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第二章 王都にお引越し! クラスメイトは王子様
58、シルベスタクッキングスタジオ1
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「では、これから体術の授業を始める。なお初回である本日は健康的な肉体を維持するための授業として、料理をする!」
一方、入学後、初めての選択授業に参加するオリビアは、自分がかなり浮かれていることを自覚していた。
憧れの講師シルべスタが目の前にいるのだ。もちろん最前列の席を確保している。
(ああ、シルべスタ先生の筋肉、素敵すぎる! しかも公務でレオン殿下も休み……最高だわ!)
オリビアは実習用の調理室の特等席でシルベスタに釘付けになっていた。
彼は白いTシャツに水色のエプロンと三角巾の爽やかなコーディネートだ。ジャストサイズのTシャツが肩周りや腕の筋肉を強調していて、特に首から肩、背中にかけての僧帽筋と三角筋の発達具合に思わずよだれが垂れてしまいそうだった。
そんな貴族の娘としてはだらしない表情を浮かべるオリビアは、護衛兼クラスメイトのジョージに指摘されるまで、うっとりとシルベスタを見つめていた。
「お嬢様、目つきがヤバいですよ。変態なのバレますよ」
「え! 何よ、変なこと言わないでよジョージ。周りに誤解されるじゃない」
心外でありつつ、若干否めない護衛の言葉に動揺し、半開きになっていた口をキュッと一文字に引き締める。
ジョージがニヤニヤと笑みを浮かべシルべスタと自分を見ているのは不快だったが、その表情が一変し、オリビアは不思議に思った。彼の視線の先はシルベスタだ。
「どうしたの? ジョージ」
「お嬢様、あれってTシャツじゃないですか?」
「ああ、シルべスタ先生のでしょう? 似合っているわよね。筋肉が強調されて素敵……あ!」
態度はともかく優秀な護衛の指摘で、この光景が異常であることに気づくオリビア。
このTシャツという服はジュエリトスではクリスタル領にあるカフェ『バルク』でしか手に入らない代物だ。王都の人間が普段使いするようなものではない。
領地ではマッチョのマストアイテムで違和感がなかったため気づかなかった。何たる不覚。オリビアは先ほどとは違う意味でシルべスタから目が離せなくなっていた。
「気づきましたか。さて、どうしますかねえ?」
「うちの領地でしか販売していないものだし、ここは正攻法で直接聞いてみましょう。授業が終わったらすぐに先生のところへ行くわよ」
「了解っす」
オリビアは他の生徒には気づかれないようにシルべスタの話を聞きながらジョージと会話する。
一瞬、授業の説明をするシルべスタと目が合った気がしたが、すぐに彼の視線が遠くを見ていたので実際はどうだったかはわからない。
「さて、メインの食材はすでに各調理台に用意してある。他のものが必要であれば前の台にあるから取りに来るように。結果は成績にも影響するぞ。各自、心して取り掛かるように」
シルべスタの声かけに生徒たちは調理台の上を確認した。オリビアも自分の調理台に視線を移すと、そこにはカゴに山積みになった卵が置いてあった。
(メイン食材は……卵?)
オリビアが卵を見つめながら首を傾げていると、周りの生徒たちも同じように各自調理台を見つめてざわついていた。
侯爵家や伯爵家など、使用人がいる家の出身が多いAクラスの生徒たちは、卵があったからといってどうしていいかわからない。
おそらく割って使う事も、中身がどうなっているかもわからない者も多いだろう。オリビア自身もそうだった。
カフェで働くために料理に挑戦したことはあるが全くできなかった、というか何か別なものが出来上がった。自分の試作品でクリスタル家の主治医、トーマスの手を何度も煩わせたのは苦い記憶だった。
「これからこの卵を使って、演習時や敵地での潜伏時に効率よく栄養を摂れる料理を作るように。メニューは自由だ。優秀な生徒一名には褒美も用意するぞ!」
オリビアの瞳が輝く。
昨日この癖でまんまとレオンに遅れをとったというのに、それでも褒美という響きは魅力的だった。
しかも憧れのシルベスタからの褒美だ。オリビアの葛藤を知ってか、ジョージが小さく息を吐き、諌めてくる。
「お嬢様、わかってると思いますけど調子に乗らないように」
「わ、わかってるわよ。でも頑張るのは勝手でしょ?」
「危険物製造マシーン再びっすね。国家反逆罪で捕まらないことを祈ります」
>>続く
一方、入学後、初めての選択授業に参加するオリビアは、自分がかなり浮かれていることを自覚していた。
憧れの講師シルべスタが目の前にいるのだ。もちろん最前列の席を確保している。
(ああ、シルべスタ先生の筋肉、素敵すぎる! しかも公務でレオン殿下も休み……最高だわ!)
