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第二章 王都にお引越し! クラスメイトは王子様

64、リタの休日2−3

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「エル……あなたは優しいですね。自分の住む領地ではこのような身分でも貴族様のもとで働くことができるなど、ありがたいことに階級に対してとても寛容です。私が入っていた孤児院も、栄養たっぷりの食事に読み書きや計算、マナーなどの行き届いた教育など、とても環境が良かった」

「そうだったんですね」

「ええ。けれど、他の領地は違います。特に王都では、中心部の煌びやかさに比例するようにこの辺りの路地は暗く淀み、路地の住人たちは暗い目をしている。そんな様子を見ていると、きっと私も本来であれば路地側の人間なんだと思い知るんです。そして……とても複雑な気持ちになる。私のような人間が、こんなに幸せな暮らしをしていていいのかと」

 話しながら幼少の頃から今までの人生を思い返し、気がつくとリタの視線は遠くを見つめいていた。それを遮るように、エルの声が割り込んでくる。

「だ、ダメです! そんなこと言っては……」

「エル? すみません、こんな暗い話をしてしまって」

 彼にしては強い口調に驚いて、リタは思い出から現実に戻った。軽く頭を下げるとエルは首と両掌を胸の前で振った。

「いえ、それはいいんです。僕は貴族ではないけど親もいて、こうして自分で店もやって恵まれているのかもしれないけど、少しだけリタ様の気持ちがわかります。僕……母が隣国の生まれで他国との混血なんです」

「え、私と一緒……?」

「はい。だから昔はからかわれたり、他所者なんて言われたこともあります。言われているうちにいつの間にか自分でも「この国の人間として生きてていいのかな?」とか「こんな僕がお店を開いても誰も来てくれないかもしれない」なんて思うようになって……」

「そうだったのですか……」

 この明るく優しいエルに、そんな過去があったとは。どこか儚げな雰囲気はこういった過去の経験から滲んでいたのだろうか。

 リタは話に聞き入って、寂しげな表情の彼に静かに同調する。

 エルは頷いて、今度は口角を上げ明るい表情で話を続けた。

「でも、祖父がそんな僕を見て言ってくれたんです。「この国で生まれ育って、この国で生きていこうとしているお前が他所者なんかなわけがない。負い目なんか感じるんじゃない。ジュエリトスの人間として胸を張って好きなことをしなさい」って。本当に嬉しかった。だからお店を開いたんです」

「素敵ですね……」

「リタ様、自分を卑下することは、自分を大切に思ってくれている人間のことも卑下するのと同じことです。リタ様を大切に思っているリビー様のためにも、ご自分のことを大切にしてくださいね」

 柔らかな表情と優しい言葉。リタは心に染み渡るエルの言葉に、自分も普段は見せない、まるで柔らかな月明かりのように優しい笑顔を返していた。

「ありがとうございます、エル。あなたは本当に優しい」

「いえ、なんかすみません、偉そうなことを言ってしまって……」

「いいえ。そんなことありませんよ。それにしても素晴らしいおじいさまですね」

 リタは心からそう思った。エルの明るさや優しさ、そして一見頼りなさそうでいて芯が強そうな部分は、きっと彼を支えた祖父のおかげでもあるのだろう。

 自分にとってのオリビアのように、エルにとって祖父の存在は彼自身の支柱になっているのではないだろうか。

 エルがはにかみながら小さく頷いた。そして嬉々として話し始める。

「あ、ありがとうございます。そうなんです、祖父は本当に優しんです。厳しくもありますけど。両親は仕事で忙しかったので、僕、すっかりおじいちゃん子になって。今は病気になってしまって弱ってしまっているんですけど、いつかきっと元気になってくれるはずです。だからもっとお店を繁盛させないとと思って頑張っているんです」

「そうだったのですか……。おじいさま、早く良くなるといいですね。私もこのお店に通って、微力ながら繁盛に協力しますね」

 どこか決意めいたエルの話に、リタは心からのエールを送った。すると「ありがとうございます!」と彼からの屈託のない笑顔が真っ直ぐとリタの心を貫いた。

 やはり彼はジュエリトスで一番の美男子だ。リタは興奮で倒れそうになるのを必死に堪えた。

 その後、王都の店のことなどの雑談をしてから寮への帰宅の時間が迫ったため、リタは食器を下げ簡単な手伝いをしてから帰り支度を始めた。

「リタ様、これ、リビー様とジョージ様にお土産です! 僕が作ったアップルパイ、ちゃんとお二人用に味を調整したものです」

 帰り際、エルが持ち手のついた紙の箱を差し出したのでリタはそれを受け取って礼をした。喜ぶ二人の笑顔が目に浮かんだ。

「ありがとうございます、リビー様もジョージもきっと喜びます」

「よかったら感想を聞かせてくださいね。お二人によろしくお伝えください!」

「はい。また三人で来ますね」

「はい! お待ちしています!」

 一礼して店を出ると、リタは軽い足取りで歩き出す。

 また三人で。けれど一人でも通いたい、そんな気持ちが芽生えたことを自覚しながらリタは帰路についた。

>>続く
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