17 / 32
5月
6−2それぞれの五月
しおりを挟む
「竜崎先生、五班のテーマ決まりました~」
「お、早かったな。何にしたんだ?」
ユージが「陶芸です!」と言うと、竜崎は一瞬目を見開いてから口の端を上げた。それを見たユージは満足し、竜崎に微笑みかけ自分の席に戻っていった。
(ありゃ確信犯だな。まあ、これも仕方ないか)
竜崎は機嫌の良さそうなユージの背中を見つめ、後頭部を掻きつつ苦笑した。
その後、各班の班長やテーマが決定したため、竜崎は一旦生徒たちの話し合いを止めさせる。ざわついていた教室内はゆっくりと静まっていった。
「はい、各班のレポートテーマが決まったので発表します。テーマが被っている班もあったが多くはなかったのでそのまま変更はなしにする」
竜崎は教室内を見渡し、生徒たちの表情を確認した。自分の言葉に大きな反応を示す者はいなかったが、ひとりだけ、それはもう嬉しそうに笑みを深めている者がいた。確かに彼の思惑通りになったのだが。竜崎は彼の傍にいる女子のことが、少しばかり可哀想に思えた。
「では一班と三班が野菜苗の植え付け体験、二班と五班が陶芸体験、四班が機織り体験、六班がガラス細工体験です。あとは班長中心に当日講師の皆さんに聞きたいことなどを決めておくように」
「「はーい」」
竜崎は言い終えると黒板に決定事項を書いて椅子に座った。そして、もう一度生徒たちを見渡した。
そこには満面の笑みを浮かべたユージの隣に座るユアが、思い切り目に力を込め、眉を寄せた鬼の形相で黒板を見つめていた。
「やった、マリと同じ陶芸だ~」
「ユージ、二班が陶芸って知ってたの?」
ユアはユージに静かに問いかけた。彼から偶然というよりは予想通りと言わんばかりの余裕を感じ取ったからだ。
「ううん。俺が先生に報告したときは他の班はまだだったし。偶然だよ、余計に嬉しいな~」
「そう……」
ニコニコと笑うユージにユアは歯切れの悪い返事しかできなかった。とにかく計画が台無しになってしまったからだ。
そして、彼の言葉が嘘であることもわかっていた。
おそらくユージは二班が選びそうなテーマを先回りして選んでおいたのだ。学年で三本の指に入る彼の頭脳と、広い交友関係で把握しているクラスメイトたちの趣向を組み合わせれば、予測などたやすいに違いない。
「ユア、よかったよね? 嬉しくない?」
ユージが俯くユアの顔を覗き込んだ。彼の笑顔に否定など、できるわけがない。
「ううん、よかったね。マリも一緒で楽しみ!」
「そうだよね、楽しみだね~」
ユアがユージに笑顔で返事をすると、彼は笑顔で頷いた。こうしてユアの心に小さな棘を残したまま、一年二組の五月が本格的に始まった。
「お、早かったな。何にしたんだ?」
ユージが「陶芸です!」と言うと、竜崎は一瞬目を見開いてから口の端を上げた。それを見たユージは満足し、竜崎に微笑みかけ自分の席に戻っていった。
(ありゃ確信犯だな。まあ、これも仕方ないか)
竜崎は機嫌の良さそうなユージの背中を見つめ、後頭部を掻きつつ苦笑した。
その後、各班の班長やテーマが決定したため、竜崎は一旦生徒たちの話し合いを止めさせる。ざわついていた教室内はゆっくりと静まっていった。
「はい、各班のレポートテーマが決まったので発表します。テーマが被っている班もあったが多くはなかったのでそのまま変更はなしにする」
竜崎は教室内を見渡し、生徒たちの表情を確認した。自分の言葉に大きな反応を示す者はいなかったが、ひとりだけ、それはもう嬉しそうに笑みを深めている者がいた。確かに彼の思惑通りになったのだが。竜崎は彼の傍にいる女子のことが、少しばかり可哀想に思えた。
「では一班と三班が野菜苗の植え付け体験、二班と五班が陶芸体験、四班が機織り体験、六班がガラス細工体験です。あとは班長中心に当日講師の皆さんに聞きたいことなどを決めておくように」
「「はーい」」
竜崎は言い終えると黒板に決定事項を書いて椅子に座った。そして、もう一度生徒たちを見渡した。
そこには満面の笑みを浮かべたユージの隣に座るユアが、思い切り目に力を込め、眉を寄せた鬼の形相で黒板を見つめていた。
「やった、マリと同じ陶芸だ~」
「ユージ、二班が陶芸って知ってたの?」
ユアはユージに静かに問いかけた。彼から偶然というよりは予想通りと言わんばかりの余裕を感じ取ったからだ。
「ううん。俺が先生に報告したときは他の班はまだだったし。偶然だよ、余計に嬉しいな~」
「そう……」
ニコニコと笑うユージにユアは歯切れの悪い返事しかできなかった。とにかく計画が台無しになってしまったからだ。
そして、彼の言葉が嘘であることもわかっていた。
おそらくユージは二班が選びそうなテーマを先回りして選んでおいたのだ。学年で三本の指に入る彼の頭脳と、広い交友関係で把握しているクラスメイトたちの趣向を組み合わせれば、予測などたやすいに違いない。
「ユア、よかったよね? 嬉しくない?」
ユージが俯くユアの顔を覗き込んだ。彼の笑顔に否定など、できるわけがない。
「ううん、よかったね。マリも一緒で楽しみ!」
「そうだよね、楽しみだね~」
ユアがユージに笑顔で返事をすると、彼は笑顔で頷いた。こうしてユアの心に小さな棘を残したまま、一年二組の五月が本格的に始まった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
青が溢れる
松浦どれみ
青春
〜そして初恋になる。教室に登校できなかった二人の成長の物語〜
関連作:長編「麗しのマリリン」こちらもよろしくお願いします!
【あらすじ】
春休み中の事故で高校入学が遅れ、クラスに馴染めずカウンセリングと自習室登校をすることになった青山美蘭(あおやま みらん)は、ある日同じクラスで持病のため保健室登校をしている青柳空(あおやぎ そら)と出会う。
初めはグイグイと距離を詰めてくる空に戸惑っていた美蘭も、毎日昼休みを一緒に過ごすことで次第に心を開いていった。
そして夏休み明け、持病の手術が成功した空に懇願され美蘭はついに教室へ登校する——。
教室内での新たな人間関係や、自分自身が解決できていない問題と向き合い、成長するふたりの青春ラブストーリー。
感想やお気に入り登録お待ちしております!
よろしくお願いします^^
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる