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第四章 ふたりは恋人! オリビア&リアム
102、オリビア、怒りの咆哮(後編)2
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しまった。これは自分のせいだとオリビアは思った。
きっと自分のことを調べているレオンにとって異国を思わせる言葉は興味深かったのだろう。彼の中でなんらかの仮説を肯定する証拠にもなったのかもしれない。
そして、陛下にうまく話して婚約を保留するよう進言したのだろう。
「そうだったのですね……」
「後で聞いて知ったよ、お義姉様はレオンに気に入られてたんだね。一緒にダンスまでしたって……。僕がレオンに話さなければ、こんなことにならなかったんだ。兄様、お義姉様、本当にごめんなさい!」
そう言ってサイラスは顔を伏せ泣きじゃくっていた。隣に座るエリオットがそっと彼にハンカチを差し出している。オリビアも肩を震わせるサイラスに静かに、優しく話しかけた。
「サイラス様のせいではありませんよ。何かの間違いかもしれませんし、お気になさらないでください」
「でも……」
「大丈夫です。私も休み明けにレオン殿下と話してみますわ。だから安心してください」
「お義姉様……」
顔を上げ、すがるような上目遣いで自分を見つめるサイラスに、オリビアはにっこりと微笑んでみせた。
実際にきっかけではあるが、原因を作ったのはサイラスではなく自分自身の不用意な発言だ。せめて周囲に誰もいないかくらい確認すべきだったのだ。
「レオン殿下もきちんと話せばきっとわかってくれますわ」
「うん、レオンは確かにちょっとわがままなところもあるけど、こんなに自分勝手ではないんだ……ゴホッ」
「サイラス様? どうされたのですか?」
突然サイラスが咳込み、オリビアは慌てて身を乗り出した。同時にリアムも立ち上がり、苦しそうに呼吸をする彼に駆け寄っている。
「サイラス! もういい、今日は休みなさい」
「う、うん……。そうするよ。お義姉様、ごめんなさい、失礼します」
「サイラス様、お大事になさってください」
サイラスはリアムが呼んだ使用人に支えられながら部屋を出ていった。オリビアはリアムと共に部屋の前で彼の小さな背中を見送り、ソファに戻った。リアムの淹れた紅茶を飲んで小さく息を吐いた。
「オリビア嬢、すまない。サイラスは昔よりはずいぶん元気になったんだが、無理をすると今のように調子を崩してしまうんだ」
「いいえ……。きっと今回のことで心労がたたったのですね。かえって申し訳ないですわ」
「いや、私もうかつだった。サイラスがレオン殿下と友人なのも、彼がオリビア嬢を気にっているのも知っていたのに慎重に対応できなかった。今日だって、あなたをがっかりさせてしまった……」
「リアム様のせいではありませんわ。お気になさらないでください。それよりなんとか陛下に婚約の許可をもらう方法を考えなくては」
「オリビア、それについては一応みんな動いているんだ」
オリビアがリアムと見つめ合っていると、向かいのソファに座るエリオットがすかさず会話に混ざってきた。彼はお茶を一口飲んで話を続ける。
「まずお父様とアレキサンドライト公爵様は王宮に出向いて陛下に謁見すべく日程を調整中だ。その間に貴族院の仲間たちに今回の件の原因を調べているそうだ。それからお母様と公爵夫人はそれぞれ貴族のご婦人連中相手に調査中だ。俺も領地へ戻ったら自分の店や娼館で何か情報が掴めないか確認してみようと思う」
「あ、エリオット様。娼館に行くならオリーブ姐さんを訪ねてみてください。何か知っているかもしれません」
「そうか、ありがとうジョージ。ではオリーブさんに聞いてみよう」
「皆さん、私たちのために動いてくれているのですね……」
「そうだよ、オリビア嬢。みんなに感謝しよう。保留ということは、きっと陛下もただレオン殿下のわがままを聞いたわけではないはずだ。私も姉やアイザック殿下に話をしてみるよ」
「リアム様……」
リアムや他のみんなが静かに微笑んでいる。自分には味方がたくさんいるのだと、オリビアは元気を取り戻しグッと口角を上げた。すると、リアムの大きな手がそっと自分の手に重なったので、小さく華奢な手で握る。
「たとえ婚約がすぐに認められなくとも、私たちが恋人であることは変わらない。私の想いは変わらないよ。いつか正式に認められと信じて、堂々としていよう」
「はい、リアム様」
