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第五章 交差する陰謀
134、緊急帰省、クリスタル家にて3
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一方、オリビアが出ていった直後のテラスではリタがエリオットとティータイムを続けていた。
「ふう。帰って来たばかりだというのに元気だなあ。リタ、お茶のおかわりはいるか?」
「エリオット様、私がっ」
「いいから座っていなさい。俺だってカップに茶を注ぐくらいはできる」
エリオットがテーブルの上にあったポットを手にとり、リタのカップにお茶を注いだ。それを恐縮しながら小さく頭を下げて口に運ぶ。
「あ、ありがとうございます……」
一口お茶を飲んで向かいに視線を移す。エリオットがその白く細長い指でカップを持ち、お茶を飲んでいるところだった。
緩くウエーブのかかった輝く金髪を後ろで束ね、やや伏せた青い瞳には髪と同じく金色の長いまつ毛がよく似合っている。
彼は自分の主人とは顔立ちが違うが、線が細くやや長身で目鼻立ちははっきりとしており、肌は絹のように滑らかで典型的なジュエリトスの美形だった。
「リタ、どうした? 俺の顔に何かついているか?」
「い、いいえ! 申し訳ございません、何でもないです」
「そうか」
リタは首を傾げるエリオットにぺこぺこと小刻みに頭を下げた。見惚れていたなんて言えるわけがない。
リタの人格形成において、オリビアとの出会いは絶大なものだった。そしてその兄であるエリオットも、美形好きという趣味においてはきっかけであり絶対的な基準という意味でやはり絶大な影響を与えていた。
彼はそんなことに気づきもせず、お茶を飲んでいる。
「そういえばリタ、何か悩み事でもあるのか?」
「悩み事……でございますか?」
「ああ。長旅で疲れているのかと思ったが、そうではなくて考え込んでいるようだから気になった。他言はしない。話してみなさい」
カップを置いて柔らかな笑みを浮かべるエリオットを見て、リタは驚いていた。あまり鋭い方ではないと思っていたが、主人にも問われなかったここ数日のリタの悩みを、彼はいとも簡単に見抜いたのだ。
「その、たいした話ではないのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんだ。今夜食べたいものの相談でもいいぞ」
「ふふっ。エリオット様ったら。実は……」
リタは先日エルと一緒にいるときにあったことをエリオットに説明した。彼は終始優しく話を聞き、時折うんうんと頷いていた。
「というわけで、私はなんとか彼が人目を気にせず自由に外を歩けるようになる方法はないか、せめてそんな場所はないかと考えておりまして……」
「なるほど、リタはその青年エルのことを大切に思っているのだな」
「いや、あの、彼にはお世話になっておりますので何か力になれないかと」
「ほう。俺の知っているリタは、多少世話になったからといって他人のことでそこまで悩まないはずだったがなあ」
「エリオット様……」
リタは恥ずかしくなり、真っ赤になった顔を伏せた。頬と耳が熱い。向かいからエリオットがふっと息を漏らす声が聞こえた。
「リタ、いい傾向だと思うぞ。あと俺はその彼が髪を上げ、自由に歩ける場所を知っている」
「そ、それは一体」
「よく考えてみなさい。夜までにわからなかったら、オリビアにも聞いてみるといい。きっと喜ぶぞ」
「オリビア様が喜ぶのですか?」
「ああ、きっとな」
リタは思わぬ回答に顔を上げた。エリオットの青い瞳が弧を描いている。午後の日差しが彼を照らし、その金色の髪の毛や白い肌をより美しく輝かせていた。
「それにしても、リタにもそういう相手ができて嬉しいものだな。一度会ってみたい。彼は平民なのか?」
「はい、貴族ではないと聞いております」
「そうか。だがジョージのように後からわかることもあるからな……。そのときはウチの子としてお嫁に行くんだぞ。俺にとってはオリビアもリタも同じかわいい妹だ。何かあったらすぐに頼りなさい」
「エリオット様……。ありがとうございます」
以前の自分なら、きっとここで恐縮してお礼ではなく謝罪をしただろう。
