麗しのマリリン

松浦どれみ

文字の大きさ
上 下
29 / 32
5月

番外編 二班の決意

しおりを挟む
 スミちゃんは一番乗りでヨナと共にお化け屋敷から解放された。外に出るとさらに日差しは厳しく、景色が揺らいで見える。

「暑いっ! お化け屋敷とのギャップ激し過ぎ!」

 隣に立つヨナも項垂れている。

「もういっそ戻りたいくらい暑い……」

 スミちゃんもヨナもお化け屋敷に恐怖を感じるような人間ではなかった。彼女たちは冷房完備のフィクション作品として、このゴーストハウスというアトラクションを楽しんだのだ。

「そういえば、ちょっとだけタナケンの悲鳴聞こえたよね」
「聞こえた聞こえた」

 スミちゃんとヨナは後発のダブケンのことを思い出し、顔を見合わせて笑う。数分後にはそのダブケンも建物から出てきた。

「終わったああああ!」
「タナケン、落ち着けって!」

 まずは今にも泣きそうな顔で走ってタナケンが、次に彼を追う形でサトケンが小走りで寄ってくる。

「スミちゃん、ヨナ、なんでそんなに平気そうなんだよ~」

 いまだに恐怖を引きずっているタナケンが、ニヤニヤと笑う彼女たちに噛みつく。

「ああ~でも、マリの叫び声も聞こえたから、一番怖がってたのってマリかもな」

 サトケンがお化け屋敷の出口に視線を移しながら言った。スミちゃんが眉を上げ、目を見開く。

「そっちか! めっちゃ平気かめっちゃ苦手のどっちかだとは思ってたんだよね~」
「だいたいタナケンと同じような間隔で聞こえてたんだけど、途中で急に聞こえなくなったんだよな」

 サトケンの言葉に、スミちゃんとヨナが顔を見合わせた。そして、お互いに同じことを考えていると察して頷きあう。

「新堂だな」
「新堂だね」

 もう一度頷く。
 それを見ていたダブケンは訳がわからず首を傾げる。

「え、どゆこと?」
「全然わかんねえ」

 ヨナがうんうんと頷きながら、彼らに説明を始めた。

「お化け屋敷の苦手なマリ。泣き叫ぶ彼女に新堂が涙拭いてあげて、落ち着くまでと言って抱きしめる……そして!」

 今度はスミちゃんが口を開く。

「そして、マリもそれに応えて新堂の背中に手を回し、その後ふたりは熱い口づけをして気持ちを確かめ合い、手を繋いでお化け屋敷を出る……って流れね!」
「そう、スミちゃん、正解!」

 ヨナがスミちゃんを指さした。盛り上がる彼女たちに若干ついていけないダブケンは疑うように目元を歪めた。

「いやあ、さすがにそれはマズイだろ。ユージが知ったら……」
「そうだ、俺よくわかんないけど、マリさんってユージと付き合ってるんじゃないの?」

 気まずそうに首をひねるサトケンと不思議そうに問いかけるタナケン。スミちゃんは彼らの返事を「シャラップ!」と言って一蹴した。

「どう見てもユージの片思いでしょうが! 邪魔者に負けず愛を育む二人を私たちは見守るの!」
「素敵だね」

 ヨナも同意して何度も頷いている。

「よし、清流館高校一年二組二班! 私たちはマリと新堂を見守る会を結成する!」

 声高らかに、スミちゃんが宣言する。ダブケンは再び首を傾げた。

「なんだそれ?」
「どういうことだ?」
「あの二人を見守って、応援するの。進展があっても冷やかさない、ユージ君にはバレないように口外しないがルール」

 ヨナがダブケンに言い含める。その目は真剣そのものだった。

「あ、出てきた!」

 サトケンの言葉で、四人は出口に注目した。

 そこには、新堂と、彼に手を引かれ、目元と頬を赤らめたマリが出てきたところだった。しかも指を絡ませるしっかり恋人繋ぎだ。

((尊いっ……!))

 清流館高校一年二組二班、満場一致でマリと新堂を見守る会を結成。

——————————————————
あとがき

松浦です!
ここまで読んでいただきありがとうございます✨
ここで「麗しのマリリン」五月編は終了です!
次回六月の宿泊研修編スタート!

少しでも気に入っていただけましたら、お気に入り登録などをしてチェックしてくれたら嬉しいです♪
引き続きよろしくお願いします☺️
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

足を踏み出して

示彩 豊
青春
高校生活の終わりが見え始めた頃、円佳は進路を決められずにいた。友人の朱理は「卒業したい」と口にしながらも、自分を「人を傷つけるナイフ」と例え、操られることを望むような危うさを見せる。 一方で、カオルは地元での就職を決め、るんと舞は東京の大学を目指している。それぞれが未来に向かって進む中、円佳だけが立ち止まり、自分の進む道を見出せずにいた。 そんな中、文化祭の準備が始まる。るんは演劇に挑戦しようとしており、カオルも何かしらの役割を考えている。しかし、円佳はまだ決められずにいた。秋の陽射しが差し込む教室で、彼女は焦りと迷いを抱えながら、友人たちの言葉を受け止める。 それぞれの選択が、少しずつ未来を形作っていく。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

ファンファーレ!

ほしのことば
青春
♡完結まで毎日投稿♡ 高校2年生の初夏、ユキは余命1年だと申告された。思えば、今まで「なんとなく」で生きてきた人生。延命治療も勧められたが、ユキは治療はせず、残りの人生を全力で生きることを決意した。 友情・恋愛・行事・学業…。 今まで適当にこなしてきただけの毎日を全力で過ごすことで、ユキの「生」に関する気持ちは段々と動いていく。 主人公のユキの心情を軸に、ユキが全力で生きることで起きる周りの心情の変化も描く。 誰もが感じたことのある青春時代の悩みや感動が、きっとあなたの心に寄り添う作品。

壺花

戸笠耕一
青春
唐橋近美は京都にある堂上学園に合格し、四月から高校一年生になる。外部の生徒として最初は疎外感を感じつつも、清水谷榮子と同じ寮室で生活をしていくうちになじんでいく。ある日、榮子を敵対視する山科結衣が近美に興味を持ち始める。学生時代という少女たちは壺に収まった花。6つの若き花が織りなす青春ストーリー。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...