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第五章 交差する陰謀
129、ジョージの週末1
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オリビアとリアムのデートの翌日。
気持ちのいい晴れ模様から打って変わって、朝からしとしとと雨が降り続いていた。
オリビアは昨日のデートに酔いしれているので天気など全く気になっていない。
「おはようございます。オリビア様」
「おはよう、リタ。いい朝ね」
朝の支度に現れた侍女のリタも笑顔で「そうですね」と答えたことから、彼女もまた機嫌がいいのだと察した。
たしかにリタさんは昨日とても楽しそうだったな、とエルとの仲良しクッキングの風景を思い出しながらオリビアはふふっと笑う。そのまま昨日目の前に座って甘い時間を過ごしたリアムを思い出す。そして再び笑う、の繰り返しだった。
「オリビア様、いってらっしゃいませ」
「じゃあね、リタ。いってきます!」
リタに見送られ、オリビアは迎えにきた護衛とともに女子寮を出る。
「おはよう、ジョージ」
「はよっす。朝から雨でいや~な感じっすね」
ふたりがすっぽりとおさまる大きな傘を差し、ジョージがやや上方をみて顔をしかめた。
「そお? たまにはこんな日があってもいいじゃない」
「……わっかりやす」
「なあに?」
「いいえ、何も言ってませんよ」
「そう、早く行きましょう」
「へいへい」
オリビアは弾むような足取りで校舎に向かった。
授業が始まってからもオリビアは終始機嫌がよかった。得意の算術の授業や経営学の授業などをこなし、休み時間のたびに前日のデートを思い出してニヤつくのを繰り返した。
週末リアムが仕事で他領に行くとのことだったので、その間に次のデートに着ていく服でも見繕いに行こうかなどと考えて楽しい一日を過ごす。
「お嬢様、今日中に話しておきたいことがあります」
しかし、このジョージの発言と彼の真剣な眼差しで、これから状況が一変するのだと予感する。オリビアは緩み切った顔を引き締めて返事をした。
「わかったわ。今夜、部屋にきてちょうだい」
「了解っす」
そして夜、ジョージが闇に紛れていつも通り窓からオリビアの部屋にやってきた。
雨は一日中やむことはなく、リタがジョージにタオルを渡し、かわりに濡れたジャケットを受け取ると壁際にかけて乾かしていた。
さらに彼女は温かいハーブティーを淹れ、主人と同僚に振る舞った。
「ありがとう、リタ。あなたも座ってちょうだい」
「はい。失礼いたします」
リタが向かいのジョージが座るソファに腰掛けた。オリビアは日中から彼の表情が堅いことに気づいていた。きっと深刻な話なのだろう。早く楽になってもらおうと、話を促した。
「ジョージ、話というのは?」
「はい。実は昨日オリーブ姐さんと会ってたんです。そこで……」
話の内容は、衝撃的なものだった。ペリドットとマルズワルトの繋がり、新たに出てきたラピスラズリ侯爵の名前……。
「貴族の中で数十年かけて力を蓄えてきたラピスラズリ……。彼の目的がどの程度かわからなくて恐ろしいわ。今後も貴族として君臨し続けたいだけなのか、国内での要職を狙っているのか、自分自身が国を治めたいのか……」
「そ、そんな! 国を治めるというのは?」
「国家反逆っすか……」
「可能性はゼロではないわ」
オリビアの発言に、リタは息を飲みジョージは小さく頷いた。
「とりあえず、俺は明日オリーブ姐さんとラピスラズリ家が経営しているブティックにいってみます」
「わかったわ。私は早急にクリスタル領に戻ってセオに説明するわ。隣の領地だし、何かあったらすぐ連絡し合えるようにしておかないと。お兄様にも簡単に話しておくわ」
「俺は行かなくて大丈夫っすか?」
「ええ、馬車での移動だしリタがいるから大丈夫よ」
「わかりました。気をつけてくださいね」
オリビアはジョージ、リタと顔を見合わせて頷いた。そして、ジョージにこう付け加える。
「あなたも気をつけて。もし何かあったら、リアム様の名前を出すといいわ。この国の人間相手なら通用するはずよ」
「はい。わかりました」
ジャケットが乾いたのを確認し、ジョージがまた窓から男子寮へと戻っていった。その後、寝支度を済ませたリタが侍女控え棟へ戻っていき、オリビアはひとりベッドに入る。