手元を向いていた顔を見上げると、そこにはリアムが優しい笑顔を携えオリビアを見つめいていた。自分への想いをほんの少しも隠そうともしない彼のまっすぐさが嬉しい。オリビアもそれに応えるべく目一杯の笑顔を返した。
>>続く
きっと自分のことを調べているレオンにとって異国を思わせる言葉は興味深かったのだろう。彼の中でなんらかの仮説を肯定する証拠にもなったのかもしれない。
そして、陛下にうまく話して婚約を保留するよう進言したのだろう。
「そうだったのですね……」
「後で聞いて知ったよ、お義姉様はレオンに気に入られてたんだね。一緒にダンスまでしたって……。僕がレオンに話さなければ、こんなことにならなかったんだ。兄様、お義姉様、本当にごめんなさい!」
そう言ってサイラスは顔を伏せ泣きじゃくっていた。隣に座るエリオットがそっと彼にハンカチを差し出している。オリビアも肩を震わせるサイラスに静かに、優しく話しかけた。
「サイラス様のせいではありませんよ。何かの間違いかもしれませんし、お気になさらないでください」
「でも……」
「大丈夫です。私も休み明けにレオン殿下と話してみますわ。だから安心してください」
「お義姉様……」
顔を上げ、すがるような上目遣いで自分を見つめるサイラスに、オリビアはにっこりと微笑んでみせた。
実際にきっかけではあるが、原因を作ったのはサイラスではなく自分自身の不用意な発言だ。せめて周囲に誰もいないかくらい確認すべきだったのだ。
「レオン殿下もきちんと話せばきっとわかってくれますわ」
「うん、レオンは確かにちょっとわがままなところもあるけど、こんなに自分勝手ではないんだ……ゴホッ」
「サイラス様? どうされたのですか?」
突然サイラスが咳込み、オリビアは慌てて身を乗り出した。同時にリアムも立ち上がり、苦しそうに呼吸をする彼に駆け寄っている。
「サイラス! もういい、今日は休みなさい」
「う、うん……。そうするよ。お義姉様、ごめんなさい、失礼します」
「サイラス様、お大事になさってください」
サイラスはリアムが呼んだ使用人に支えられながら部屋を出ていった。オリビアはリアムと共に部屋の前で彼の小さな背中を見送り、ソファに戻った。リアムの淹れた紅茶を飲んで小さく息を吐いた。
「オリビア嬢、すまない。サイラスは昔よりはずいぶん元気になったんだが、無理をすると今のように調子を崩してしまうんだ」
「いいえ……。きっと今回のことで心労がたたったのですね。かえって申し訳ないですわ」
「いや、私もうかつだった。サイラスがレオン殿下と友人なのも、彼がオリビア嬢を気にっているのも知っていたのに慎重に対応できなかった。今日だって、あなたをがっかりさせてしまった……」
「リアム様のせいではありませんわ。お気になさらないでください。それよりなんとか陛下に婚約の許可をもらう方法を考えなくては」
「オリビア、それについては一応みんな動いているんだ」
オリビアがリアムと見つめ合っていると、向かいのソファに座るエリオットがすかさず会話に混ざってきた。彼はお茶を一口飲んで話を続ける。
「まずお父様とアレキサンドライト公爵様は王宮に出向いて陛下に謁見すべく日程を調整中だ。その間に貴族院の仲間たちに今回の件の原因を調べているそうだ。それからお母様と公爵夫人はそれぞれ貴族のご婦人連中相手に調査中だ。俺も領地へ戻ったら自分の店や娼館で何か情報が掴めないか確認してみようと思う」
「あ、エリオット様。娼館に行くならオリーブ姐さんを訪ねてみてください。何か知っているかもしれません」
「そうか、ありがとうジョージ。ではオリーブさんに聞いてみよう」
「皆さん、私たちのために動いてくれているのですね……」
「そうだよ、オリビア嬢。みんなに感謝しよう。保留ということは、きっと陛下もただレオン殿下のわがままを聞いたわけではないはずだ。私も姉やアイザック殿下に話をしてみるよ」
「リアム様……」
リアムや他のみんなが静かに微笑んでいる。自分には味方がたくさんいるのだと、オリビアは元気を取り戻しグッと口角を上げた。すると、リアムの大きな手がそっと自分の手に重なったので、小さく華奢な手で握る。
「たとえ婚約がすぐに認められなくとも、私たちが恋人であることは変わらない。私の想いは変わらないよ。いつか正式に認められと信じて、堂々としていよう」
「はい、リアム様」
手元を向いていた顔を見上げると、そこにはリアムが優しい笑顔を携えオリビアを見つめいていた。自分への想いをほんの少しも隠そうともしない彼のまっすぐさが嬉しい。オリビアもそれに応えるべく目一杯の笑顔を返した。
>>続く
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