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5月
番外編 二班の決意
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スミちゃんは一番乗りでヨナと共にお化け屋敷から解放された。外に出るとさらに日差しは厳しく、景色が揺らいで見える。
「暑いっ! お化け屋敷とのギャップ激し過ぎ!」
隣に立つヨナも項垂れている。
「もういっそ戻りたいくらい暑い……」
スミちゃんもヨナもお化け屋敷に恐怖を感じるような人間ではなかった。彼女たちは冷房完備のフィクション作品として、このゴーストハウスというアトラクションを楽しんだのだ。
「そういえば、ちょっとだけタナケンの悲鳴聞こえたよね」
「聞こえた聞こえた」
スミちゃんとヨナは後発のダブケンのことを思い出し、顔を見合わせて笑う。数分後にはそのダブケンも建物から出てきた。
「終わったああああ!」
「タナケン、落ち着けって!」
まずは今にも泣きそうな顔で走ってタナケンが、次に彼を追う形でサトケンが小走りで寄ってくる。
「スミちゃん、ヨナ、なんでそんなに平気そうなんだよ~」
いまだに恐怖を引きずっているタナケンが、ニヤニヤと笑う彼女たちに噛みつく。
「ああ~でも、マリの叫び声も聞こえたから、一番怖がってたのってマリかもな」
サトケンがお化け屋敷の出口に視線を移しながら言った。スミちゃんが眉を上げ、目を見開く。
「そっちか! めっちゃ平気かめっちゃ苦手のどっちかだとは思ってたんだよね~」
「だいたいタナケンと同じような間隔で聞こえてたんだけど、途中で急に聞こえなくなったんだよな」
サトケンの言葉に、スミちゃんとヨナが顔を見合わせた。そして、お互いに同じことを考えていると察して頷きあう。
「新堂だな」
「新堂だね」
もう一度頷く。
それを見ていたダブケンは訳がわからず首を傾げる。
「え、どゆこと?」
「全然わかんねえ」
ヨナがうんうんと頷きながら、彼らに説明を始めた。
「お化け屋敷の苦手なマリ。泣き叫ぶ彼女に新堂が涙拭いてあげて、落ち着くまでと言って抱きしめる……そして!」
今度はスミちゃんが口を開く。
「そして、マリもそれに応えて新堂の背中に手を回し、その後ふたりは熱い口づけをして気持ちを確かめ合い、手を繋いでお化け屋敷を出る……って流れね!」
「そう、スミちゃん、正解!」
ヨナがスミちゃんを指さした。盛り上がる彼女たちに若干ついていけないダブケンは疑うように目元を歪めた。
「いやあ、さすがにそれはマズイだろ。ユージが知ったら……」
「そうだ、俺よくわかんないけど、マリさんってユージと付き合ってるんじゃないの?」
気まずそうに首をひねるサトケンと不思議そうに問いかけるタナケン。スミちゃんは彼らの返事を「シャラップ!」と言って一蹴した。
「どう見てもユージの片思いでしょうが! 邪魔者に負けず愛を育む二人を私たちは見守るの!」
「素敵だね」
ヨナも同意して何度も頷いている。
「よし、清流館高校一年二組二班! 私たちはマリと新堂を見守る会を結成する!」
声高らかに、スミちゃんが宣言する。ダブケンは再び首を傾げた。
「なんだそれ?」
「どういうことだ?」
「あの二人を見守って、応援するの。進展があっても冷やかさない、ユージ君にはバレないように口外しないがルール」
ヨナがダブケンに言い含める。その目は真剣そのものだった。
「あ、出てきた!」
サトケンの言葉で、四人は出口に注目した。
そこには、新堂と、彼に手を引かれ、目元と頬を赤らめたマリが出てきたところだった。しかも指を絡ませるしっかり恋人繋ぎだ。
((尊いっ……!))
清流館高校一年二組二班、満場一致でマリと新堂を見守る会を結成。
——————————————————
あとがき
松浦です!
ここまで読んでいただきありがとうございます✨
ここで「麗しのマリリン」五月編は終了です!
次回六月の宿泊研修編スタート!
