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第三章 アレキサンドライト領にて
79、感動の再会4
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「セオ、大げさよ。私は学院に通うためにしばらく領地を離れないといけなかった。そんな時に実家で商売の経験があるあなたと出会った。そして、うちの領地がたまたま田舎で静養に適していた。お互いのためなのだから、あなたが一方的に恩を感じる必要はないのよ」
オリビアが謙遜して眉を下げ、困ったように笑う。するとセオが首を大きく横に振った。
「いいえ、オリビア様は歩くことすら諦めなければと絶望していた私に、希望を与えてくださいました。そして家族のことも救おうとしてくださった。家族全員、このご恩に報いたいと思っています」
「ありがとう、セオ。それではあなたは私の事業をしっかり手伝って、ご家族にはおいしいパンを作ってもらうわよ! これでまた街が活気づくわ」
「はい! 私は一生オリビア様にお仕えいたします!」
心底嬉しそうに、セオが首を縦に振った。その目にはわずかに涙が浮かんでいた。
「セオ、私からも頼むよ。オリビア嬢とクリスタル領のため、力になってほしい」
「はい! お任せください。こうして今の私があるのは、オリビア様と、あの日私を救いクリスタル領まで連れてっいってくれた隊長のおかげです。本当にありがとうございます」
リアムの申し出に、セオが力強く返事をした。そして、再起のきっかけを与えてくれた彼に深々と頭を下げた。
あの日、噴水の広場に現れた彼らを見て、リタはこんな日が来るとは全く予想していなかった。一時はどうなることかと思ったが、こうして主人に素晴らしい婚約者と新たな仲間が増えたことに、何か運命のようなものを感じていた。
リアムが今度は唇を結び、憂いを含んだ表情で返事をした。
「部下を守るのは当然だ。騎士団を辞めることになったときは心配だったが、充実した日々を送っているようで安心した」
「隊長……。騎士団であなたの部下でいられたことは、私の誇りです」
セオの言葉に偽りがないのもわかっているはずだが、それでも彼の表情は晴れない。
それを見たリタがリアムの隣に座るオリビアをに視線を移すと、彼女は心配そうに婚約者を見つめていた。
「そう言ってくれると嬉しいよ。あのときは残念ながら守れなかった者も多かった。今でも自分のことを不甲斐ないやつだと思っている」
「リアム様、それは違いますわ。あなたがいたから、被害が最小限で済んだのです。どうかご自分を責めないでください」
オリビアが静かに首を横に振り、リアムに優しく微笑みかけた。セオも軽く上半身を乗り出し、彼に力強い視線を送る。
「そうです、隊長! 私はあなたにも感謝しています」
「オリビア嬢、セオ……。ありがとう」
二人の言葉に安らかな笑顔を見せるリアムを見て、オリビアとセオも優しい笑顔で顔を見合わせていた。そんな三人に、リタはこれから先の彼女たちの幸福を願った。
話が落ち着いてリタがすっかり冷めてしまったお茶を淹れ直そうかと思っていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
リタは席を立ちドアを開ける。そこには執事頭のアンドレが立っていた。
「みなさま、昼食の準備が整いました」
>>続く
オリビアが謙遜して眉を下げ、困ったように笑う。するとセオが首を大きく横に振った。
「いいえ、オリビア様は歩くことすら諦めなければと絶望していた私に、希望を与えてくださいました。そして家族のことも救おうとしてくださった。家族全員、このご恩に報いたいと思っています」
「ありがとう、セオ。それではあなたは私の事業をしっかり手伝って、ご家族にはおいしいパンを作ってもらうわよ! これでまた街が活気づくわ」
「はい! 私は一生オリビア様にお仕えいたします!」
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「セオ、私からも頼むよ。オリビア嬢とクリスタル領のため、力になってほしい」
「はい! お任せください。こうして今の私があるのは、オリビア様と、あの日私を救いクリスタル領まで連れてっいってくれた隊長のおかげです。本当にありがとうございます」
リアムの申し出に、セオが力強く返事をした。そして、再起のきっかけを与えてくれた彼に深々と頭を下げた。
あの日、噴水の広場に現れた彼らを見て、リタはこんな日が来るとは全く予想していなかった。一時はどうなることかと思ったが、こうして主人に素晴らしい婚約者と新たな仲間が増えたことに、何か運命のようなものを感じていた。
リアムが今度は唇を結び、憂いを含んだ表情で返事をした。
「部下を守るのは当然だ。騎士団を辞めることになったときは心配だったが、充実した日々を送っているようで安心した」
「隊長……。騎士団であなたの部下でいられたことは、私の誇りです」
セオの言葉に偽りがないのもわかっているはずだが、それでも彼の表情は晴れない。
それを見たリタがリアムの隣に座るオリビアをに視線を移すと、彼女は心配そうに婚約者を見つめていた。
「そう言ってくれると嬉しいよ。あのときは残念ながら守れなかった者も多かった。今でも自分のことを不甲斐ないやつだと思っている」
「リアム様、それは違いますわ。あなたがいたから、被害が最小限で済んだのです。どうかご自分を責めないでください」
オリビアが静かに首を横に振り、リアムに優しく微笑みかけた。セオも軽く上半身を乗り出し、彼に力強い視線を送る。
「そうです、隊長! 私はあなたにも感謝しています」
「オリビア嬢、セオ……。ありがとう」
二人の言葉に安らかな笑顔を見せるリアムを見て、オリビアとセオも優しい笑顔で顔を見合わせていた。そんな三人に、リタはこれから先の彼女たちの幸福を願った。
話が落ち着いてリタがすっかり冷めてしまったお茶を淹れ直そうかと思っていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
リタは席を立ちドアを開ける。そこには執事頭のアンドレが立っていた。
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