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第一章 クリスタル領で再会
9、魔獣の帰還4
しおりを挟むリアムの体がひと回り、さらにひと回りと、どんどん大きくなる。筋肉が盛り上がり、身長も二倍程度になっていた。
最後に自分の剣に魔法をかける。すると剣は体に合わせたサイズの大斧になった。
リアムはそのまま魔道士たちと応戦している仲間達の元へと向かった。
「全員すぐに避難しろ!」
リアムが周囲に向かって叫ぶ。魔道士たちは人間離れしたその姿に、一歩引いて警戒している。
「隊長!」
「我々もまだ戦えます!」
隊員たちは引かず、魔道士に向けて武器を構えている。
「だめだ! 巻き込みたくない! 隊長命令だ! なんとか助かってくれ!」
「隊長! どうかご無事で!」
リアムの切実な願いに隊員たちは武器をしまい、散り散りにその場を立ち去る。
一人の魔道士が背を向ける隊員に攻撃をしようと手を挙げる。
その瞬間、リアムが斧を振る。魔道士の首が飛び、残された体はその場に倒れ込んだ。他の魔道士たちの警戒が強まる。
「……お前たち、生きて帰れると思うなよ」
リアムは力を込め大斧を振る。周りの木が倒れ、何人かの魔道士たちは死体となった。後方にいた魔道士数名が逃走しようとしていたが、体の大きなリアムに数歩で追いつかれ、次の一撃をくらい、声を上げることなく絶命していった。
警戒は解かず、探知魔法を使う。魔道士たちの中に生存者がいないことを確認し、リアムは持っていた大斧を剣に戻し収めた。
そして、ジャックとセオを寝かせていたところまで歩いて向かう。二人とも無事だったが、意識は戻っていなかった。
リアムは両肩に二人を抱え、先ほどまで馬車が向かっていた方向へ歩みを進めた。魔力の消費は激しいが、早く到着するために肉体にかけている魔法は解かなかった。なんとか二人を助けたかった。他の仲間たちの安否なども気になっていた。
歩き続け、自分も意識が朦朧として、今にも倒れてしまいそうだった。その時には歩き始めてから六時間ほど経過していたが、その感覚もわからないまま、リアムは歩き続けた。
さらに一時間ほど歩き、リアムはクリスタル領の市街地に到着していた。自分の姿に恐れ慄いた領民たちの悲鳴も、ほとんど聞こえなかった。無意識に足は噴水を目指していた。
最後に見た光景は、美しい銀の髪——。
地面に倒れ込む衝撃と共に、リアムの意識は闇の中へ沈んでいった。
そして……。
闇の中の遠くに、小さな光を見つける。自分の名前を呼ぶ声も微かに聞こえる。その光はどんどん大きく、強くなり、比例して声も大きく聞こえる。
その光に手を伸ばすと、何か温かいものが自分の手を包むような感覚がした。
「……様。リアム様……。リアム様!」
リアムが目を開けると、薄い紫の瞳がこちらを覗き込んでいる。その瞳と、美しい銀髪に見覚えがあった。
「オリ……ビア。オリビア嬢なのか? ここは……」
会いにいく予定だった、今はまだ仮の婚約者。彼女は自分の手を握り、必死に名前を呼んでいた。
>>続く
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