しかし、今夜ばかりは昨日の幸せな時間を塗り替えるほどの情報量の多さと濃さにあてられて、なかなか眠りにつくことができなかった。
>>続く
気持ちのいい晴れ模様から打って変わって、朝からしとしとと雨が降り続いていた。
オリビアは昨日のデートに酔いしれているので天気など全く気になっていない。
「おはようございます。オリビア様」
「おはよう、リタ。いい朝ね」
朝の支度に現れた侍女のリタも笑顔で「そうですね」と答えたことから、彼女もまた機嫌がいいのだと察した。
たしかにリタさんは昨日とても楽しそうだったな、とエルとの仲良しクッキングの風景を思い出しながらオリビアはふふっと笑う。そのまま昨日目の前に座って甘い時間を過ごしたリアムを思い出す。そして再び笑う、の繰り返しだった。
「オリビア様、いってらっしゃいませ」
「じゃあね、リタ。いってきます!」
リタに見送られ、オリビアは迎えにきた護衛とともに女子寮を出る。
「おはよう、ジョージ」
「はよっす。朝から雨でいや~な感じっすね」
ふたりがすっぽりとおさまる大きな傘を差し、ジョージがやや上方をみて顔をしかめた。
「そお? たまにはこんな日があってもいいじゃない」
「……わっかりやす」
「なあに?」
「いいえ、何も言ってませんよ」
「そう、早く行きましょう」
「へいへい」
オリビアは弾むような足取りで校舎に向かった。
授業が始まってからもオリビアは終始機嫌がよかった。得意の算術の授業や経営学の授業などをこなし、休み時間のたびに前日のデートを思い出してニヤつくのを繰り返した。
週末リアムが仕事で他領に行くとのことだったので、その間に次のデートに着ていく服でも見繕いに行こうかなどと考えて楽しい一日を過ごす。
「お嬢様、今日中に話しておきたいことがあります」
しかし、このジョージの発言と彼の真剣な眼差しで、これから状況が一変するのだと予感する。オリビアは緩み切った顔を引き締めて返事をした。
「わかったわ。今夜、部屋にきてちょうだい」
「了解っす」
そして夜、ジョージが闇に紛れていつも通り窓からオリビアの部屋にやってきた。
雨は一日中やむことはなく、リタがジョージにタオルを渡し、かわりに濡れたジャケットを受け取ると壁際にかけて乾かしていた。
さらに彼女は温かいハーブティーを淹れ、主人と同僚に振る舞った。
「ありがとう、リタ。あなたも座ってちょうだい」
「はい。失礼いたします」
リタが向かいのジョージが座るソファに腰掛けた。オリビアは日中から彼の表情が堅いことに気づいていた。きっと深刻な話なのだろう。早く楽になってもらおうと、話を促した。
「ジョージ、話というのは?」
「はい。実は昨日オリーブ姐さんと会ってたんです。そこで……」
話の内容は、衝撃的なものだった。ペリドットとマルズワルトの繋がり、新たに出てきたラピスラズリ侯爵の名前……。
「貴族の中で数十年かけて力を蓄えてきたラピスラズリ……。彼の目的がどの程度かわからなくて恐ろしいわ。今後も貴族として君臨し続けたいだけなのか、国内での要職を狙っているのか、自分自身が国を治めたいのか……」
「そ、そんな! 国を治めるというのは?」
「国家反逆っすか……」
「可能性はゼロではないわ」
オリビアの発言に、リタは息を飲みジョージは小さく頷いた。
「とりあえず、俺は明日オリーブ姐さんとラピスラズリ家が経営しているブティックにいってみます」
「わかったわ。私は早急にクリスタル領に戻ってセオに説明するわ。隣の領地だし、何かあったらすぐ連絡し合えるようにしておかないと。お兄様にも簡単に話しておくわ」
「俺は行かなくて大丈夫っすか?」
「ええ、馬車での移動だしリタがいるから大丈夫よ」
「わかりました。気をつけてくださいね」
オリビアはジョージ、リタと顔を見合わせて頷いた。そして、ジョージにこう付け加える。
「あなたも気をつけて。もし何かあったら、リアム様の名前を出すといいわ。この国の人間相手なら通用するはずよ」
「はい。わかりました」
ジャケットが乾いたのを確認し、ジョージがまた窓から男子寮へと戻っていった。その後、寝支度を済ませたリタが侍女控え棟へ戻っていき、オリビアはひとりベッドに入る。
しかし、今夜ばかりは昨日の幸せな時間を塗り替えるほどの情報量の多さと濃さにあてられて、なかなか眠りにつくことができなかった。
>>続く
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