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第一章 クリスタル領で再会

29、心、開いて、通わせて3

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「ジョージにはああ言いましが、本当は彼を兄のように思っています。私……九歳の頃、誘拐されそうになったんです。その時、偶然居合わせて助けてくれたのが十一歳のジョージでした。当時はまだ自分が男爵家の子とも知らず、孤児でしたから、我が家で雇って私の護衛になりました。それからはずっと一緒だったので、異性ではなく、エリオット兄様と同じように彼を大切に思っています」

「そうだったのか……」

「そ、それから……」

 オリビアが正面にある噴水を見つめながら話している姿を、リアムはずっと目を細め彼女に優しい視線を送り続けていた。すると、オリビアがリアムの方へゆっくりと顔を向けた。

「アーノルドに婚約のことを伏せていたのは……。まだ正式な婚約ではなかったので、慎重に対応しただけですわ。変な店を経営している訳のわからない女だと、婚約破棄されるかもしれないと思いましたし」

「なんだ。そういうことだったのか。それを聞いて安心した。確かにこの国では見たことがない変わった店だったが、私は気に入ったし楽しいと思ったよ」

「よかった……。変態趣味の痴女だと思われていたらどうしようかと……あ!」

 目を見開いてハッとした表情のオリビアが、顔を赤らめ言葉につまっていた。そして、タピオカドリンクを勢いよく飲み込んでいる。

 リアムはその様子を見て、やっとこれまでの彼女の行動や仕草の意味を理解できた。思わず顔の筋肉が緩む。

「ちなみに、あの店は君の趣味なのか? オリビア嬢」

「え! ええと、その、まあ、それは……」

「逞しい男が好みなのは本当だった?」

「……はい」

 オリビアが顔だけではなく耳や首まで真っ赤にして頷いた。それを見たリアムは、心の奥から湧き上がる感情を抑えることができず彼女に一歩近づいた。

「オリビア嬢! 君は美しくて聡明で優しくて、それでいて、何て可愛らしいんだ!」

「リ、リアム様?」

 リアムはオリビアがタピオカドリンクを持っている両手を、自分の手でギュッと包み込んだ。目を細め、口元から白い歯を覗かせ、華やかな笑顔をオリビアに向ける。

「期待してもいい? オリビア嬢にとって私との婚約は貴族の義務だけではないと」

「は、はい。一緒にいてこんなに緊張したり、胸が苦しくなって言葉もうまく出なくなったり、なのに目が離せない男性は……リアム様だけですわ」

「ああ、これが屋敷の中ならきっと君を抱きしめているよ、きっと」

「そ、それはちょっとまだ心の準備が……」

「ゆっくりでいい。慣れていってくれれば。王都に行ったらまたこんな風にデートしよう」

「はい」

 真っ赤な顔でオリビアに見上げられ、リアムはその愛らしさに眩暈めまいがしそうだった。

 包み込んだ手は逃れようとはせず自分の両手の中に収まっていて、脈拍は少し早めに感じる。
 それは、オリビアの言葉に偽りがないことを意味していて、リアムの心は随分と弾んでいた。


>>続く

ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回から第二章がスタート。王都が舞台となります!
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