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第四章 ふたりは恋人! オリビア&リアム

123、リタの休日3−1

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 木曜日の朝。
 オリビアとリアムのデートから少し時間を戻す。

 今日は毎週恒例のリタの休日だった。侍女控え棟にある自室からこっそり主人の登校を見守り、出かける準備をする。

 いつもと違うのは、この時点でまだ寝巻きに身を包んでいることだった。

「うーん……。何を着ていくべきか……」

 リタは唇を一文字に結び、クローゼットに並んでいる洋服を睨みつけた。中にはクリスタル家支給のメイド服が三着と休日に着る私服が三着ある。全て長身のリタに合わせて仕立てられ品質も良い物だが、自分の趣味の問題でほぼ飾り気がない。

 ジュエリトスに住む娘たちは貴族はもちろんのこと、平民でもフリルやレースを使った明るい色の服が人気だった。確かにそれを着ている娘たちは皆、華やかでかわいらしい。 

 しかし、大半のジュエリトス人とは違う褐色の肌や黒い巻き毛、どちらかというと男性のような涼しげな顔立ちの自分には全く似合わない物だ、とリタは昔から思っていた。

「どうしよう……」

 いつもなら、迷わず手を伸ばして一番に触れた私服を着て出かける。気分で選ぶということもない。服を着ることに一切のエネルギーは使わない。

 けれど、今日は違う。

「あ、今日は夜にオリビア様に会うのだった」

 悩みすぎて両眉がくっついてしまいそうなくらいに眉間に皺を寄せていたリタ。ふと今夜の予定を思い出し、左端にあった紺色のメイド服を手に取り着替えた。

「よし! 行こう」

 リタは鏡の前で深呼吸をして頷き、部屋を後にした。


 その後リタは侍女控え棟を出て街にやってきた。広場の銅像の近くにあるベンチに座り、時計を眺める。

「まだ九時半か……」

 まだ時間があることを確認し、持参した本を読んで時間を潰すことにする。さっきまで着る服を選んで悩んでいたのは、ひとりでの外出ではなく待ち合わせをしていたからだった。

「まだ九時三十五分か……」

 リタは顔を見上げ時計を眺める。これを数回繰り返した。開いた本のページは変わっていない。そうこうしているうちに約束の時間の五分前になって、遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「リタ様~!!」

 顔を上げると、待ち合わせに相手がこちらに向かって手を振りながら走ってくる。リタは少し抜けている彼が転んだりしないか心配になった。急いで本をしまい、彼に駆け寄る。

「エルっ!」

「り、リタ様……。お待たせしてすみませんっ」

「まだ約束の時間前です、私が早すぎただけですから」

 息を乱しながら謝るエルに、リタは軽く首を横に振って返事をした。そして彼の息が整うのを数分待つ。一体どこから走ってきたのだろう?

「す、すみませんでした……。もう大丈夫です、行きましょう!」

「本当に?」

「はい! さあ、まずは買い出しです! 行きましょう!」

 リタが心配してエルの顔を覗くと、彼は両手で拳を握り力強く頷き、歩き出した。リタも並んで市場の方へ歩いていった。


 広場から繁華街とは反対方向へ歩いていくと、ガヤガヤと密集した人の話し声が聞こえてきた。通路には店が並び、客たちが商品を手に取ったり指差して買い物をしている。

「ここが市場……」

「活気があるでしょう?」

 リタが圧倒されてポツリと呟くと、エルがその顔を覗き込んでにっこりと笑った。クリスタル領にも市場はあるが、やはり王都は人口が多く活気が違う。

「はい、なんだか圧倒されますね」

「さあ、僕たちもこの中に混ざります! リタ様、行きますよっ」

「は、はい!」

 エルが市場の人の波に向けて歩きだしたので、はぐれないようについていこうと一歩踏み出す。すると、市場に入る直前にリタの右手はぎゅっと何かにつかまれた。手元を見ると、真っ白な手が自分の手を握っている。

「リタ様! はぐれないようにしっかり握っててくださいね!」

「は、はひっ!」

(どどどど、どうしよう、何これ!!)

 自分より少し体温の低いエルの手に引かれる。リタは状況に混乱しながら、気を抜くと遠ざかりそうな意識を必死に繋ぎ止めながら彼の半歩後ろを歩いていた。なにか話しているエルの声もあまり耳に入らない。

 全神経が、右手に集中してしまう。

「鶏肉を買いたいんです~。あとは……リタ様?」

「鶏肉ですか! し、仕留めてきましょうか?」

「リタ様、鶏肉なら仕留めなくてもそこの店で手に入りますよ」

 緊張のあまり突拍子もないことを口走ってしまったが、エルはふふっと笑って肉屋を指差した。救われたのか、それとも無かったことにされたのかはわからないし確認はできない。

 リタはエルと肉や野菜、果物などを買い込んで市場を後にした。

>>続く
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