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One hundredth time「少し」
1話
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私の胸元や首すじに、次々と押される所有のしるし。
確かにそんなことを言い出したのは私の方だと思う。
そしてそれから。 性急なキスのあとにデッキの上に突然倒された。
胸や肩を押し返そうとするもタクマさんの体は微動だにしない。
「待っ……ここ…そ、外…っ」
ここの周辺に家などはないといっても、屋外でなんて。
仰け反って逃げようとすると顎や喉に彼の唇が当たる。
体を捻ろうとすると耳の後ろをぞろりと舐められる。
「……た…タく」
さらに困ったことは、そのたびにゾクゾクしてしまう自分の体。
段々と先細りになっていく抵抗の声も、ただの吐息に変換される。
どことはいわず衣服の上から私の体中を彼の手が這う。
確かめるように、探るように。
ちゃんとここに居るよ。 そう言いたくなるほど、私の形を彼の手のひらや指が衣服越しの肌をまさぐってくる。
目を閉じているタクマさんはなにかに憑かれてでもいるようで。
お酒を飲み過ぎたのかとも思ったけど、せいぜいグラスを一、二杯空けただけなのに?
背中に回された手が襟ぐりのファスナーを見付け、難なくそれを剥いでいく。
ふっ、と胸の窮屈さがなくなりブラのホックも外されたのだと分かった。
「……ぁっ」
その際背中を引っ掻かれた指先に、小さな、だけどあからさまな声が出た。
急に体に乗っていた重みがなくなる。
薄目を開けるとタクマさんが体を起こして私に視線を落としていた。
「……何してんだ、こんなとこで」
それ、私のセリフですから。
おそらく真っ赤になってるであろう顔で、プルプル震えてる私をしばらく見ていたタクマさんがハア、とため息をつきながら髪を掻きあげた。
「……悪い」
ひと言そう言ってデッキに膝をつき、私の背中と膝の裏に腕を入れる。
そのまま持ち上げられ慌てて彼の首にしがみつく。
それから私の頬に唇をつけた。
「……オマエ、時々出現する謎の煽り上手なんとかしろよな」
「わ、私がこうなるのは、タクマさんにだけだよ」
先ほどから触れられていた体を抱き上げられて、擦れた肌に身動ぎをし、何度かに分けて息を吐く。
無言のタクマさんにそろっと視線をあげると、なぜか顔を逸らされた。
「オマエの部屋でいいか」そう訊かれた答えの代わりに、きゅっと彼に抱きついて、そしたら「それ以上やんなら投げるぞ」などと怖いことを言う。
「……でもオレ、ゴム。 車ん中にあったっけ」
「私、あるよ?」
間を置いて「なんで」と言うので、
「お母さんが持っていきなさいって。 特売用で10箱。 安かったんだって」
そう返事をすると。
「……そつ無くいい親な。 で、またも百回か。 これも死ねそう」
口許だけで小さく笑った。
着替えていたTシャツを脱いだ、タクマさんに見蕩れる間もなく。
ベッドに下ろされた私の脇に彼が手をついた。
肩に回された腕が私をベッドにゆっくりと横たえる。
私を見詰めるタクマさんの瞳はとても穏やかで、それが私の強張りをほぐさせた。
明かりのついたダイニングの奥。
私の薄暗い部屋の壁に、重なった黒いシルエットが浮かび上がる。
「大好きだよ」
思わず涙ぐんで言い、押し黙った私。
彼が薄く笑いを洩らした。
「なにげに、圧を感じんだけど……」
「オレも好きだって」そう笑いながら口付けてきて、つられて私も可笑しくなった。
でも、彼は今、本当はどう思ってるんだろう。
「今……なに考えてるの? もしかしてまた……私の子供の頃のこと、思い出してたりする?」
軽く唇を合わせながら言うと、「……いや」と、私の肩からするりと衣服をはだけさせた。
「そんなの考えんのは、余裕があるときだな」
タクマさんが私の胸元に付けた、いくつかの花びらの跡。
つつとそれを指でなぞり詫びるように舌でなぐさめる。
それを合図にカチッ、と耳に聞こえないスイッチを入れられたようだった。
私の体を淫らに変えるそれは、タクマさんだけが持っている。
確かにそんなことを言い出したのは私の方だと思う。
そしてそれから。 性急なキスのあとにデッキの上に突然倒された。
胸や肩を押し返そうとするもタクマさんの体は微動だにしない。
「待っ……ここ…そ、外…っ」
ここの周辺に家などはないといっても、屋外でなんて。
仰け反って逃げようとすると顎や喉に彼の唇が当たる。
体を捻ろうとすると耳の後ろをぞろりと舐められる。
「……た…タく」
さらに困ったことは、そのたびにゾクゾクしてしまう自分の体。
段々と先細りになっていく抵抗の声も、ただの吐息に変換される。
どことはいわず衣服の上から私の体中を彼の手が這う。
確かめるように、探るように。
ちゃんとここに居るよ。 そう言いたくなるほど、私の形を彼の手のひらや指が衣服越しの肌をまさぐってくる。
目を閉じているタクマさんはなにかに憑かれてでもいるようで。
お酒を飲み過ぎたのかとも思ったけど、せいぜいグラスを一、二杯空けただけなのに?
