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第四章 ふたりは恋人! オリビア&リアム

110、恋人はマッチョ騎士(前編)1

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「おはよう、ジョージ。いいお天気ね」

「おはようございます、お嬢様。ていうかまた髪変ですよ? 今日くらいリタの奴に頼んどけばいいのに」

 木曜日の朝、侍女のリタが休日のためオリビアはひとりで身支度を済ませ、女子寮の前で待つジョージの元へ駆け寄った。髪の毛だけはうまくまとめることができずに出てきたので、それを見たジョージにたしなめられる。

「せっかくの休みに悪いじゃない。それに髪ならジョージに結ってもらえばいいし」

「護衛の仕事じゃないっすけど」

「いいじゃない、私のヘアスタイルを守るのも護衛の仕事よ」

「あんたねえ……」

「んんっ!!」

 得意げに軽口を叩いたところで、両頬にぎゅっと圧力を感じ呻き声を上げるオリビア。
 ジョージが大きな手で頬を潰していたのだ。十二分に手加減されているだろうが、それでもなかなかの握力だ。
 オリビアは昔、ジョージがならず者の頭を片手で掴んで持ち上げていたのを思い出した。少しの寒気がしたところで頬からジョージの手が離れた。すかさず文句を言う。

「ジョージ! 何するのよ、痛いじゃない!」

「減らず口なんか叩かないで、素直に可愛く「お願い♡」って言えばいいんですよ。ハートマークは忘れちゃダメですよ」

「何それ、なんか嫌だわ」

「そんなこと言わずに。放課後のデートにそんな頭で行くんですか? ほら」

「うっ……仕方ないわね」

 そう、今日の放課後はリアムとデートの日なのだ。半休で仕事が終わる彼と先日の婚約保留の進捗報告と夕食を兼ねた、まさしくデートだ。
 こんな髪で待ち合わせに行けばだらしないと嫌われるかもしれない。不本意ながらもオリビアはジョージを見上げ笑みを浮かべる。

「ジョージ、お願い」

「ハートマーク」

「お願い♡」

 ジョージのダメ出しに、オリビアは笑顔と同時に軽く首を傾げてみた。すると彼はニヤニヤと口元を緩ませ、下品な笑みを浮かべた。

「やればできるじゃないですか。きっとあのムッツリ騎士様も喜びますよ。あ~おもしろかった」

「ちょっと、ムッツリ騎士様って……まさかリアム様のこと?」

「それ以外に誰がいるんすか? だってプロポーズして抱っこしてくるくるしてキスのひとつもしないんでしょ? きっと想像まではしてたんじゃないですかね~」

「失礼よ! もう、そんなあなたの爛れた恋愛感覚と一緒にしないで!」

「へいへい」

 オリビアはジョージの脇腹をポカポカと数発叩き、逃げる彼を追いかけるかたちで教室に入った。授業が始まる前にクラスメイトの女子(ジョージの取り巻き)たちに見守られながら髪を結い直してもらう。

(そういえば、レオン殿下は公務でいないのよね……。からかわれなくてよかった。安息日最高!)

 ふと隣の席に視線を移すとそこは空席だった。レオンはほぼ週に一回のペースで公務による不在日がある。その日はオリビアも心を乱されることなく平和に過ごせるので、心の中で安息日と呼んでいた。
 こうしてオリビアは憧れの教師シルベスタの授業やクラスメイトたちとの昼食など楽しく一日を過ごした。

>>続く
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