麗しのマリリン

松浦どれみ

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4月

4−1席替え

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「マリ~! 俺がいないうちに消えてるの寂しかった~」

 マリが教室へ入った途端、そう言ってユージがグループの方へ彼女を連れて行く。みんなはトモの席を中心に集まっていた。

「ちょっとユージ、押さないで」

 マリはグループの方へ向かいつつ振り返り新堂を見たが、すでに彼は着席して何事もなかったかのように背景に溶け込んで気配を消していた。
 窓際の自席に着くときにもう一度彼に視線を送ると、新堂も自分の方を見ているようだった。眼鏡と前髪で、目が合っているかまではわからない。しかし、彼の口元が微笑んでいるのがわかった。
 マリは自分の胸がほんの少し高鳴ったことを自覚して、恥ずかしくなった。

「マリ、どこ行ってたの?」

 同じグループのさくらがマリの顔を覗き込む。グループにはユージとトモ、さらにユージと中学で同じクラスだったユアとさくらがおり、休み時間を一緒に過ごすことが多かった。放課後は彼女たちは部活があるため、テスト期間や部活が休みのとき以外は校内だけでの付き合いが多い。

「大学の食堂に行ってた。昨日雑用したら竜崎先生がチケットをくれたの」
「え、制服で? ひとりで?」

 当然の疑問が返ってきた。マリは感情の変化を悟られないように平静を装って答える。

「ううん。昨日一緒に手伝った、新堂と」
「ん? 誰? このクラス?」

新堂の自己紹介が聞こえたクラスメイトはほんのわずかな彼の周りだけなので、ユージとマリ以外は新堂が誰かわからなかった。

「そうだよ。ほら……」

 新堂の席を指そうとしたとき、始業のベルが鳴り竜崎が入ってくる。

「全員席戻れよー。日直!」

 隣の席のトモ以外は、自分の席へと戻る。全員が席に着くのを確認して日直が号令をかけた。

「起立、礼、着席」

 全員が着席すると、竜崎が教卓に箱を置いた。

「予告通りこれから席替えをします。くじ引きな。学級委員はくじを引いてもらう係と、記録係頼む。廊下側と窓際の列の先頭はジャンケンをして勝った側から引くように」

 学級委員とジャンケンをする生徒が立ち上がる。窓際の先頭はユージだ。

「よし、一発勝負! ジャーンケーンポン!」

 大きな声で廊下側の生徒とジャンケンする。ユージはチョキ、相手はパーを出していた。

「やった、勝った! 俺、マリの隣がいいです!」

 ユージは満面の笑みを竜崎に向けた。彼はそれをあしらう。

「ユージ! くじ、一番に引いていいぞ。選び放題だな」
「え、勝ったら好きな席じゃないの?」

 授業冒頭の竜崎の話を聞いていなかったのか、くじと聞いてユージは少しうなだれた。

「……最初にくじと言っただろう。早く引くんだ」

 ため息混じりに竜崎が答えると、学級委員がくじの入った箱をユージに差し出した。箱に手を入れ、しばらく選んでから一枚引く。

「これだー!! マリの隣!」
「ユージくん三二番」

 周りがくすくすと笑う中、記録係の学級委員が淡々と記録してユージを通り過ぎた。そして、マリの番もやってきた。

「マリちゃん五番」

 マリが引いたくじを見せると学級委員は記録して次の列へ向かう。直後にユージが席を立った。

「マリー! 何番?」

 マリの元へ歩きだそうとしたところで、竜崎が割って入った。

「ユージ、席で待機!」
「はあい」

 ユージは諦めて自分の席に着く。口元を尖らせ、不貞腐れている。

「ユージ、私三三番だよ! きっとまた近いね」

 ユアが目尻と口元を寄せ微笑みながら、隣の席のユージに声を掛けた。

「よろしく~」

 口を尖らせたまま、ユージが返事する。

「マリ、何番だろ? 近いといいね」
「マジでね! 隣がいい~教科書忘れて永久に机くっつけたい!」

 チクリ、とユアの胸が痛む。少しでも長く会話したいがために、思ってもいないこと言った。自分にはそこまで興味がなさそうな彼は、マリと言うだけで饒舌になるからだ。

「ユージ、それはヤバイよ。ちなみに私は一二。ちょっと離れてるかな?」

 ユアの後ろの席のさくらが軽く身を乗り出して話に混ざる。

「何番がどこって、まだ聞いてないよね」

 ちょうどいいところで会話に入ってくれたと、ユアはホッと胸を撫で下ろしつつ言葉を返した。

「とにかく俺はマリの隣がいいよ~」
「ユージはブレないなあ」

 さくらがそう言って呆れつつ笑う。彼女は一緒に同調して笑っているユアが、無理をしているのを知っていた。小学校から地域のバレーチームで一緒だったふたり。入学直後に「隣のクラスに王子様がいる」とユアが騒ぎ始め、二年で同じクラスになったのをきっかけに仲良くなった。

 そして、すぐにマリを紹介された。付き合っていると噂のふたりが付き合っていなかったことにユアは安心し、マリとも積極的に仲良くしようとしていた。

 あれから二年、ユアはユージのマリへの一途な気持ちに苦しみながら、それでも希望を捨てきれず、恋心と嫉妬で感情が揺れている。さくらはそんなユアの気持ちに、中途半端な助け舟しか出せないでいる自分が情けないと感じていた。
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