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第三章 アレキサンドライト領にて

84、アレキサンドライト公爵家の人々5

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「もう、オスカー兄様もエマお義姉様ものろけすぎだよ。今日の主役はリアム兄様とオリビアお義姉様でしょう?」

「そうだった、そうだった。ふたりとも、すまなかった。義弟の婚約者に会うのに緊張するエマがかわいくてつい……」

「オスカー様ったら……」

  見つめ合うオスカーとエマに生暖かい視線を送るオリビア。ちらりと隣を覗くと、リアムが恥ずかしさからか顔を赤らめ兄夫婦から目を背けたので、オリビアと目が合う。彼は顔を赤らめたまま、眉を下げ困り顔でポツリとつぶやいた。

「オリビア嬢、本当にすまない……。こんな家族だが、どうか許して欲しい」

「リアム様、お気になさらないでください。仲が良くて気さくな、素敵なご家族ですわ」

 オリビアが笑顔でそう言うと、リアムは安心したようで肩の力を抜き、息を吐いた。

「ああ、早くあなたを私の家族にしたいよ。愛している……」

「え?」

 突然の告白にオリビアはその声がリアムではなく、反対側の隣から聞こえたことに気付くのが遅れる。
 一呼吸遅れて気づき振り向くと、そこにはサイラスがにんまりといたずらな笑みを浮かべていた。

「サイラス! からかうのはやめなさい!」

「せっかく奥手な兄様のために代弁してあげたのになあ」

「余計なお世話だ!」

 確かにかなり個性の強い家族たちだが、オリビアはこの賑やかさが心地よかった。そして、自分もいつか家族としてこの輪の中に加わることが待ち遠しくなった。

 昼食が終わると、お茶の時間を待たずにアレキサンドライト公爵夫妻は出かけることとなった。リアムと一緒に、オリビアも前庭まで向かい二人を見送る。

「慌ただしくてすまないね、オリビアさん。今度はもっとゆっくりできる時に夕食に招待するよ」

「公爵様、お忙しいところお時間をいただきありがとうございます。ぜひまたお会いしましょう」

「こちらこそわざわざ来てくれてありがとう。リアムをよろしく頼むよ。これから王都へ行くから、陛下に直接婚約についての書簡を渡しておくよ」

「父上、ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

「私も、早くオリビアさんに「お義父様♡」って呼ばれたいからね」

 そう言って、リチャードは馬車に乗り込み手を振った。続いて、妻のアリスがオリビアの手を両手に取り、別れの挨拶をする。

「オリビアさん、私も早くあなたと親子になりたいわ」

「アリス様、ありがとうございます。私もそうなる日を楽しみにしております」

「それに私、以前からあなたのファンなのよ」

「え? 私の……?」

 初対面だったはずのアリスからの言葉に、オリビアは軽く首を傾げた。すると、彼女はそっとオリビアに耳打ちをして話の種明かしをする。

「『ラ・パセス』はあなたが経営しているのでしょう? 私、毎月通っているのよ」

「え! 本当ですか!!」

 ここでまさか自身が経営する執事喫茶の名前が出てくるとはと、オリビアは驚きで目を見開いた。
 その間にアリスが颯爽さっそうと馬車に乗り込んだ。彼女は口角がグッとあがった少しイタズラな笑顔を浮かべている。その表情はゲストルームで見たサイラスによく似ていた。

「ふふふ。もうすぐスタンプカードがたまりそうよ。またお会いしましょう! リアム、オリビアさんに愛想を尽かされないようにね! それじゃあ、さようなら!」

「は、母上!」

 リアムが返事をしきる前に、夫妻の乗った馬車は出発した。
 オリビアは馬車が正門を出て丘を下り、姿が見えなくなるまでリアムと共に見送った。


>>続く
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