少しでも気に入っていただけましたら、お気に入り登録などをしてチェックしてくれたら嬉しいです♪
引き続きよろしくお願いします☺️
「暑いっ! お化け屋敷とのギャップ激し過ぎ!」
隣に立つヨナも項垂れている。
「もういっそ戻りたいくらい暑い……」
スミちゃんもヨナもお化け屋敷に恐怖を感じるような人間ではなかった。彼女たちは冷房完備のフィクション作品として、このゴーストハウスというアトラクションを楽しんだのだ。
「そういえば、ちょっとだけタナケンの悲鳴聞こえたよね」
「聞こえた聞こえた」
スミちゃんとヨナは後発のダブケンのことを思い出し、顔を見合わせて笑う。数分後にはそのダブケンも建物から出てきた。
「終わったああああ!」
「タナケン、落ち着けって!」
まずは今にも泣きそうな顔で走ってタナケンが、次に彼を追う形でサトケンが小走りで寄ってくる。
「スミちゃん、ヨナ、なんでそんなに平気そうなんだよ~」
いまだに恐怖を引きずっているタナケンが、ニヤニヤと笑う彼女たちに噛みつく。
「ああ~でも、マリの叫び声も聞こえたから、一番怖がってたのってマリかもな」
サトケンがお化け屋敷の出口に視線を移しながら言った。スミちゃんが眉を上げ、目を見開く。
「そっちか! めっちゃ平気かめっちゃ苦手のどっちかだとは思ってたんだよね~」
「だいたいタナケンと同じような間隔で聞こえてたんだけど、途中で急に聞こえなくなったんだよな」
サトケンの言葉に、スミちゃんとヨナが顔を見合わせた。そして、お互いに同じことを考えていると察して頷きあう。
「新堂だな」
「新堂だね」
もう一度頷く。
それを見ていたダブケンは訳がわからず首を傾げる。
「え、どゆこと?」
「全然わかんねえ」
ヨナがうんうんと頷きながら、彼らに説明を始めた。
「お化け屋敷の苦手なマリ。泣き叫ぶ彼女に新堂が涙拭いてあげて、落ち着くまでと言って抱きしめる……そして!」
今度はスミちゃんが口を開く。
「そして、マリもそれに応えて新堂の背中に手を回し、その後ふたりは熱い口づけをして気持ちを確かめ合い、手を繋いでお化け屋敷を出る……って流れね!」
「そう、スミちゃん、正解!」
ヨナがスミちゃんを指さした。盛り上がる彼女たちに若干ついていけないダブケンは疑うように目元を歪めた。
「いやあ、さすがにそれはマズイだろ。ユージが知ったら……」
「そうだ、俺よくわかんないけど、マリさんってユージと付き合ってるんじゃないの?」
気まずそうに首をひねるサトケンと不思議そうに問いかけるタナケン。スミちゃんは彼らの返事を「シャラップ!」と言って一蹴した。
「どう見てもユージの片思いでしょうが! 邪魔者に負けず愛を育む二人を私たちは見守るの!」
「素敵だね」
ヨナも同意して何度も頷いている。
「よし、清流館高校一年二組二班! 私たちはマリと新堂を見守る会を結成する!」
声高らかに、スミちゃんが宣言する。ダブケンは再び首を傾げた。
「なんだそれ?」
「どういうことだ?」
「あの二人を見守って、応援するの。進展があっても冷やかさない、ユージ君にはバレないように口外しないがルール」
ヨナがダブケンに言い含める。その目は真剣そのものだった。
「あ、出てきた!」
サトケンの言葉で、四人は出口に注目した。
そこには、新堂と、彼に手を引かれ、目元と頬を赤らめたマリが出てきたところだった。しかも指を絡ませるしっかり恋人繋ぎだ。
((尊いっ……!))
清流館高校一年二組二班、満場一致でマリと新堂を見守る会を結成。
——————————————————
あとがき
松浦です!
ここまで読んでいただきありがとうございます✨
ここで「麗しのマリリン」五月編は終了です!
次回六月の宿泊研修編スタート!
少しでも気に入っていただけましたら、お気に入り登録などをしてチェックしてくれたら嬉しいです♪
引き続きよろしくお願いします☺️
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