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第四章 ふたりは恋人! オリビア&リアム
107、レオンの策略(後編)1
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数分後、父である国王陛下の書斎の前についたレオンは、ドアの前で息を整えノックする準備をしていた。
先ほど夕食後は書斎にいると言っていたので在室しているのは間違い無い。
すると、内側からドアが開き、中から兄で第一王子のアイザックが出てきた。
「レオンか。父上に用か?」
「はい……」
「私の用事は済んだ。入りなさい」
「ありがとうございます。失礼します」
アイザックが笑顔でドアを全開してくれたので、レオンは一礼して室内に進んだ。
そこには机に向かう父、ジョンソン・ダイヤモンド=ジュエリトスの姿があった。
彼は書類に目を通そうとしていたが、愛息子の姿を見て快晴のような水色の瞳を細めた。
「レオンか。どうした? サイラスが遊びにきているのだろう?」
「サイラスは急用ができたと言って帰りました。陛下……いいえ、お父様。お話ししたいことがあるのです」
「そうかそうか、ではそこに座りなさい」
「はい、失礼します」
レオンは言われるまま近くのソファに腰掛けた。父からの優しい視線を感じる。
六人いる子供のうち、彼がとりわけ自分を可愛がってくれているのはわかっていた。
今日はそれを最大限に利用させてもらおうと、レオンは軽く息を吸って話を始めた。
「お話というのは……オリビア・クリスタルとリアム・アレキサンドライトのことです。婚約についての書簡はもう届いていますでしょう?」
「おお、そうか。確かに昨日アレキサンドライト公爵から直接受け取っておる。このオリビアという娘は、お前のクラスメイトだろう? 入学式後のパーティーでダンスをしていたと聞いたが、仲が良いのか?」
「はい。彼女は自身で領地に複数の店を経営し、辺境の地を観光地として盛り上げている聡明な女性です。現在は校内でのクラブ活動も一緒にしています」
「そうか……。けれど、彼女は他の男と婚約すると?」
父は自分の相手の候補として、オリビアを認識していたようだ。この話の意図にも気づいている。話が早くすみそうだと、レオンは言葉を続けた。
「はい……。彼女は、学院に入学する直前に父親経由でアレキサンドライト家との縁談を持ちかけられ承諾したようです。クリスタルは伯爵家、アレキサンドライトは公爵家ですから……」
「なるほど、よっぽどの理由がない限りは断れない、か。相手のリアムも誠実で優秀な男だしなあ……」
「お父様……無理を承知ですが、僕にもチャンスをいただけないでしょうか? 僕は、できれば彼女を妻に迎えたい。伯爵家の娘なら立場としても問題ないでしょう?」
「それはそうだが……。しかし、双方合意の婚約を却下して捻じ曲げるなどこの国の秩序を崩壊させるような行為だ。国王が率先してそんなことできないだろう。お前の望みは叶えてやりたいがこればっかりはなあ……」
確かにそうだ。国王が国のルールを破っては国民の反感を買い、小さな綻びから国が崩壊することはあり得る。しかし、レオンもここで引くつもりはなかった。
「でしたら、却下ではなかったら?」
「どういうことだ?」
「却下ではなく、保留していただけませんか? その期間に僕はオリビア嬢に振り向いてもらう努力をします。それでダメなら潔く諦めます」
「保留か……。しかし……」
レオンは可愛い息子の懇願に、父が若干揺らいでいるのを感じとった。あと一息だ。一度ぎゅっと目を閉じ、瞳を潤ませて父を見つめる。
「お願いします! 出会うのが遅かっただけで諦めるなんて、どうしても納得できないんです。僕ができるだけのことをして、それでも彼女の気持ちがはっきりとリアム・アレキサンドライトに向いているとわかればちゃんと諦めますから……」
「うーん……」
「お願いします、お父様」
「…………」
額に手を当て眉を寄せ悩む姿は、国王陛下ではなくひとりの父親のものだった。保留という道筋も提案した。あとは彼が決断してくれるのを待つしかない。
「……二ヶ月だ。王宮の夜会の一ヶ月前。それまでに彼女の気持ちがお前に向かなければ、オリビア・クリスタルとリアム・アレキサンドライトの婚約を認める」
「お、お父様……」
「短い期間だががんばりなさい。だが、彼女に無理強いをしないように。わかったか?」
「はいっ! ありがとうございます、お父様!」
レオンはにっこりと目を細め満面の笑みを浮かべ、嬉々として席を立ち、父に抱きついた。これで下準備は完了だ。あとは書簡の返事を知ったオリビアと話をつければいいだけだ。
