上 下
78 / 230
第三章 アレキサンドライト領にて

79、感動の再会4

しおりを挟む
「セオ、大げさよ。私は学院に通うためにしばらく領地を離れないといけなかった。そんな時に実家で商売の経験があるあなたと出会った。そして、うちの領地がたまたま田舎で静養に適していた。お互いのためなのだから、あなたが一方的に恩を感じる必要はないのよ」

 オリビアが謙遜して眉を下げ、困ったように笑う。するとセオが首を大きく横に振った。

「いいえ、オリビア様は歩くことすら諦めなければと絶望していた私に、希望を与えてくださいました。そして家族のことも救おうとしてくださった。家族全員、このご恩に報いたいと思っています」

「ありがとう、セオ。それではあなたは私の事業をしっかり手伝って、ご家族にはおいしいパンを作ってもらうわよ! これでまた街が活気づくわ」

「はい! 私は一生オリビア様にお仕えいたします!」

 心底嬉しそうに、セオが首を縦に振った。その目にはわずかに涙が浮かんでいた。

「セオ、私からも頼むよ。オリビア嬢とクリスタル領のため、力になってほしい」

「はい! お任せください。こうして今の私があるのは、オリビア様と、あの日私を救いクリスタル領まで連れてっいってくれた隊長のおかげです。本当にありがとうございます」

 リアムの申し出に、セオが力強く返事をした。そして、再起のきっかけを与えてくれた彼に深々と頭を下げた。

 あの日、噴水の広場に現れた彼らを見て、リタはこんな日が来るとは全く予想していなかった。一時はどうなることかと思ったが、こうして主人に素晴らしい婚約者と新たな仲間が増えたことに、何か運命のようなものを感じていた。

 リアムが今度は唇を結び、憂いを含んだ表情で返事をした。

「部下を守るのは当然だ。騎士団を辞めることになったときは心配だったが、充実した日々を送っているようで安心した」

「隊長……。騎士団であなたの部下でいられたことは、私の誇りです」

 セオの言葉に偽りがないのもわかっているはずだが、それでも彼の表情は晴れない。
 それを見たリタがリアムの隣に座るオリビアをに視線を移すと、彼女は心配そうに婚約者を見つめていた。

「そう言ってくれると嬉しいよ。あのときは残念ながら守れなかった者も多かった。今でも自分のことを不甲斐ないやつだと思っている」

「リアム様、それは違いますわ。あなたがいたから、被害が最小限で済んだのです。どうかご自分を責めないでください」

 オリビアが静かに首を横に振り、リアムに優しく微笑みかけた。セオも軽く上半身を乗り出し、彼に力強い視線を送る。

「そうです、隊長! 私はあなたにも感謝しています」

「オリビア嬢、セオ……。ありがとう」

   二人の言葉に安らかな笑顔を見せるリアムを見て、オリビアとセオも優しい笑顔で顔を見合わせていた。そんな三人に、リタはこれから先の彼女たちの幸福を願った。

 話が落ち着いてリタがすっかり冷めてしまったお茶を淹れ直そうかと思っていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
 リタは席を立ちドアを開ける。そこには執事頭のアンドレが立っていた。

「みなさま、昼食の準備が整いました」

>>続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね

さこの
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。 私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。 全17話です。 執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ​ ̇ ) ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+* 2021/10/04

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

〘完〙なぜかモブの私がイケメン王子に強引に迫られてます 〜転生したら推しのヒロインが不在でした〜

hanakuro
恋愛
転生してみたら、そこは大好きな漫画の世界だった・・・ OLの梨奈は、事故により突然その生涯閉じる。 しかし次に気付くと、彼女は伯爵令嬢に転生していた。しかも、大好きだった漫画の中のたったのワンシーンに出てくる名もないモブ。 モブならお気楽に推しのヒロインを観察して過ごせると思っていたら、まさかのヒロインがいない!? そして、推し不在に落胆する彼女に王子からまさかの強引なアプローチが・・ 王子!その愛情はヒロインに向けてっ! 私、モブですから! 果たしてヒロインは、どこに行ったのか!? そしてリーナは、王子の強引なアプローチから逃れることはできるのか!? イケメン王子に翻弄される伯爵令嬢の恋模様が始まる。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...