背中に回された手が襟ぐりのファスナーを見付け、難なくそれを剥いでいく。
ふっ、と胸の窮屈さがなくなりブラのホックも外されたのだと分かった。
「……ぁっ」
その際背中を引っ掻かれた指先に、小さな、だけどあからさまな声が出た。
急に体に乗っていた重みがなくなる。
薄目を開けるとタクマさんが体を起こして私に視線を落としていた。
「……何してんだ、こんなとこで」
それ、私のセリフですから。
おそらく真っ赤になってるであろう顔で、プルプル震えてる私をしばらく見ていたタクマさんがハア、とため息をつきながら髪を掻きあげた。
「……悪い」
ひと言そう言ってデッキに膝をつき、私の背中と膝の裏に腕を入れる。
そのまま持ち上げられ慌てて彼の首にしがみつく。
それから私の頬に唇をつけた。
「……オマエ、時々出現する謎の煽り上手なんとかしろよな」
「わ、私がこうなるのは、タクマさんにだけだよ」
先ほどから触れられていた体を抱き上げられて、擦れた肌に身動ぎをし、何度かに分けて息を吐く。
無言のタクマさんにそろっと視線をあげると、なぜか顔を逸らされた。
「オマエの部屋でいいか」そう訊かれた答えの代わりに、きゅっと彼に抱きついて、そしたら「それ以上やんなら投げるぞ」などと怖いことを言う。
「……でもオレ、ゴム。 車ん中にあったっけ」
「私、あるよ?」
間を置いて「なんで」と言うので、
「お母さんが持っていきなさいって。 特売用で10箱。 安かったんだって」
そう返事をすると。
「……そつ無くいい親な。 で、またも百回か。 これも死ねそう」
口許だけで小さく笑った。
着替えていたTシャツを脱いだ、タクマさんに見蕩れる間もなく。
ベッドに下ろされた私の脇に彼が手をついた。
肩に回された腕が私をベッドにゆっくりと横たえる。
私を見詰めるタクマさんの瞳はとても穏やかで、それが私の強張りをほぐさせた。
明かりのついたダイニングの奥。
私の薄暗い部屋の壁に、重なった黒いシルエットが浮かび上がる。
「大好きだよ」
思わず涙ぐんで言い、押し黙った私。
彼が薄く笑いを洩らした。
「なにげに、圧を感じんだけど……」
「オレも好きだって」そう笑いながら口付けてきて、つられて私も可笑しくなった。
でも、彼は今、本当はどう思ってるんだろう。
「今……なに考えてるの? もしかしてまた……私の子供の頃のこと、思い出してたりする?」
軽く唇を合わせながら言うと、「……いや」と、私の肩からするりと衣服をはだけさせた。
「そんなの考えんのは、余裕があるときだな」
タクマさんが私の胸元に付けた、いくつかの花びらの跡。
つつとそれを指でなぞり詫びるように舌でなぐさめる。
それを合図にカチッ、と耳に聞こえないスイッチを入れられたようだった。
私の体を淫らに変えるそれは、タクマさんだけが持っている。
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