「二ヶ月か……。まずは彼女の警戒心を解かないとなあ」
>>続く
先ほど夕食後は書斎にいると言っていたので在室しているのは間違い無い。
すると、内側からドアが開き、中から兄で第一王子のアイザックが出てきた。
「レオンか。父上に用か?」
「はい……」
「私の用事は済んだ。入りなさい」
「ありがとうございます。失礼します」
アイザックが笑顔でドアを全開してくれたので、レオンは一礼して室内に進んだ。
そこには机に向かう父、ジョンソン・ダイヤモンド=ジュエリトスの姿があった。
彼は書類に目を通そうとしていたが、愛息子の姿を見て快晴のような水色の瞳を細めた。
「レオンか。どうした? サイラスが遊びにきているのだろう?」
「サイラスは急用ができたと言って帰りました。陛下……いいえ、お父様。お話ししたいことがあるのです」
「そうかそうか、ではそこに座りなさい」
「はい、失礼します」
レオンは言われるまま近くのソファに腰掛けた。父からの優しい視線を感じる。
六人いる子供のうち、彼がとりわけ自分を可愛がってくれているのはわかっていた。
今日はそれを最大限に利用させてもらおうと、レオンは軽く息を吸って話を始めた。
「お話というのは……オリビア・クリスタルとリアム・アレキサンドライトのことです。婚約についての書簡はもう届いていますでしょう?」
「おお、そうか。確かに昨日アレキサンドライト公爵から直接受け取っておる。このオリビアという娘は、お前のクラスメイトだろう? 入学式後のパーティーでダンスをしていたと聞いたが、仲が良いのか?」
「はい。彼女は自身で領地に複数の店を経営し、辺境の地を観光地として盛り上げている聡明な女性です。現在は校内でのクラブ活動も一緒にしています」
「そうか……。けれど、彼女は他の男と婚約すると?」
父は自分の相手の候補として、オリビアを認識していたようだ。この話の意図にも気づいている。話が早くすみそうだと、レオンは言葉を続けた。
「はい……。彼女は、学院に入学する直前に父親経由でアレキサンドライト家との縁談を持ちかけられ承諾したようです。クリスタルは伯爵家、アレキサンドライトは公爵家ですから……」
「なるほど、よっぽどの理由がない限りは断れない、か。相手のリアムも誠実で優秀な男だしなあ……」
「お父様……無理を承知ですが、僕にもチャンスをいただけないでしょうか? 僕は、できれば彼女を妻に迎えたい。伯爵家の娘なら立場としても問題ないでしょう?」
「それはそうだが……。しかし、双方合意の婚約を却下して捻じ曲げるなどこの国の秩序を崩壊させるような行為だ。国王が率先してそんなことできないだろう。お前の望みは叶えてやりたいがこればっかりはなあ……」
確かにそうだ。国王が国のルールを破っては国民の反感を買い、小さな綻びから国が崩壊することはあり得る。しかし、レオンもここで引くつもりはなかった。
「でしたら、却下ではなかったら?」
「どういうことだ?」
「却下ではなく、保留していただけませんか? その期間に僕はオリビア嬢に振り向いてもらう努力をします。それでダメなら潔く諦めます」
「保留か……。しかし……」
レオンは可愛い息子の懇願に、父が若干揺らいでいるのを感じとった。あと一息だ。一度ぎゅっと目を閉じ、瞳を潤ませて父を見つめる。
「お願いします! 出会うのが遅かっただけで諦めるなんて、どうしても納得できないんです。僕ができるだけのことをして、それでも彼女の気持ちがはっきりとリアム・アレキサンドライトに向いているとわかればちゃんと諦めますから……」
「うーん……」
「お願いします、お父様」
「…………」
額に手を当て眉を寄せ悩む姿は、国王陛下ではなくひとりの父親のものだった。保留という道筋も提案した。あとは彼が決断してくれるのを待つしかない。
「……二ヶ月だ。王宮の夜会の一ヶ月前。それまでに彼女の気持ちがお前に向かなければ、オリビア・クリスタルとリアム・アレキサンドライトの婚約を認める」
「お、お父様……」
「短い期間だががんばりなさい。だが、彼女に無理強いをしないように。わかったか?」
「はいっ! ありがとうございます、お父様!」
レオンはにっこりと目を細め満面の笑みを浮かべ、嬉々として席を立ち、父に抱きついた。これで下準備は完了だ。あとは書簡の返事を知ったオリビアと話をつければいいだけだ。
「二ヶ月か……。まずは彼女の警戒心を解かないとなあ」
>>続く
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