。次はハリー、君はどうだ?」

「はっ……」

 ハリーに紫色の瞳を向けると、彼は一瞬体を硬直させたが、すぐに口を開いた。どうやら報告できるようなことがあったらしい。
 レオンは葡萄酒を飲みながら目を閉じてじっくりと話を聞いた。

「ジョージ・ヘマタイトは木曜日と土曜日に同じ宿屋を訪問しています。その宿というのが、その……密会などで有名でして……あとはその……」

「はいはい。買春宿ね」

「左様でございます」

「いいよ、続けて」

 レオンは顔を赤らめもじもじとしているハリーに話を促した。彼も自分の護衛として勤めているがパール侯爵家の三男で貴族の箱入り息子だ。
 それにしても成人した男がこんなことで動揺している姿は若干不気味だと思いながら、話の続きを待った。

「ヘマタイトは土曜日にめかしこんで女とその宿から出て来ました。それから、ラピスラズリ家が経営しているブティックでドレスなどを購入しています。女へのプレゼントのようです」

「ふうん。ヘマタイト君が女性にプレゼントねえ……。微妙にピンとこないなあ」

「はあ。その後は女性と宿に戻り、荷造りした女とすぐに馬車に乗って王都を出ました。行き先はクリスタル領です」

「ん? ヘマタイト君もクリスタル領に?」

 両眉を吊り上げ、レオンは部下たちに問いかけた。あの辺境の、移動に半日近くかかるクリスタル領にわざわざ集まった理由は?

「はい、昨日の夜に到着し、先ほど三人で学院に戻っています」

「へえ、そう。ハリー、悪いがクリスタル領に行ってくれ。ヘマタイト君と会っていた女性を探すんだ。王都に戻らなかったということは、彼女はクリスタル領の人間に違いない。ヘマタイト君との関係も調べて」

「はっ。かしこまりました」

「オリバーは引き続き侍女の調査と、ハリーがいない間は学院で僕の護衛を」

「かしこまりました!」

「それじゃあもう休んで。また明日」

 レオンはオリバーとハリーを下がらせて、ひとり葡萄酒を片手に考え込んでいた。グラスに映る自分の顔と目を合わせる。

「彼らは無駄な行動に時間も労力も金も割かない……。きっと何かあるぞ」

>>続く
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