麗しのマリリン

松浦どれみ

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5月

6−2それぞれの五月

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「竜崎先生、五班のテーマ決まりました~」
「お、早かったな。何にしたんだ?」

 ユージが「陶芸です!」と言うと、竜崎は一瞬目を見開いてから口の端を上げた。それを見たユージは満足し、竜崎に微笑みかけ自分の席に戻っていった。

(ありゃ確信犯だな。まあ、これも仕方ないか)

 竜崎は機嫌の良さそうなユージの背中を見つめ、後頭部を掻きつつ苦笑した。

 その後、各班の班長やテーマが決定したため、竜崎は一旦生徒たちの話し合いを止めさせる。ざわついていた教室内はゆっくりと静まっていった。

「はい、各班のレポートテーマが決まったので発表します。テーマが被っている班もあったが多くはなかったのでそのまま変更はなしにする」

 竜崎は教室内を見渡し、生徒たちの表情を確認した。自分の言葉に大きな反応を示す者はいなかったが、ひとりだけ、それはもう嬉しそうに笑みを深めている者がいた。確かに彼の思惑通りになったのだが。竜崎は彼の傍にいる女子のことが、少しばかり可哀想に思えた。

「では一班と三班が野菜苗の植え付け体験、二班と五班が陶芸体験、四班が機織り体験、六班がガラス細工体験です。あとは班長中心に当日講師の皆さんに聞きたいことなどを決めておくように」
「「はーい」」

 竜崎は言い終えると黒板に決定事項を書いて椅子に座った。そして、もう一度生徒たちを見渡した。

 そこには満面の笑みを浮かべたユージの隣に座るユアが、思い切り目に力を込め、眉を寄せた鬼の形相で黒板を見つめていた。

「やった、マリと同じ陶芸だ~」
「ユージ、二班が陶芸って知ってたの?」

 ユアはユージに静かに問いかけた。彼から偶然というよりは予想通りと言わんばかりの余裕を感じ取ったからだ。

「ううん。俺が先生に報告したときは他の班はまだだったし。偶然だよ、余計に嬉しいな~」
「そう……」

 ニコニコと笑うユージにユアは歯切れの悪い返事しかできなかった。とにかく計画が台無しになってしまったからだ。

 そして、彼の言葉が嘘であることもわかっていた。

 おそらくユージは二班が選びそうなテーマを先回りして選んでおいたのだ。学年で三本の指に入る彼の頭脳と、広い交友関係で把握しているクラスメイトたちの趣向を組み合わせれば、予測などたやすいに違いない。

「ユア、よかったよね? 嬉しくない?」

 ユージが俯くユアの顔を覗き込んだ。彼の笑顔に否定など、できるわけがない。

「ううん、よかったね。マリも一緒で楽しみ!」
「そうだよね、楽しみだね~」

 ユアがユージに笑顔で返事をすると、彼は笑顔で頷いた。こうしてユアの心に小さな棘を残したまま、一年二組の五月が本格的に始まった。
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