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第一章 クリスタル領で再会
22、カフェ『バルク』2
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「オリビア様! お待ちください!」
「お嬢様。いい加減勝手に行動しないでくださいよ」
リタとジョージが早足でオリビアを追いかけた。
「あ、ごめんなさい。またあなたたちのことを忘れていたわ」
廊下で立ち止まり、オリビアは一旦呼吸を整えて二人と自室へ戻る。
「いくら貴族の令嬢でも、あんまりウブすぎるのは面倒ですよ? お嬢様」
部屋に入った途端、ジョージがニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、オリビアに視線を送っていた。
「だって緊張するでしょう。すごく好み、いいえ、もう完璧理想の筋肉なのよ? 昨日のこともあるし……目を合わせるのも、同じ空間も恥ずかしくて仕方ないわ!」
「ですがオリビア様、街へ行く馬車でまた同じ空間です。あのような態度ですと誤解されるかもしれません」
確かに、あからさまに視線を逸らすことや、ぎこちない会話は失礼にあたる。何とかならないかと、オリビアは俯き加減で顎に指をあて思案する。
「わかった! 馬車を分けましょう。お兄様も誘って、二台で行けばいいのよ!」
「そう、うまくいくでしょうか?」
閃いたと言わんばかりに、オリビアは眉間のしわを伸ばし目を見開くが、リタの反応はイマイチだった。ジョージに至っては失笑している。
「生憎、午後から来客があるから屋敷を留守にはできないな」
妹からの外出の誘いを、エリオットは申し訳なさそうに断った。
オリビアは断られることは想定しておらず、驚きで口を開いたまま顔が固まった。リタとジョージの生温い視線を感じる。
エリオットは書類に目を通しながらの対応で、三人の様子に全く気づいていないようだ。護衛も兼任する彼の従者ディランだけが冷ややかな視線を送ってきた。彼はオリビアたちの母方の紹介でやってきた、オニキス領出身の仕事ができる青年だ。しかし、クリスタル伯爵家で働くにはややお堅い性格だった。
特に軟派の極みのような男、ジョージとは相性が最悪だ。
「ま、諦めるしかないっすね。お嬢様」
「オリビア、リアム様を頼んだぞ。失礼のないようにな」
「……はい」
あてが外れたオリビアは兄の執務室を出て、トボトボと自室へ戻り、外出の準備を進めた。
「困ったわね。何とか密室は避けたいのだけれど」
オリビアは本当に困っていた。なぜかその頭の中には、リアムを避けるか触るかの極端な選択肢しかなかった。
直視するには眩しすぎて、近づけばその筋肉に触れないでいる自信がない。
「とりあえず、リタだけじゃなくて俺も馬車に乗りますよ。雑談でもして乗り切ればいいんじゃないですか? あとは本人じゃなくて、その奥の方を見るとか」
「いいわね! ナイスジョージ! もしうまくいかなければジョージがリアム様のお相手をしたらいいのだわ」
「俺は女の子の相手しかしたくないんですが」
「今日ぐらい二つ返事で首を縦に振ってちょうだい! 私、一応雇用主なんですけど?」
「はいはい」
リタとジョージは、オリビアが事業を始めた時からクリスタル家ではなく、オリビアの直接雇用となっている。待遇もいい。
「さあ、オリビア様、準備ができましたよ」
リタが外出用に髪を結い直し、主人へ手鏡を差し出した。受け取ったオリビアは、合わせ鏡で後頭部を確認する。そこには滑らかな銀髪が美しく編み込まれている様が映った。
「うん。素敵。ありがとうリタ」
椅子から立ち上がり、オリビアは大きく息を吸い、吐き出す。気合は十分だ。
「さあ、行きましょう!」
>>続く
「お嬢様。いい加減勝手に行動しないでくださいよ」
リタとジョージが早足でオリビアを追いかけた。
「あ、ごめんなさい。またあなたたちのことを忘れていたわ」
廊下で立ち止まり、オリビアは一旦呼吸を整えて二人と自室へ戻る。
「いくら貴族の令嬢でも、あんまりウブすぎるのは面倒ですよ? お嬢様」
部屋に入った途端、ジョージがニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、オリビアに視線を送っていた。
「だって緊張するでしょう。すごく好み、いいえ、もう完璧理想の筋肉なのよ? 昨日のこともあるし……目を合わせるのも、同じ空間も恥ずかしくて仕方ないわ!」
「ですがオリビア様、街へ行く馬車でまた同じ空間です。あのような態度ですと誤解されるかもしれません」
確かに、あからさまに視線を逸らすことや、ぎこちない会話は失礼にあたる。何とかならないかと、オリビアは俯き加減で顎に指をあて思案する。
「わかった! 馬車を分けましょう。お兄様も誘って、二台で行けばいいのよ!」
「そう、うまくいくでしょうか?」
閃いたと言わんばかりに、オリビアは眉間のしわを伸ばし目を見開くが、リタの反応はイマイチだった。ジョージに至っては失笑している。
「生憎、午後から来客があるから屋敷を留守にはできないな」
妹からの外出の誘いを、エリオットは申し訳なさそうに断った。
オリビアは断られることは想定しておらず、驚きで口を開いたまま顔が固まった。リタとジョージの生温い視線を感じる。
エリオットは書類に目を通しながらの対応で、三人の様子に全く気づいていないようだ。護衛も兼任する彼の従者ディランだけが冷ややかな視線を送ってきた。彼はオリビアたちの母方の紹介でやってきた、オニキス領出身の仕事ができる青年だ。しかし、クリスタル伯爵家で働くにはややお堅い性格だった。
特に軟派の極みのような男、ジョージとは相性が最悪だ。
「ま、諦めるしかないっすね。お嬢様」
「オリビア、リアム様を頼んだぞ。失礼のないようにな」
「……はい」
あてが外れたオリビアは兄の執務室を出て、トボトボと自室へ戻り、外出の準備を進めた。
「困ったわね。何とか密室は避けたいのだけれど」
オリビアは本当に困っていた。なぜかその頭の中には、リアムを避けるか触るかの極端な選択肢しかなかった。
直視するには眩しすぎて、近づけばその筋肉に触れないでいる自信がない。
「とりあえず、リタだけじゃなくて俺も馬車に乗りますよ。雑談でもして乗り切ればいいんじゃないですか? あとは本人じゃなくて、その奥の方を見るとか」
「いいわね! ナイスジョージ! もしうまくいかなければジョージがリアム様のお相手をしたらいいのだわ」
「俺は女の子の相手しかしたくないんですが」
「今日ぐらい二つ返事で首を縦に振ってちょうだい! 私、一応雇用主なんですけど?」
「はいはい」
リタとジョージは、オリビアが事業を始めた時からクリスタル家ではなく、オリビアの直接雇用となっている。待遇もいい。
「さあ、オリビア様、準備ができましたよ」
リタが外出用に髪を結い直し、主人へ手鏡を差し出した。受け取ったオリビアは、合わせ鏡で後頭部を確認する。そこには滑らかな銀髪が美しく編み込まれている様が映った。
「うん。素敵。ありがとうリタ」
椅子から立ち上がり、オリビアは大きく息を吸い、吐き出す。気合は十分だ。
「さあ、行きましょう!」
>>続く
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