死神の鎮魂歌

田華一真

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第二話 ①

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あの日から六ヶ月間。拓也はバイトに明け暮れていた。

他の人を探す!と、金子に会いたくない一心で和樹の提案を跳ね除けた。ボーカルは元よりドラマーも見つからないまま時間だけが過ぎる。

何も決まらずエレメントはもはやボーカル不在のツーピースバンド。実質活動停止状態だった。

尚人との連絡も付かなくなった。和樹とも連絡は次第に少なくなっていった。SURFに行く事も殆どない。

『引き際が肝心』という言葉が心の中で色を濃くしていった。



「拓也くんお疲れ様」

バイト先である居酒屋の店長である直美は賄い料理を出す。ありがとうございます。と拓也は晩飯に在り付く。

バンドどうなのよ?今一番聞かれたくない事を店長はニコニコしながら質問した。

「まぁ、ぼちぼちです」

そんな訳がなかった。拓也の顔から笑顔が消えた。バンドの事を考えただけで食欲が無くなる。辞めてしまった方が楽かも。などという感情まで過るようになった。



直美はバイトの数が増えた事で何かを察したようだ。拓也の一生懸命に働く姿勢を買っていた。

「ぼちぼちか。っま色々あるわよね~」

無理すんじゃないよ?あたしでよけりゃ話聞くからね。笑顔でそう言うと気を利かせて厨房へ戻っていった。

拓也は釈然としないまま悶々と焼きそばを啜った。


◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


拓也がそんな事になっているとはつゆ知らず、和樹ら御構い無しに躍起になって動き続けていた。

あの日の夜、拓也に向かってお前の夢は俺の夢だ!などと酔った勢いで言ってしまったが為に引くに引けなくなっていたのだ。

尚人へメールを送り電話も掛けたが音信不通。あれ以来SURFで顔を杯を交わす事もなかった。いつも二人でドンチャンやっているSURFが、今日はまるで葬式の様に静かだった。

金子へも連絡を取るが拓也の名前を出すと会うことを拒絶。食い下がって俺とだけでもいいから久々に会おう!とメールした。

粘った甲斐あって最終的にはお前と会う分には構わないと、約束を漕ぎ着ける事に成功。曲がりなりにも事は進んでいった。

会えればまだ可能性はある!と、和樹はそこに突破口を見出す。そして酒と音楽の力を織り交ぜた方法を案出した。



今日の為にやっとの思いで予約した店。待った期間三ヶ月。和樹は思わず、俺は彼氏か。と自分に突っ込みを入れた。指定した待ち合わせ場所であるJAZZバー" ブルームーン"へ向かった。

JAZZ好きには堪らないこの店。その界隈では知らない者はいない。世界の名高いJAZZプレーヤー達の写真が飾られた装飾、日替わりで色々なバンドが行う生演奏、美味い酒。その全てを楽しめる事が店の売りである。

金子が類を見ない程のJAZZ好きである事、酒好きを知っていた和樹は、予約困難と言われているライブ時間の席を粘りに粘って確保。予約キャンセルの表示が出るのを携帯画面にしがみ付いて得た努力の結果だった。

ここまできたら後は野となれ山となれだ!と、自分を奮い立たせる。



和樹が到着すると金子は既に入り口前に待ちきれない様子で店の入り口からまじまじと店内を眺めていた。

お疲れさん。そう言って肩を叩く。驚いた金子はビクっと身体を震わせて変な声を上げた。

「おぼっ!」

腰を抜かし足を踏み外してよろめく。平常心を装い和樹の方を振り向く。久しぶり、と渋い声で挨拶をした。何事も無かったかのようにクール顔でその場を済まそうとするが目は泳いでいる。

5年振りの再会。多少の心地悪さを感じない訳がない。それは和樹も同じだった。

そうして気不味さを残したまま店の中へと進んだ。



店に入ると予約したカウンター席以外は全て満席。いかに人気が高い店なのかが窺える。

更に夜のライブを聞こうと、ステージ前にはフロアを埋め尽くす程の聴衆が集まっていた。

ステージから少し離れた、一段高い位置にあるバーカウンターの予約席に座る。二人は同じ酒を頼んだ。

ウイスキーとロックアイスの入ったグラスがカウンターに置かれる。二人は手に持ったロックグラスを重ねる。その際に鳴った透明な音色は、二人の再会を祝うかのように重苦しい空気を裂いた。

同じタイミングでテーブルにグラス起き、同じように溜息を吐く。

息の合った行動は思わず二人の頬を緩めた。



「久しぶりだな。元気してたか?」

先に口を開いたのは金子だった。

拓也の一件から連絡を途絶えていたものの、元々仲が良かった和樹との再会は、金子にとっても満更ではない事だった。

「あいも変わらず、サラリーマンやってるよ。勿論、バンドもな」

バンドの話で拓也を思い出した金子は、そうかと一言呟き苦笑い浮かべた。

そしてまた、ウイスキーを口に含むと釈然としない様子で思い耽った。
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