人の厚意を受け入れ感謝できるようになったきっかけをくれたエルを想い、そして血の繋がらない優しい兄に感謝して、そっとエプロンの裾で目元を押さえた。
>>次話へ続く
「ふう。帰って来たばかりだというのに元気だなあ。リタ、お茶のおかわりはいるか?」
「エリオット様、私がっ」
「いいから座っていなさい。俺だってカップに茶を注ぐくらいはできる」
エリオットがテーブルの上にあったポットを手にとり、リタのカップにお茶を注いだ。それを恐縮しながら小さく頭を下げて口に運ぶ。
「あ、ありがとうございます……」
一口お茶を飲んで向かいに視線を移す。エリオットがその白く細長い指でカップを持ち、お茶を飲んでいるところだった。
緩くウエーブのかかった輝く金髪を後ろで束ね、やや伏せた青い瞳には髪と同じく金色の長いまつ毛がよく似合っている。
彼は自分の主人とは顔立ちが違うが、線が細くやや長身で目鼻立ちははっきりとしており、肌は絹のように滑らかで典型的なジュエリトスの美形だった。
「リタ、どうした? 俺の顔に何かついているか?」
「い、いいえ! 申し訳ございません、何でもないです」
「そうか」
リタは首を傾げるエリオットにぺこぺこと小刻みに頭を下げた。見惚れていたなんて言えるわけがない。
リタの人格形成において、オリビアとの出会いは絶大なものだった。そしてその兄であるエリオットも、美形好きという趣味においてはきっかけであり絶対的な基準という意味でやはり絶大な影響を与えていた。
彼はそんなことに気づきもせず、お茶を飲んでいる。
「そういえばリタ、何か悩み事でもあるのか?」
「悩み事……でございますか?」
「ああ。長旅で疲れているのかと思ったが、そうではなくて考え込んでいるようだから気になった。他言はしない。話してみなさい」
カップを置いて柔らかな笑みを浮かべるエリオットを見て、リタは驚いていた。あまり鋭い方ではないと思っていたが、主人にも問われなかったここ数日のリタの悩みを、彼はいとも簡単に見抜いたのだ。
「その、たいした話ではないのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんだ。今夜食べたいものの相談でもいいぞ」
「ふふっ。エリオット様ったら。実は……」
リタは先日エルと一緒にいるときにあったことをエリオットに説明した。彼は終始優しく話を聞き、時折うんうんと頷いていた。
「というわけで、私はなんとか彼が人目を気にせず自由に外を歩けるようになる方法はないか、せめてそんな場所はないかと考えておりまして……」
「なるほど、リタはその青年エルのことを大切に思っているのだな」
「いや、あの、彼にはお世話になっておりますので何か力になれないかと」
「ほう。俺の知っているリタは、多少世話になったからといって他人のことでそこまで悩まないはずだったがなあ」
「エリオット様……」
リタは恥ずかしくなり、真っ赤になった顔を伏せた。頬と耳が熱い。向かいからエリオットがふっと息を漏らす声が聞こえた。
「リタ、いい傾向だと思うぞ。あと俺はその彼が髪を上げ、自由に歩ける場所を知っている」
「そ、それは一体」
「よく考えてみなさい。夜までにわからなかったら、オリビアにも聞いてみるといい。きっと喜ぶぞ」
「オリビア様が喜ぶのですか?」
「ああ、きっとな」
リタは思わぬ回答に顔を上げた。エリオットの青い瞳が弧を描いている。午後の日差しが彼を照らし、その金色の髪の毛や白い肌をより美しく輝かせていた。
「それにしても、リタにもそういう相手ができて嬉しいものだな。一度会ってみたい。彼は平民なのか?」
「はい、貴族ではないと聞いております」
「そうか。だがジョージのように後からわかることもあるからな……。そのときはウチの子としてお嫁に行くんだぞ。俺にとってはオリビアもリタも同じかわいい妹だ。何かあったらすぐに頼りなさい」
「エリオット様……。ありがとうございます」
以前の自分なら、きっとここで恐縮してお礼ではなく謝罪をしただろう。
人の厚意を受け入れ感謝できるようになったきっかけをくれたエルを想い、そして血の繋がらない優しい兄に感謝して、そっとエプロンの裾で目元を押さえた。
>>次話へ続く
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