オリビアは実習用の調理室の特等席でシルベスタに釘付けになっていた。
彼は白いTシャツに水色のエプロンと三角巾の爽やかなコーディネートだ。ジャストサイズのTシャツが肩周りや腕の筋肉を強調していて、特に首から肩、背中にかけての僧帽筋と三角筋の発達具合に思わずよだれが垂れてしまいそうだった。
そんな貴族の娘としてはだらしない表情を浮かべるオリビアは、護衛兼クラスメイトのジョージに指摘されるまで、うっとりとシルベスタを見つめていた。
「お嬢様、目つきがヤバいですよ。変態なのバレますよ」
「え! 何よ、変なこと言わないでよジョージ。周りに誤解されるじゃない」
心外でありつつ、若干否めない護衛の言葉に動揺し、半開きになっていた口をキュッと一文字に引き締める。
ジョージがニヤニヤと笑みを浮かべシルべスタと自分を見ているのは不快だったが、その表情が一変し、オリビアは不思議に思った。彼の視線の先はシルベスタだ。
「どうしたの? ジョージ」
「お嬢様、あれってTシャツじゃないですか?」
「ああ、シルべスタ先生のでしょう? 似合っているわよね。筋肉が強調されて素敵……あ!」
態度はともかく優秀な護衛の指摘で、この光景が異常であることに気づくオリビア。
このTシャツという服はジュエリトスではクリスタル領にあるカフェ『バルク』でしか手に入らない代物だ。王都の人間が普段使いするようなものではない。
領地ではマッチョのマストアイテムで違和感がなかったため気づかなかった。何たる不覚。オリビアは先ほどとは違う意味でシルべスタから目が離せなくなっていた。
「気づきましたか。さて、どうしますかねえ?」
「うちの領地でしか販売していないものだし、ここは正攻法で直接聞いてみましょう。授業が終わったらすぐに先生のところへ行くわよ」
「了解っす」
オリビアは他の生徒には気づかれないようにシルべスタの話を聞きながらジョージと会話する。
一瞬、授業の説明をするシルべスタと目が合った気がしたが、すぐに彼の視線が遠くを見ていたので実際はどうだったかはわからない。
「さて、メインの食材はすでに各調理台に用意してある。他のものが必要であれば前の台にあるから取りに来るように。結果は成績にも影響するぞ。各自、心して取り掛かるように」
シルべスタの声かけに生徒たちは調理台の上を確認した。オリビアも自分の調理台に視線を移すと、そこにはカゴに山積みになった卵が置いてあった。
(メイン食材は……卵?)
オリビアが卵を見つめながら首を傾げていると、周りの生徒たちも同じように各自調理台を見つめてざわついていた。
侯爵家や伯爵家など、使用人がいる家の出身が多いAクラスの生徒たちは、卵があったからといってどうしていいかわからない。
おそらく割って使う事も、中身がどうなっているかもわからない者も多いだろう。オリビア自身もそうだった。
カフェで働くために料理に挑戦したことはあるが全くできなかった、というか何か別なものが出来上がった。自分の試作品でクリスタル家の主治医、トーマスの手を何度も煩わせたのは苦い記憶だった。
「これからこの卵を使って、演習時や敵地での潜伏時に効率よく栄養を摂れる料理を作るように。メニューは自由だ。優秀な生徒一名には褒美も用意するぞ!」
オリビアの瞳が輝く。
昨日この癖でまんまとレオンに遅れをとったというのに、それでも褒美という響きは魅力的だった。
しかも憧れのシルベスタからの褒美だ。オリビアの葛藤を知ってか、ジョージが小さく息を吐き、諌めてくる。
「お嬢様、わかってると思いますけど調子に乗らないように」
「わ、わかってるわよ。でも頑張るのは勝手でしょ?」
「危険物製造マシーン再びっすね。国家反逆罪で捕まらないことを祈ります」
>>続く
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